一話 | ナノ
私の朝はいつも格闘である。


「坊っちゃま!もう6時ですよ起きてください!」
「・・・んっ・・・」
「坊っちゃま!朝食が冷めてしまいますよ!」
「・・・・・・」
「坊っちゃま!」
「・・・うるせえ」
「はい!?」


ようやっと起き上がって軽く伸びをした景吾坊っちゃまは不機嫌そうに私を睨み付けた。


「朝から耳元でニャーニャー騒がしいんだよ。メス猫が鳴くのはベッドの上だけで十分だろ」
「セクハラですか」
「支度するから出てろ」


景吾坊っちゃまは巨大なベッドから優雅に立ち上がり、私の額を小突いた。私より2つも年下なのに頭一つ以上は背が高い。言われた通りに廊下に出た私は素早く自室に戻る。私だって学校に行く準備をしなくちゃいけない。昨日の始業式から氷帝学園高等部の三年生だ。


私の父親は景吾坊っちゃまのお父様・・・つまり旦那様の旧友であり仕事仲間だった。二年前、父が突然仕事の都合で母を連れてヨーロッパに行かなくてはならなくなり、既に氷帝学園に入学していた私は日本に残ることを選んだ。その際に一人では寂しかろうと声をかけて下さったのが旦那様だった。


以来私はこの跡部家にお世話になっている。でもただ住まわせてもらうだけでは申し訳ないので、無理を言ってちょうど同時期にイギリスから帰国した景吾坊っちゃまをお世話をすることになった。



のだけど・・・


女性使用人用のメイド服から制服に着替えながら、私はため息をついた。


景吾坊っちゃまにはそれ以前にも何度か会っていた。と言ってもすごく小さな頃だけど。その頃から気の強い子だとは思ってたけど・・・まさかこれほどの俺様に育つとは。


持ち前の麗しい容姿にはさらに磨きがかけられていたが、入学直後にテニス部の部長になるわ、一年生なのに生徒会長になるわ。どこまでも型破りだがそのカリスマ性で不思議と人の注目と信頼を集めてしまう。


私は坊っちゃまのファンが恐ろしくて、坊っちゃまをお世話していることもましてや跡部家に住んでいることも内緒にしている。破天荒な坊っちゃまの振る舞いにどれだけ寿命が縮んだことか・・・



その時内線の電話が鳴った。


「はい」
『俺だ』
「坊っちゃま?」
『ああ。お前もう朝飯は食ったのか』
「いえまだです。坊っちゃまが朝の運動をなさっている時にいただくつもりですが」
『今から来い』
「は?」
『俺様と一緒に食わせてやる』


ブツッと切られた受話器をまじまじと見つめる。


時々・・・じゃないたいてい、景吾坊っちゃまの考えていることは図りかねる。信じられないほどワガママに行動することもあれば思いがけない寛大さを見せるときもある。私にも同じだ。ツンケンした態度の時もあれば今みたいに突然・・・甘える?ようなこともあって、分かりやすいようで掴みどころが無い。


坊っちゃまには兄弟がいないし旦那様や奥様は仕事が忙しくてなかなか時間を作れないようだ。他の使用人とも年が離れている。もしかしたら坊っちゃまなりに、お姉ちゃんみたいに思ってくれてるのかな・・・と考えたらちょっと心が温かくなった。

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