三話 | ナノ



「てめえアレは何のつもりだ」
「はい?」


夕方、部活から帰ってきた景吾坊っちゃまにお茶を持って行くと、片肘をついた坊っちゃまがそう言った。


「と申しますと」
「とぼけんじゃねえよ。俺様が話してる間チラッチラ隣の男ばっか見やがって」
「あ、」


それは坊っちゃまのせいである。


「彼、テニス部員ですよ。三年前の道場破りで坊っちゃまがトラウマなようでしたのでつい」
「・・・名前は?」
「ええっと確か花本くんです」
「いたな、そんなヤツも」


長い脚を組んで紅茶を飲む坊っちゃまはモデルさながらだ。


「で?」
「は?」
「お前と花本ってヤツはどういう関係なんだ」
「関係も何も、同じクラスになったばかりですよ」
「・・・」


え?え?なに。なぜ景吾坊っちゃまは虚空を睨んでいらっしゃるのですか?いつにも増して目付きの悪い坊っちゃまに一抹の不安を覚えながらも、私はにこりと笑って「紅茶のお代わりはいかがですか」とティーポットを掲げた。坊っちゃまがコクンと頷く。


「入学したばかりなんですからあまり一気に色々しようとなさらないでくださいね」
「フン、そういうのを余計なお世話っつーんだよ」
「ですが、強引なやり方を好まない人だっています」
「うるせえ。ならてめえが満足させてくれるのか?」
「わっ・・・」


坊っちゃまの細い指が私の顎を捉えた。アイスブルーの瞳が間近で私を見上げていて、思わず呼吸を引っ込めた。お盆に置きかけていたポットが音を立てて倒れる。もう中身はあまり入っていなかったはず・・・だけど。とにかく目が逸らせなかった。

私がぽかんとしたまま景吾坊っちゃまを見つめていると、坊っちゃまは突然苦しそうに眉をひそめた。


「坊っちゃま・・・?」
「・・・冗談だ」
「えっ」


景吾坊っちゃまはパッと手を離し、立ち上がりスッとドアの方へ歩いていった。すれ違うときほんのりとフローラルが香った。息が出来ない呪縛から解き放たれて慌てて振り返ると、坊っちゃまは私に背を向けたままドアに手をかけていた。


「坊っちゃま・・・」
「うるせえって言ってんだろ。お前は黙って見てればいいんだよ」

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