スクラム崩壊(四天) | ナノ


「ほ、本日漬けでこの高校に赴任して来ました。担当は地理です。皆さんと同じ三年生を教えます。新人でご迷惑を掛けることもあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします!」

何度も何度も脳内シュミレージョンした通りに頭を下げた。念願の教師になって初めての仕事仲間だ。悪い印象は与えたくない。よし、ここで拍手が起きる・・・と思ったのに頭上から降ってきたのは大袈裟なため息だった。


「ハア、全然あかんな」
「は?」

明るい髪色の背の高い男性が「やれやれ」と頭を横に振った。左腕に包帯を巻いているがケガでもしたのだろうか。どうやら学年主任らしいその先生は私にズイッと顔を近付けてきた。今まで見たことの無いほど美形だった。

「ここは天下の四天宝寺高校や。そんな無個性のテンプレート通りの挨拶なんや求められてへん。生徒にもナメられてまうで?」
「は、はあ・・・」
「よっしゃ!ここは一つ四天宝寺教師陣のバイブルこと白石先生がお手本見せたろ」

そう言って白石先生は職員室のホワイトボードにバン!と手を押し当てた。私の横にいたピアスをたくさんつけた・・・確か財前先生がボソッと「金八の見すぎや」と呟いた。

「ええか諸君!長い人生の中でこの学校で過ごす時間は短い。しかしかけがえのないものや。この貴重な時間を共に過ごす俺らの出会いはまさしく無限の可能性を秘めた運命!俺と君の愛の共有結合!そんな俺は化学担当・白石蔵ノ介です」
「ハイ!カットオオ!」
「・・・なんや謙也」

今度は金髪がヒョコヒョコした先生がホワイトボードの前に走り出て来た。忍足先生だ。

「アホか!お前の挨拶は長い上にキモいねん」
「そうかあ謙也には俺の愛の講義が伝わらんのかあ残念やなあ」
「おまっ!何やその哀れみの目!昔馴染みやからって!」
「ハイハイ、ほんなら謙也やったらどんな風に言うんや」
「よくぞ聞いてくれました。ええか、こういうのは掴みのファーストインパクトが大事なんや!」

フフン。と自慢気に鼻を鳴らして、忍足先生はビシイッと私を指差した。え?

「問題です、俺の担当教科は何でしょう!」
「ええっ、すみませんまだ覚えてません!」
「じゃあヒント!俺は足がむっちゃ速い!何せ異名は『浪速のスピードスター』や!」
「すぴ・・・?えっと、体育「と思うやろ?そこで裏をかいて実は数学教師やねん!イエイ!」

「・・・・・・」

「・・・え、あの、何か反応くれへん?」


「情けないなあ」と忍足先生の肩に肘を置いたのは美術担当の一氏先生だった。何故か目に変な布を付けている。

「同じ数学教師なのに小春に比べた謙也の惨めさは救いようがないな!」
「何やと!?」
「あらユウくんったら照れちゃうじゃないのん!」


ええっと・・・?

小春と呼ばれた坊主頭の金色先生と一氏先生が、抱き合っている。これってつまり、いわゆる・・・もんもんと考えているとバチッと金色先生と目が合った。


「うふ、詮索してはるの?」
「あ、いや、そんなつもりは・・・」
「そんな遠慮しいひんでも、アナタ可愛いから特別に私の秘密教えてア・ゲ・「ゴルアア浮気か!死なすど!」

こ、この2人には関わらないようにしよう・・・



「そんな辛気くさい顔せんでもあの人らのことなんか軽く流しとけばええんや」
「え」

不意に財前先生が私の肩をポン、と叩いた。

「ありがとうございます。優しいんですね」
「・・・別に?あの人らのアホさは真剣に関わるだけ無駄やから忠告」
「はあ」
「ちなみに日本史の石田先生はまともそうに見えて一番ディープやから」
「そ、そうですか・・・ちなみに石田先生は今どこに?」
「噴水で修行中や」

確かにディープだ・・・



「なあ、そう言えば金ちゃんたちはどこ行ったん?」

忍足先生がキョロキョロして言った。どうやらこの学年にはまだ先生がいるらしい。白石先生も壁時計を見て首を傾げた。

「ホンマやな。新しい先生が来るから集合言うといたんに、あのゴンタクレめ」
「・・・金ちゃん?」
「ああ、体育の遠山先生のことや」
「金ちゃんは教頭に捕まっとるばい」
「わっ!」

いつの間にか隣にいた人のあまりの大きさにびっくりした。一氏先生が「教頭にい?」と間抜けな声を出した。

「何でもこの前の備品整備ん時に二十段の跳び箱を入れてしまったらしか。金ちゃんは自分の目線で考えてしまっとるけんね」
「あ、あの・・・?」

私に気付いたのか、その大きな人はニコッと笑った。

「ああ、新しい先生ね。またむぞらしか先生が来たばいね。俺は千歳千里。世界史担当たい」
「千歳先生ですね、よろしくお願いします!」
「これで全員の先生の名前覚えたな?自分も今日からこの学年の一員や!」

白石先生が嬉しい言葉と共にポンポンと頭を撫でてくれた。何やら個性的な先生たちばかりだったけど、新しい職場への希望に胸がときめく。・・・よし、これから頑張るぞ!



「なあなあ小春、俺たち三年の教師って9人はおったよなあ」
「ユウくんそれがどうかしたの?」
「どうも8人しか紹介してへん気がする」
「えーまさかあ」





「・・・生物担当の、小石川です・・・」



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