ホワイトレディー(跡部) | ナノ



日本に来て最初に思ったことは、こいつらは何でこんなに周りの目を気にして動くのだろうかということだった。調和を好むと言えば聞こえはいいが他人に流されて自分の本心を見失うことに美徳は感じられなかった。特に女。テニス部を追いかけて所構わず金切り声をあげる彼女たちでさえ、仲間うちで出る杭は打たれるのだという。もっと他に気にすることはないのか。そう、ここにいるメス猫にも言ってやりたい。



ドサッ

「放課後・・・受け取った分です」
「ああ、ご苦労だったな樺地。部活行っていいぞ」
「ウス」

両手に抱えきれないほどのプレゼントや手紙を生徒会室に届けてから、樺地は一礼して出ていった。朝から俺宛ての贈り物の応酬のせいで、既に生徒会室には色とりどりの山が3つほど出来ている。日頃真面目に仕事をする生徒会役員たちも今日ばかりは口をあんぐり開けて崩れそうな山々に目を見張っていた。クリスマスも似たような光景になるが毎年量が増えていくものだから慣れないらしい。


そんな中、山から不自然に目を反らし続ける女が一人。違和感丸出しのコイツは我らが氷帝学園生徒会の書記だった。


「・・・おい」
「あっ!な、なに?」
「お前さっきから手元を見てないが、それ真っ直ぐ書けてんのか?」
「え・・・あーっ!」

昨日の定例会のメモなのにー!と涙声でうなだれるバカにため息が零れた。彼女はそんな俺の仕草にまた背中を丸める。いつもは無駄にニコニコしてるくせに、今日はコイツから尋常じゃない負のオーラが漂っている。ったく、俺様の誕生日に何してやがる。


「今日はやけに落ち着きがねえな。何かあんのか?」
「なっない!ただの寝不足!」
「・・・・・・」


しぶてえ。


今日出会った人間で俺に祝いの言葉を言ってないのはコイツだけだった。そのくせ二分に一度のペースでこちらを見てくる。女の眼差しには慣れっこだが、こうチラッチラ見つめられると落ち着かない。言いたいことがあるならサッサと言え、バレバレなんだよ。


幾度となくバッグの中身を確認しているところを見るとプレゼントも用意しているようだ。しかしそわそわとプレゼントの山と俺の顔色を気にしているばかり。そうかと思えば壁掛け時計を見て慌てている。俺がいつも部活に向かう時刻が近付いていた。


何でもコイツは生徒会に入るとき、当時のクラスメイトの女子に「跡部様に色目を使わないで」と懇願されたそうだ。それほど親しい仲でもなかったのにこの女はその約束を律儀に守ってるってわけだ。そう忍足から聞いた時、思わず「バカか」と呟いた。お前みたいな単純なヤツに色目なんか使えるか。しかもお前のその元クラスメイトはな、今はもうジローの追っかけやってるらしいぜ。このままじゃお前一人で間抜けだ。いいのか、それで?


さっきからコイツは俺の一挙一動に反応する。俺が自分の鞄に手をかける度に泣きそうになり、ブレザーを羽織ろうとすると狼狽した顔でバッグを弄ぶ。そんなに気持ちが強いならどうして一声かけられないんだとむしろこっちから言いたくなったが、俺の中の何かがストップをかけていた。自分の中にこんな悪戯心があったことに少し驚く。ああ、きっと女を苛めたくなるのってこういう時なんだな。


さあ、俺はもうすぐここを出るぞ。ずっとそこで縮こまってるつもりなのか?お前は今時珍しいくらい純粋だから難しいかもしれねえが、人は大なり小なり何かに見切りをつけて生きていくんだよ。毎日何かが変わってくんだ。状況にしろ、人の気持ちにしろ。不要なしがらみに捕らわれるな。自分に正直に生きるってのは理屈じゃねえ。気分次第、臨機応変だ。じゃないと自分が本当にしたいことが出来ないだろ?お前のはな、不器用で頑なって言うんだ。


おいまさかお前今がダメでも部活後があるとか思ってんじゃねえだろうな。その頃なんかメス猫の群れはもっと酷いぞ。揉め事が嫌いなお前のことだから目眩起こすぜ、きっと。何より、そんな遅い時間までお前を一人にさせたくねえんだ。だから早く言えよ。お前が勇気を出したら、俺もその時、お前に伝えたいことがあるんだ。





跡部誕生日企画「King's BD」に提出させていただきました。跡部ハッピーバースデー!
20101004
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