してやられた(丸井) | ナノ


高校生になれば何かが変わると思ってた。でも蓋を開けてみれば登校する校舎は隣に移っただけで、テニス部のメンツも同じだし、なぜか教室に仁王もいた。真新しい制服の肩が余る違和感が三年前を思い出させる。赤也は今頃何してっかなあ、と思いながらベルトに手を掛けた。


「あ、丸井早いね」
「・・・ちーッす」
「ところで部誌見た?」
「あそこの机の上、」
「ホントだありがと」

おいおいどうしてそこで座るんだよ俺パンツ一丁じゃん何落ち着いてんだこの女。そうして今まさに部誌を開いた先輩は、あろうことか俺の方を向いて書きこみ始めた。


高等部のテニス部には一つ年上のマネージャーがいた。高等部から編入したらしいが、これがまたお目にかかったことがないくらいサバサバした女だった。俺たち後輩への暴言は日常茶飯事で、テストを勝手に見るわ、お菓子盗み食いするわ、この前なんてサボッて日陰に逃げてた仁王のケツを蹴り飛ばしていた。

でもざっくばらんだけど仕事は早いし気が利く。彼女はいわゆる「有能」ってやつで、先輩からも頼られていた。経験から 近くにくる女=ミーハー の方程式を作りあげていた俺にとっては、はっきり言おう。不可思議だった。そんなこんなで先輩は俺が高等部に入って初めて出会った「変化」と言ってもよかった。



あ、また。

垂れた髪を耳にかけるのがこの人の癖だ。物を書いているときや洗濯をするとき、チラッと覗く白い首筋を見ると、何だかいつもの男まさりな先輩に一泡ふかされたような気分になる。手首がすごく細い。短く切られた爪は、俺たちの口に入るドリンクや食べ物に携わっているという責任感からだということをみんな知っている。

先輩はまあまあ可愛い方だけど、こんな性格だからか浮いた話を聞かない。なにしろ色恋沙汰より友だち!部活!って感じの人だ。素直に勿体ないと思った。そういう性格ってちょっと幼い気がする。まあそんなとこが魅力だって人もいるんだろうけど、俺は・・・



「って、」

空気に違和感を感じて目の前の机を見れば先輩は部誌に頭を落としていた。

「ハーア・・・」

ほらね、緊張感ゼロ。平和な顔で眠りこける先輩を見ていたら、さっきまで色々と考えてたのがバカらしくなった。


「ん・・・」
「!」

その時、先輩が頭を少し動かしたせいで、一房の髪の毛が先輩の頬に流れた。

「っ、」

先輩のあの仕草を思い出した。チラチラと揺れる白いうなじが頭に浮かんだ。


触っても、いいだろうか。


突然の衝動に戸惑いながらも気がつけば、この人だって常日頃やってることだと自分を後押ししていた。

そっと頬に触れてみた。指先が当たっているだけなのにあまりに柔らかい。ずっと手を添えていたいという誘惑をこらえて、いつも先輩がしているように優しく髪をかき上げた。映画とかでよく見る仕草だけど、実際はする方もこんなに心地いいなんて。先輩が先輩じゃないみたいだ。その前に俺が俺じゃねえ。

「・・・・・・」

耳に触れたその手を首筋にそらす。息をつめて、指先だけに集中した。なんか先輩、髪も細くて柔い。この人は全身柔らかいもので出来てるんだろうか。



「ね、そんなに触りたかったの?」
「なっ・・・」

先輩の、細い、手首がにゅっと伸びてきて俺の腕を掴んだ。目を細めて笑っている。

「ちが・・・ただの気まぐれに決まってんだろい!・・・っス」
「す?」

だいたいいつから起きてたんだよ!

「じゃあ、いっつも私の首筋見てるのも気まぐれ?」
「っ!」
「あ、やっぱり?確かめてみてよかった」


はめられた

そんなことがどうでもよくなるくらい、俺を見上げる先輩の眼差しは妖艶だった。呼吸を忘れるほどに。薄紅の唇から垣間見える白い小さな歯。その完璧なチラリズムに内心感動した。


先輩の手が俺の手を手繰り寄せて握った。ああ、俺はなんてバカだったんだ。この人は俺なんかよりよっぽど大人で、おんなだった。
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