二話 | ナノ


景吾坊っちゃまの登校手段はベンツやヘリなど様々だが、私は一般的なバス通学だ。坊っちゃまは一緒に送ると言ってくれるけどそんなことが露見したら一躍話題の人になってしまう。我が家程度の財産では跡部家のような車は買えないのだからどうやったってバレるのだ。


昇降口で上履きに履き替えていると、後ろからポンポンッと肩を叩かれた。


「佑子!」
「おはよー久しぶり!あんた何で昨日の昼からのカラオケ来なかったの?楽しかったのに」
「ははは・・・」


坊っちゃまが友達を呼んで開いたパーティーのお手伝いをしてました、なんて言えない。


一ノ瀬佑子は私のクラスメイトで中等部からの親友で、だいぶミーハーな面があるが明るいいい子だ。そうだ、と言って佑子は満面の笑顔になった。


「今日入学式じゃん!ヤバいまじ楽しみ!今年の一年はイケメン多いらしいよ!」
「へ、へえ」
「し・か・も!あの跡部様がやっと高等部に入学して来るし!あー二年間長かった!もう中等部にテニス部見に通わなくていいんだあ・・・!」
「・・・・・・」
「でもあたし本命忍足くんなんだよ?だけど跡部様のファンクラブも入ってるしなあ。どっちがって言われるとー」


幸せな悩みだ。

最近の高等部女子の話の種はもっぱらこれだった。帝王・跡部景吾とテニス部のイケメンたち。高校にも当然のようにファンクラブがあり、積極的な活動が行われている。放課後はとりあえず中等部へ。遠くで試合があれば遠征へ。さながらアイドルグループである。


そんな王子様たちがとうとう同じ校舎に来るのだ。気持ちが高ぶるのも分かるっちゃ分かる。


「ねえねえお願い!今日一年生の教室回りについて来て!」
「やだ!」
「何でよドケチ友達でしょー!?いいじゃん眼福じゃん」
「いやなもんはいや!」


でもこれは勘弁して欲しい。校内で景吾坊っちゃまに会うのは極力控えたい。秘密がバレたら死にかけると言うことを佑子に伝えられればいいのに!でも佑子はついポロッと出るタイプだからダメだ。


佑子はムッと頬を膨らませてそっぽを向いた。

「もう知らない!ファンクラブの子と行く!」
「へいへいお好きにどうぞ」
「ファンクラブ限定・跡部様の秘蔵盗撮生写真見せてあげようと思ったけどやーめた!」
「ちょっと待ってファンクラブ何してんの!?」
「あ、もう入学式始まる!行こ!」


・・・これから大丈夫なんだろうか。





「それでは新入生の入場です」と教頭先生が言う前に黄色い歓声があがった。ファンファーレが鳴り響き、カッと照明が増えた。何だこれ今までと違う。


そして。


「キャーッ!跡部様ー!!」
「跡部様ー!!」
「キングー!!」


1年A組の先頭が景吾坊っちゃまだった。熱狂的すぎる叫び声に耳が痛くなる。隣に座っている佑子までもが大声を出すものだからたまらない。


それにしてもこんな声援の中で平然としていられる坊っちゃまはすごい。不敵な面構えの坊っちゃまの口元には薄笑いさえ浮かんでいた。器のデカさが尋常ではない。改めて感心していると景吾坊っちゃまと目が合った。さりげなく口角が上がっていた気がする。慌てて周囲の目を気にした。


一年生が着席し、校長先生が話し終わると再び会場がざわついた。え?何だろうと思っていると、


「新入生代表の挨拶。1年A組跡部景「キャーッ!」


そういうことか。当然坊っちゃまだろう。堂々と階段を上る坊っちゃまの成長ぶりを一人感慨深く感じていると、佑子と反対側の隣に座っていたメッシュの男子が「ひっ」と息を飲んでいた。新しいクラスメイトだからうろ覚えだけど、この人確かテニス部の・・・



マイクを握った坊っちゃまがパチンッと指を鳴らして会場は静まりかえる。


「テニス部のやつら、この日に備えて鍛えておいたんだろうな?まあいい。高校でも俺様がキングだ!」



・・・ああ、なんというデジャブ。全てを悟った私は隣の肩を震わしている男子に対する哀れみの気持ちでいっぱいだった。

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