白石先生のG対策教室(四天) | ナノ

※私たちの生活を脅かす黒光りするあの虫(カブリエルではない)についてのお話です。嫌な方はバックプリーズ!



それはのどかな昼下がり。部活も終わり、放課後カラオケに行こうと言っていた謙也、ユウジ、小春、光、私で、顧問に連絡に行っている白石を部室で待っているとき、事件は起こった。


私はみんなのお茶のお代わりを淹れてこようと席を立った。その時ふと、床に目を凝らした。凝らしてしまった。

「・・・ねえ、謙也の足元になんか黒っぽいのが落ちてる」
「おっ消しゴムかいな」
「また謙也の変な消しゴムか!」
「うっさいわユウジ黙っとれ・・・」


床に伸ばしかけた謙也の手がぴたりと止まった。


「・・・謙也・・・?」
「じっ・・・」
「じ?」
「Gやあああああ!!!」


「うわあッ」と全員が飛び退いた。その、黒い物体は、カサッと音を立てて動き出した。


「ぎゃああああ!」
「ちょっ、小春ちゃんバルサン無かった!?」
「バルサンじゃ手遅れでしょ!?殺虫剤なら確かロッカーに・・・」
「あったで小春、ゴキジェットプロや!」

意気揚々とユウジがその噴射剤を掲げ、カサカサと動くGに吹き掛けた。が。

「なっ・・・!」
「効かへんやーん!」
「なら謙也が何とかしろやっ!くっ、最近のGには耐性がついてしもうとるんやろか・・・」
「Gは頭と胴体離れても一週間は生きてられるからねえ。しかも死因は餓死」
「何たることや・・・G最強やないか」



「先輩ら、使えんなら下がっとってください」


その時、丸めた冊子を持った光がサッと敵の前に立ちはだかった。まさしく悪魔を狩りに行く勇者の出で立ちである。

「きゃあ光ちゃんステキーっ!」
「つべこべ言わんと一撃で仕留めればええねん」
「スゴいよ光、あんた漢だ!・・・ん?」


光が丸めている、その冊子・・・

「ひっ光!それ私の英語の教科書!」
「ああ、その辺にあったんで。あかんのですか?」
「ダメに決まってるじゃん!返してよ!」
「せやったら何で殺るんです?いらん新聞紙とか、ここ皆無っスけど」
「・・・・・・」

戦う武器さえも与えられていないなんて・・・こちらの戦力は絶望的だ。

「・・・先輩らのエロ本でええやろ」
「はあ?」
「あっアホちゃう!?そんなんあるわけあらへん!」
「怪しいわねユウくん」
「こ、小春ううう!」
「みんな!それどころじゃないでしょ!?」


今にもGはロッカーの一角にたどり着こうとしていた。その先には・・・開け放たれた、金ちゃんのロッカー。

「金ちゃんの荷物がピンチだよ!」
「うう、神様仏様・・・!」

万事休す。もはや私たちになす術は無いと思われた。




「・・・何しとんねん」
「しっ・・・!」

白石・・・!!

白石が戻って来た。彼は戸口で呆然としていたが、私たちにはなぜか白石なら何とかしてくれるのではないかという根拠の無い確信があった。

「白石!Gが出たの!Gが!」
「何やて?」
「金太郎のロッカーがピンチやねん!」

白石は静かに部室に入り、蠢くGと対峙した。ユウジが白石の腕にすがりつく。

「ゴキジェットプロも効かへんねん。氷殺も発売中止になった今では・・・」
「洗剤や!」
「え?」
「洗剤!ママレモンあったやろ?それや!」

私が言われるがままママレモンを持って来ると、白石は冷徹な顔でそれをドバッとヤツにかけた。そして。


「・・・しまいや」
「「「「おおおお〜」」」」

白石はGを制した。ピクリとも動かなくなったそれは、ジャンケンに負けた謙也の手によって塵取りで丁重に葬られた。


「さすが白石!洗剤なんてよく知ってたね」
「常識やろ。あと効果あんのは五十度以上のお湯な。・・・しかし部室がGが出る環境やったなんて、許し難いな」
「へ?」

白石は綺麗な顔を歪ませ、部室をぐるりと見渡した。

「弁当の食べ残しやら置いてへんやろな?Gは玉ねぎの成分とか大好きやからな。生ゴミは必ず密封すること。釣られてくんで」
「お、おう・・・」
「あと水回りはきちんと水分拭き取る。それと意外にGはホコリが苦手やねんて。やからってホコリ放置したら他の虫が出るからな。陶磁器とかに使う微粒子撒くんがええらしいけどさすがにそれはな」
「はあ・・・」


「さらに」と白石が人差し指を部室の角に向けた。


「水源や小さな隙間とかにドライアイスを詰めて冷やすと巣作る防止になるで」
「なあ、ゴキブリホイホイとかは?」

謙也が首を傾げた。

「ああ、小物にはええけど、あれ自体に誘引剤が入っとるからな。油ギッシュなヤツはスルーしたりするし。しかもまめに変えんと新たな拠点になるで・・・置くならホウ酸ダンゴにしよ。水分無くなったGが水分求めて出てくらしい。これもちょくちょく変えんとあかんけど」
「・・・・・・」
「粘着テープとかも場所変えたりせんと覚えられるからな。Gはレモンやミントの香りがあかんからそれ系の芳香剤置くんもええやろ」
「・・・・・・」
「もし出たら殺虫剤使うてもちゃんと死んだの確認してな。アイツら死ぬ寸前に卵切り離したりするし、しかも卵は対酸性やったりする。排水口にもちゃんと金網は徹底やで。上がってくると困るし」
「・・・・・・」



きっとこの男にそこはかとない恐怖を抱いたのは私だけではないはずだ。
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