四話 | ナノ
ところが黙って見ていられない事態が起きた。
『3年A組の女子学級委員、3年A組の女子学級委員、至急生徒会室に来てください』
「・・・・・・」
「ね、これアンタじゃないの?」
昼休み、一緒にお弁当を食べていた佑子が流麗なアナウンスを告げたスピーカーを見上げた。
「そうだね・・・」
「何なんだろーね。至急って言ってたし早く行った方がいいんじゃない?」
「うん、行ってくる・・・」
どうしよう悪い予感しかしない。
先日、現職役員の推薦で(どれほどの圧力がかかっていたかは考えないことにする)景吾坊っちゃまは晴れて高等部生徒会長に就任した。
まさかね・・・と思いつつ、生徒会室のドアをノックする。
「入れ」
げっ
紛れもない。坊っちゃまの声だ。
「失礼します・・・」
そおーっと入ってみると、中にいたのは景吾坊っちゃま、そして坊っちゃまの友人の忍足くんだった。
忍足くんは入ってきた私を見て軽く目を見張った。
「へえー・・・3年A組の女子学級委員ってこの子やったんか」
「お前には関係ねえことだ。さっさと戻れ」
「はいはい、キングは手厳しいなあ」
去り際に私にウインクを飛ばして忍足くんは出て行った。いよいよ景吾坊っちゃまと2人きりだ。校内でこうして2人になるなんて何を考えておられるのやら。
「あの景吾坊っちゃま、何か」
「校内に他の使用人はいねえ。『坊っちゃま』なんて付けなくていい」
デスクにもたれていた坊っちゃまが私に近づいた。
「景吾、でいい」
「ですが・・・」
「俺様の言うことが聞けねえのか、あん?」
「うっ」
『坊っちゃま』と呼ぶなと言うくせに主人の権限をひけらかすなんて不公平だ。
「・・・跡部くん」
坊っちゃまが私を睨んだ。
「どうやら俺様の言った意味が分からなかったらしいな」
「校内で私が『景吾』などと呼べばあっという間に噂が立ちます。それで、何のご用ですか」
「・・・いいだろう」
坊っちゃまはため息をつき、私を見据えた。
「今からお前には会長補佐として生徒会に入ってもらう」
「は?」
真顔で聞き返してしまった。
「な、何を言うんです!?」
「樺地は中等部なんだ。代わりにお前がやるのが適当だろ」
「でもっ」
「中等部の時はお前は確か料理部に入っていたから誘わなかったが・・・何でやめた?」
「何でって・・・」
テニス部ファンクラブメンバーの溜まり場と化したからですよ!
「それにしたってハタから見たら不自然です!私なんか会長とは全く接点はないし・・・」
「甘えな」
坊っちゃまはフフンと不敵に笑った。
「お前は中等部の時から学級委員をやっていた上に成績も優秀。教師にも気に入られてよく頼まれ事をされるらしいな。会長補佐として推薦するには余りある実績だ」
「っ・・・!」
「ま、そんなわけでテメーは今から俺様の補佐だ。卒業するまでしっかり働けよ、ハッハッハ!」
「・・・・・・」
私は実は不幸の星の下に生まれてきたのではないかと思った。