柳くんの誕生日(柳) | ナノ

※柳姉設定



古今東西、世界広しといえども私の弟のような人間はなかなかいないと思う。頭脳明晰で品行方正、絵に描いたような優等生なのに運動も上手。特に頭の良さは身内の欲目を差し引いても周りより頭三つ四つ、いや数え切れないほど飛び抜けている。

それが私の弟・中学三年生の柳蓮二だった。


「・・・はあ」
「姉さん?」
「わっ!な、何でもないっ」

ため息をついたら向かいの席で夕飯を食べていた蓮二がこちらを訝しげに見てきた。箸を持つ指がスラッと長くてとても絵になる。こういう洞察眼が鋭いところ、頼りになるけど時々すごく困る。例えば今みたいに蓮二への誕生日プレゼントを考えている時とか。


蓮二は私の誕生日にはいつも欲しかったものをくれるのに自分の欲しいものは決して話してくれない。高いから遠慮しているんだ。私だって姉だし蓮二が可愛いから色々考える。そして去年は蓮二の好きな作家の新作をプレゼントした。蓮二も笑顔で「ありがとう」と言ってくれた・・・・・・のだけど。

後日蓮二の部屋に辞書を借りに入ったとき、自分があげたブックカバーつきのもの他に既存の同じ本を見つけた時の衝撃は忘れない。つまり蓮二は優しい子でもあるのだ。


その経験も踏まえて、今年は1ヶ月も前にさりげなく「蓮二は何か欲しいものある?」と聞いてみた。でも蓮二は薄く微笑んで

「姉さんのその気持ちだけで嬉しいよ」

と言っただけ。



だから私は決めたのだ。いつも冷静沈着な蓮二をあっと言わせるためにもっと大きなモーションを起こす。そう、蓮二の友達に突撃取材あるのみ。いざ、立海大付属中へ!





「・・・・・・とは言っても」


高校の授業が終わってすぐに隣の中学校に向かったのだけど、さすがに高校の制服だと目立って仕方ない。じろじろと突き刺さる視線が居心地悪い。

蓮二の部活の友達を探さなくちゃ。でもあまりテニスコートに近づきすぎるのは・・・


「おっ柳の姉ちゃん!」
「・・・丸井くん?」


大きなテニスバックを背負ってこちらに駆けてきた赤い髪の少年は確か丸井ブン太くんだ。うちにも何度か来たことがあるような気がする。

丸井くんは大きな瞳を輝かせて意気込んで話しかけてきた。何にせよナイスタイミングだ丸井くん!

「珍し!どしたんですか?」
「ちょっと丸井くんに話があって」
「俺に!?」

じりっと丸井くんが距離をつめてくる・・・え、何で手を握られているのだろう。


「あーっ!丸井先輩、どうしたんですかその人!」
「うげっ赤也」
「・・・赤也くん?」


次に現れたのはパーマがかった黒髪の男の子だった。バッグからして同じくテニス部なんだろう。「赤也」という名前なら蓮二から聞いた覚えがある。


「丸井先輩、誰ですかこの女子高生!紹介してくださいよ」
「くそ・・・柳の姉ちゃんだよ!」
「え!?マジっすか!うわっサスガ柳先輩のお姉さま、超美人っすね!」
「えっ」

予想だにしていなかったお世辞に狼狽えた。赤也くんはすごくいい笑顔なんだけどこんな場合はどう答えればいいのか。ああ、蓮二の欲しい物が知りたいだけなのに・・・!丸井くんは何故か頭を抱え始めた。

「ば、ばか赤也!」
「えーだってマジ綺麗じゃないっすか!今度柳先輩んちに遊びに行こっかな!いいっすか?お姉さま」
「おね・・・うん、いいけど」
「あーっマジ赤也なんかに会わせるんじゃなかった!」
「何すかそれどういう意味・・・」



「むっ、蓮二の」
「「げっ」」
「真田くん!」

そこに通りかかったのはもう顔馴染みの真田くんだった。真田くんがキッと睨んで、丸井くんと赤也くんは逃げるように去って行った。

「・・・お久しぶりですな」
「う、うん・・・元気そうだね真田くん」
「お姉様もお元気そうで何よりです」

実を言うと真田くんは堅苦しくて少し苦手だ。蓮二も堅いと言ったら堅いんだけど、蓮二より厳格そうというか。・・・でも真田くんなら蓮二の欲しい物を知ってそうだ。思いきって聞いてみようとしたその時、真田くんが伏し目がちになりながら「ときに」と言った。

「先日お邪魔した際のお茶菓子はお姉様の手作りだと聞いたのですが」
「あ・・・うん。ごめんね、不味かったかな」
「とんでもない!たいへん美味しく頂きました!」
「そう・・・?ありがとう」

真田くん・・・何だか様子がおかしい?どことなく落ち着かないような、




「弦一郎、精市が呼んでいたぞ。早く部室へ行け」
「れっ・・・」
「え?」

スッと背の高い人が私と真田くんの間に入った。彼の背中で真田くんが全然見えなくなる。

「蓮二!?」
「・・・油断も隙も無いな。弦一郎まで骨抜きとは」
「えっ・・・」

少し困ったような顔で蓮二が振り返ったとき、既に真田くんの姿はそこに無かった。どうして?と思うと同時に絶望感に襲われた。


蓮二に、ばれた・・・!


「何をしているんだこんな所で。まあ、答えは聞かなくても分かっているが」
「あの蓮二これは」
「全く・・・姉さんには敵わないな。予測不可能なことばかりして肝が冷える」


蓮二が私の頭を撫でながらフッと微笑んだ。私はこんなに一生懸命なのに蓮二は余裕しゃくしゃくで、全て見透かされてるみたいで面白くない。


「何それ!子ども扱い!?」
「はは、違う違う。ただあまり心配はかけて欲しくないな」
「何で私が蓮二に心配されないといけないの!弟のくせに!」
「・・・・・・姉さんは鈍すぎる」
「は?」


「何でも無い」と言うと、蓮二は私の持って行った鞄を奪い取って歩き出した。

「蓮二?」
「送るよ、帰ろう」
「なっ、ダメだよそんなの!蓮二は部活があるでしょ!」
「大丈夫だ。後で戻る」
「やだ待ってよ!」

私はまだ今日の目的を果たしてないのに。


蓮二は立ち止まってそっと首を横にふる。優しい顔だった。

「姉さんのその気持ちで充分だ。今日は嬉しかった」
「またそんなこと!」
「・・・それに俺にとっては悪い虫がつかないでくれる方がよほどありがたいからな」
「ちょ、何言って・・・わっ」

渋る私の腕を強引に掴み、蓮二はまた歩き出す。周りの中学生がジロジロ見てくるのにも構わず。蓮二の足取りは軽い。本当に嬉しかったのかな。結局蓮二に上手く丸めこまれてしまったけど、それなら少し報われた。


でも私は諦めない。絶対絶対蓮二の度肝を抜くプレゼントを用意してやる。そして必ず、


上も下も心の中もいっぱいにしてあげるよ愛してるからね







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