惚れた腫れた(シカマル) | ナノ
だからお見合いなんて嫌だと言ったんだ。
「いやしかし綺麗でお上品な娘さんですな。ウチのダルッダルな息子には勿体ない」
「いえいえシカマルくんこそ、その若さでもう重役の右腕だとか。頭脳明晰と聞きますし、このじゃじゃ馬にも見習ってもらいたいくらいで・・・」
ダメだ。さっきから親同士しか話してない。
チラッと盗み見ると向かい側に座っている男は眠そうなアホ面でボーッとしていた。あ、隠れてあくびした。ふざけんなよコラ。
親の仕事の相手先かなんか知らないがやっぱりお見合いなんてするべきじゃなかった。だってホラあっち全然やる気ないじゃん。私だって仕事の付き合いだと頼まれて渋々来ただけだし。正座きついし疲れたし、もう帰っていいかな。昼ドラの続きが気になる・・・
「さて、じゃあ後はお若い二人でということにしましょうか」
「えっ」
「ゆっくり食事でもしていなさい。シカマルくんに迷惑かけるんじゃないよ」
「ちょっ待・・・」
パタン。
無情にも閉められた襖に開いた口が塞がらない。
訪れる沈黙。信じられない何この状況。私たちまだ自己紹介でしか会話してないんだけど!ああもうあの親父ったら!
「足、崩せば?」
「は?」
え、誰の声?と思って正面を向くと、シカマルくんがネクタイを弛めながらフーッと息を吐いていた。
「えっと・・・」
「足痺れてんだろ?」
「へ、」
「ずっと身体プルプルさせてるし、チラチラ周り見てたし。つかまあそんな着物着て正座してりゃ誰だって痺れんだろ」
そう言い放ったシカマルくんはいきなりゴロンと横になった。自由すぎる。
「べ、べっつに痺れてなんかないです!」
「んだよ素直じゃねーな。構わねえよ誰も見てねえし」
「痺れてないですってば!」
「ふは、可愛いくねー女だな」
あ、笑った。笑うとますますお父さんに似てる・・・気がする。シカマルくんは横になったまま覇気のない声で喋り始めた。
「アンタも乗り気じゃねーんだろ?この見合い。俺も無理に来させられたんだよ」
「でしょうね。アクビしてましたしね」
「見てたのかよ。お前ぜってー性格悪いだろ。セリフがいちいちうちの母ちゃんにそっくりだ」
「親は大切になさい」
「しかし腹が減ったな」
「聞けよ」
シカマルくんはむっくりと身体を起こしてテーブルの上のメニュー表を一瞥した。色とりどりの料理が少しずつ盛られているものばかりだった。
「なんつーかな、俺懐石料理って苦手なんだよな」
「ああそれはあるかも。なんか味に品がありすぎて美味しさが分かりにくいって言うか」
「だろ?食った気しねーしな」
「あるある。それに絶対効率悪いよねこんなの少人数に作るなんてさ。もっとガッツリ作り甲斐があるものをさ」
「へー・・・」
シカマルくんが珍しいものを見るようにこちらを凝視してきた。
「な、なに」
「意外とお前とは上手くやって行けそうだな」
「は!?」
「とは言え今日は仕方ねー、どっか食い行くか」
「え、ちょ!」
シカマルくんはぐいっと私の腕を掴んで引っ張りあげ、なんと私をお姫様抱っこした。
「し、シカマルくん!?」
「あ?この近くに安くて美味い定食屋があんだよ。そこ行こうぜ。まあ女だし奢ってやるよ」
「へ・・・!?じゃなくて下ろしてよ!」
「足痺れてんだろ?着物なんだからおぶるわけにもいかねえし。早くしねーと親父たちにどやされるぜ」
「だからって!」
「あーいちいちめんどくせー女だな。安心しろここから出たら下ろしてやっから」
「うわっ」
そう言って走り出したシカマルくんの走るテンポと鼓動が重なる。
なにこいつバカじゃないの。ついでにドキドキしてる私もバカじゃないの。あーバカバカ、こんなはずじゃなかったのに!