放課後、部活に行く途中に見知らぬオバサンに事務室までの道を聞かれた。用があるらしいのに説明してもイマイチ分かってないみたいだったから仕方なく事務室まで送ってやった。その後急いで部活に走ったら、待ってましたとばかりに仁王立ちしていた真田副部長に張り手を食らわされた。
「遅い!五分の遅刻!グラウンド百周!」
「は?いやちょっと待っ「周回を増やされたいのか?口答えするな!」
ピキッと自分の青筋が立つ音が聞こえた気がした。仕方なくランニングをしながらはらわたは煮えくりかえっていた。何?俺何で走らされてんの?ふざけんな。
言い訳する暇も貰えなかった。理不尽にも程がある。だいたいもう入部して半年経つけどあのオッサン俺にやけに厳しくね?そりゃ入部するときは色々とすったもんだあったけど時効だろ。ああムカつく。超ムカつく。
そもそも俺の意見なんかどうでもいいんだろ。問題児は問題児らしくとにかく厳しくしとけってことなんだろ。いいよそっちがその気ならこっちだって考えがあるよ。テメーなんか眼中に入れてやらねえよ。
その日から俺は副部長と必要以上に関わらないように細心の注意を払った。さすがにシカトなんかしたら命が危ないから、副部長に何を言われても「うす」と返事して黙々とこなすだけ。何となく話しかけられそうになったら「ちょっとトイレ行ってきますー」と逃げ続けた。
これが子どもっぽい拗ねるって感情だってこと、自分でも分かってた。だけど止めるつもりもなかった。怒りを発散させるだけで満足だった。でも世間一般の目で見ればイヤでも自分が嫌われていると分かる仕打ちだけど、副部長の一般とのズレはすさまじいから実際効いているのか分からない。ただ少しずつ副部長が俺に話しかけてくる回数が減ってきた気がする。鬼みたいに怒るのも少なくなったかも。とりあえずいい気味だと思ってほくそ笑んでいた。
「赤也ちょっとこっちおいで」
ちょ、幸村部長が手招きしてるんだけど。いやいやいやニコニコしてるけどむしろ怖いんですけど。さすがに幸村部長にはバレてるんだろうか。いやでも待て、そもそも俺悪くないし。副部長は自業自得だ。
「何すか」
我ながらブッスーとした返答だった。幸村部長はそれを聞いてクスクス笑いながら数枚の写真を差し出した。
「赤也も見る?さっき柳と二人で笑ってたんだ」
「は?」
「真田の部屋の写真。この間上がらせてもらったから、真田がお茶持ってくる間に撮ってみた。アイツには内緒ね」
「・・・・・・」
要するにそれ盗撮だろ。ていうか今の俺に副部長は鬼門なんだけど。しかし部長が有無を言わさず押し付けてきたのでしぶしぶ写真に目をやった。
「うわ・・・」
「ね、面白いだろ?」
渋っ。木彫りの熊とか掛け軸とか骨董品とか、ホントにただのジジイとしか思えなかった。俺は面倒くさくなって写真をパラパラめくった。同じような武家屋敷っぽい写真ばっかりだったが、いきなりそれが変わった。
「・・・・・・」
それは「写真立て」の「写真」だった。無数の写真立てが棚一面にトロフィーと並んでいた。見れば幸村部長と一緒に映ってる小学生らしきヤツとか、三強で並んでるヤツとか、二年生みんなで撮ってるくせに全員バラバラな表情のヤツとか、あと
「は・・・?」
俺と副部長の写真。二人とも弁当から顔だけ上げたような全然決まってないヤツだけど、似たような「ん?」って表情してる。何だこれ。何でこんなの真田副部長が。待て、これ確か夏の大会の時の。
「びっくりしたでしょ」
「・・・どういう意味っすか。俺なんてただの一年なのに」
「他の一年の写真は一枚も無いのに?」
「・・・・・・」
ふふ、それはね。赤也が可愛いからに決まってるじゃないか。アイツは好きな子に誤解されるタイプだよね絶対。
それだけ言って風のように幸村部長はいなくなった。俺の手元には味気無い写真だけが残った。
なに。可愛いってなにあのオッサンに限ってそんなことあるわけないじゃん気持ち悪い。可愛いの表現がアレかよビンタかよ。昭和のオヤジかよ笑えねーよ。
だけど身体中を走るむずがゆい感覚が止まらない。
別に俺は全然後悔してねえよ。俺は俺のポリシーを貫いただけだ。うん、後悔してねえけどまあ一時休戦くらいにはしてやってもいいかな。