砂浜ロマンティック(幸村) | ナノ
その電話を取ったときは思わず小躍りしそうになった。


「あっもしもし、明日よかったら海に行かない?場所はあそこの浜辺の・・・」

ただ今絶賛片想い中の幸村からのまさかの誘いだった。え、ちょ、待って心臓の準備が・・・!パニックに陥りながらも「行く!」と即答すると、幸村は受話器の向こうで優しく笑った。

「それじゃあ朝9時に着替えて来てね」
「う、うん・・・」
「じゃ、お休み」
「おやすみっ・・・!」

通話が切れると心臓の高鳴りをいっそう感じた。興奮を抑えきれずベッドの上でじたばたした。やば、やばい・・・まさか好きな人に海に誘ってもらえるなんて・・・もしかして幸村も私のこと・・・!

「はっ」

ていうか水着!水着どうしよう!あーこんなことになるって分かってたならダイエット頑張ってたのに!何でこんな急に・・・!慌ててタンスを引っ掻き回しながら、それでも顔のにやけが止まらなかった。







「ハイ、みんな時間通りに集まってる?」
「幸村くーん、仁王が道路で轢かれそうだった女の子を助けて遅れるって」
「仁王・・・アイツ一回何とかしないとね」


「・・・・・・」


午前9時、浜辺にユニフォームで整列した立海テニス部員の前で幸村は声高らかに宣言した。

「みんな、テニスは楽しまないと強くなれないらしい。そして部活を楽しんでいると言えば六角中だ。そこで今回は六角中の練習を取り入れた潮干狩り大会を決行する!」
「イエーイ!」
「なお今日は一番多い収穫をあげた者に一週間分の食堂タダ券を進呈する。記録員はもちろんマネージャーの彼女だ」
「・・・・・・」
「さあみんな、頑張って成果をあげてきてくれ!」
「オオオオ!」

タダ券!タダ券!と合言葉のように唱えながら部員たちは方々に散らばった。


「・・・」
「あれ?どうしたんだい、採らないの?」

涼やかな笑みを向ける幸村に殺意がわいた。




「あんのヤロー!」

部員たちとは離れた浜辺で、私はスコップを砂に突き立てた。

はいはいどうせたまの休みを私なんかに使うわけないですよね!ロマンティック期待した私が間抜けでしたよね!紛らわしい言い方しやがって!トキメキを、トキメキを返せ!一人で浮かれちゃってバカみたい。


「なーにが『採らないの?』だよアイツ・・・」
「それもしかして俺の真似?」
「わっ!」

いつの間にか背後から幸村が私を覗き込んでいた。もしかしなくても今の、聞かれた・・・!?


「な、なに!」
「水着、ビキニなんだね」
「!」

よいしょ、と幸村が私の隣にしゃがみこんだ。

「似合ってる。可愛い」
「っ、」

鼓動が一気に速くなる。さっきまであんなに怒ってたのに、幸村が柔らかく笑うだけでささくれだった気持ちがしゅんと丸まってしまう。こんなのズルい。ズルいよ幸村。


「・・・私のこと間抜けだって思ってるんでしょ?」
「何のこと?」
「惚けないでよ!」
「そうだな、ひょっとしたらって気がしてたけどまさか本当にここが潮干狩り用の浜だって知らないとは思わなかったよ。君地元民だよね?」
「もういい!」


ぷいっとそっぽを向くと、幸村が「だけど」と付け加えた。


「可愛い水着着てきてくれるかなーって期待はしてたんだよね」
「えっ」
「普通の海水浴場で、君の水着を人目に晒すのはすごく嫌だったんだ」
「・・・!」

え、それは、どういう・・・!顔に熱が集まってどうしようもなく恥ずかしい。チラリと幸村を見ると、幸村は海岸の方に目をやってため息をついた。

「でもここでも失敗だったみたいだ。さっきから赤也たちがジロジロ見てる」
「え!?」
「うん、見せ付けておくのも悪くないかな。ね?」
「え、あ」


一瞬だった。

ぽかんとする私をぎゅっと抱き締め、頬に、幸村が唇を寄せた。


「・・・・・・」
「ふふ、顔真っ赤」
「っ・・・ちょ、なに・・・!」
「ねえ、君のこと貰ってあげるから、今後俺の前以外で水着にならないっていうのどう?」
「なっ・・・!」


「何なら今度は口にする?」と寄ってくる幸村に肩を掴まれ、動けない。遠くで誰かが騒ぐ声がする。見られてる。そう思うのに平然としている幸村がすごく男前に見えた。ああ何てことだ、まだロマンスは始まってもいなかったんだ。




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