マジでやられる五秒前(立海)# | ナノ


二年生のとき俺はジャッカルと同じクラスだった。


「おい、起きろ」
「は・・・え?朝か」
「ばかちげえ。二時だ」

ふわああ・・・と特大のあくびをしたジャッカルは半眼だった。修学旅行で割り当てられた班員は他に四人いたが、まだ二日目ということで俺たち以外はみな泥のように眠っていた。


「何なんだよブン太・・・」
「行くぞ」
「は?」
「へへっ、テニス部のヤツらに日頃の報復だよ」

取り出した油性マーカーのフタをきゅぽんっと開けてジャッカルの鼻先に突き付けた。ぐあっ!仰け反ったジャッカルは「本気かよ・・・」と呟く。

「もう教師も寝静まった。ターゲットはビッグスリーと・・・柳生だな、風紀うるせーし。本命は真田だけど仁王もモテてうぜえからやるか」
「鍵はどーすんだ」
「生徒は鍵閉めちゃいけないことになってるだろ」
「・・・本当にやるのか」

もちろんだ。いつもあれだけ理不尽な仕打ちを受けていながら今弾けないでどうする!俺は懐中電灯を手に立ち上がった。気後れしながらジャッカルもついてくる。一度話してしまえば放っておけないのがこいつのいいところだ。


そろりと廊下に出ればじめじめ暑い。九月の沖縄の熱気に蝕まれながら俺は修学旅行のしおりを広げた。

「一番近いのは柳のとこか・・・」
「柳にまでやるのかよ」
「おうよ。まあ優先順位的には下だから後回しだ。先に本命をやる」
「真田か」


ひたひたと廊下を走り般若の巣へ向かった。真田って九時には寝てるんだっけ。修学旅行は十時就寝だから「生活リズムが乱れる」とか言ってたな。

「真田真田っと・・・いた!ジャッカルは懐中電灯持ってろ」
「お、おい」

真田が他のクラスメイトと並んで寝ているというのも不思議な光景だった。光に照らされたとき一瞬眉をしかめたが起きる気配はない。ニヤリと口元を歪め、俺は素早く額と頬に横シワを描き殴った。

「へへっお似合いだ」
「おいもう行くぞ!」

次に向かったのは柳生の部屋だった。寝顔に個性を感じられなかったので眼鏡を描き足してやった。ついでにほっぺたに三重丸。


「よし、次・・・幸村くんと仁王は同室だな」
「なあ幸村たちはいいんじゃねーのか」
「はあ?今頃怖じ気付いたのか?立海二大モテ男だぞ!やるしかねーだろ!」
「別に怖じ気付いたわけじゃ・・・」
「ホラ、懐中電灯」


幸村くんと仁王の部屋は少し遠かった。カチャリとドアを開けるとスースーと女子みたいな寝息が聞こえた。幸村くんだ。手前がそうらしい。

そうっと幸村くんを覗きこむと、まるで聖母のような安らかな顔で眠っていて少し良心が咎めた。でも・・・


「やるしかねえ」
「何を?」

ハッと振り返った時にはもう遅かった。床に組み敷かれたジャッカルの上に幸村くんが座っていて後ろから俺の右手を掴んでいた。顔に笑みが貼り付いている。

「なっ何で!」
「今日フィールドワークの時に偶然見ちゃったんだよね、ブン太の筆箱に見慣れないマッキーが入ってるの」
「へ、へえ・・・」
「ちなみにソレ仁王ね、おい仁王」

清らかな幸村くんの寝顔がにやっとしたかと思うと、片目を開けて「プリ」。くそアイツ・・・!

「で?やっぱり面白そうなもの持ってるね。何に使うの?」
「いやあのこれは」
「使ってみせてよホラ」
「すすすすみませ・・・」
「俺、はっきり喋らない男って大っ嫌いなんだよね」


幸村くんの手が油性ペンに伸びる。ひんやりした体温が触れたとたんもうダメだと悟った。悪いジャッカル、やっぱここは鬼門だった。







「お早う蓮二、お前もこれから顔を洗いに行くのか?」
「・・・・・・ああ」
「同じクラスのヤツは誰も起きていなくてな。てっきり俺一人かと思っていた」
「弦一郎」
「む?」
「部屋に忘れ物をした。先に行っていてくれ」
「あ、ああ・・・」

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