裏の裏の裏(柳) | ナノ
次席の逆襲の続編になります。


「やった・・・!」


夏休み明けの実力テストの順位表の前で、私は喜びに震えた。


勝った。
ついに、ついにアイツを倒した!


順位表の一番最初の欄には輝かしい自分の名前がきらめいている。僅差でその下にいるのが立海の“元”覇王、柳蓮二だ。歴史的瞬間だった。積年の恨みを果たしたような気分。どうしよう、写真に撮りたい。

柳蓮二はこの結果を知っているのだろうか。一学期末に柳蓮二をギャフンと言わせる作戦が失敗して以来、なんとなく惨めで彼と話せずにいた。別に話がしたいわけじゃないけど。私に敗北した今、あの時私をからかった柳蓮二がどんな反応をするのか非常に楽しみだ。彼はどこにいるんだろう。早く現れろ柳蓮二。


そうやって一人悦に入っていると周りがざわつき始めた。

「やばい見て!柳くんが二番だ!」
「えっ?本当だ。どうしたんだろ・・・」
「一位の人誰?」
「ああいつも成績良かった女子だよ」
「すげー!柳に勝ったってこと!?」


にやけが抑えられない。ふふふ皆さんこの順位表を記憶にしっかりと焼き付けてくれたまえ!ああ、柳蓮二に聞かせたい。本当にアイツはどこに行って、


「でもさ、柳はあれだろ?テニス部が全国大会の決勝で負けたからじゃないの?」


え?


「ああ!そうそう青学に負けたんだった。V3狙ってたし先生も残念がってた」
「柳くんは勝ったんじゃなかった?」
「でも幸村と真田と柳は一年の頃から全国一だったんだからそりゃものすごいショックだろ。翌日には練習始めてたよ」
「ていうか夏休みテニス部ほぼ常勤だろ。勉強する暇なんかねえよ」



徐々に周りの喧騒が遠退いていくようだった。



ショック?柳蓮二が?


全国大会はもちろん私も一立海生として見に行った。柳蓮二のダブルスもしっかり見た。素直にとてもすごいと思った。私が知らない顔をした彼がやけに眩しくて、立海は負けたけど柳蓮二は勝ったから全然気にしてなかったのに。


準優勝は勉強が手につかないくらいショックだったんだろうか。そんなの関係ない、結果は結果だ・・・って割り切ろうと思うのにそれが出来ない。なぜか脳裏にユニフォームを着た柳蓮二がちらついた。あの夏の日、私には他の誰よりも輝いて見えた姿だ。

柳蓮二本人じゃないから彼の悲しみの度合いなんて測れない。でも例えば、私は入学してからずっと打倒柳蓮二を目指してたからこの二年ちょっとの重さはそれなりに体感しているつもりだ。ましてや柳蓮二は全国優勝の経験を二度もしている。悔しいけど思いは私の比じゃないんだろうな。そう考えたら胸がキリキリ痛み出した。



柳蓮二は今も落ち込んでいるんだろうか。


居ても立ってもいられなくなり、私は人混みを掻き分けて走り出した。






いた。図書館の窓際の席。やはり柳蓮二は静かに本を読んでいる。気持ちが高まって、私は思わず一歩を踏み出そうとした。


・・・いやいや、私が声をかけて何になる?ナメクジに塩を振るようなものじゃないか。大体私は今回柳蓮二を負かしてしまったんだから、本人にとっては一番会いたくないヤツなんじゃ?・・・何かそれ落ち込むな・・・・・・



「何をしているんだ」
「ひゃああああ!」

いきなり柳蓮二に声をかけられて心臓が跳び跳ねた。大声をあげた私を図書委員の生徒が睨む。いけない。私また自分の世界に!

「どうしたんだ。俺に用事か?」
「え、えっと」
「息が切れている。急いで来たんだろう」
「う・・・」

柳蓮二はいつもみたいに涼しく笑う。その笑顔を見てちょっと落ち着いた。何を狼狽えているんだ私は。相手は宿敵だ。お情け無用だ。

「て、」
「て?」
「テスト!私が一番!」
「・・・・・・」

ああああああしまったつい勢いで!言ってから激しく後悔した。これじゃあまるで親にテストの自慢をする小学生だ。さすがに呆れられたに決まっている。しかし意外にも当の宿敵は穏やかに頷いた。

「そうだな、おめでとう」
「え」
「よく頑張ったな」

近づいてきた柳蓮二にそっと頭を撫でられた。優しい手つき。熱い。顔が、頭が、全身が熱い。

「っ、嫌味!?」
「嫌味なものか。お前の努力の賜物だろう」
「・・・だって柳くんは全国大会で負けたのがショックで点が取れなかったんでしょ。しかも夏休みはずっと練習で勉強時間なんて取れなかったんでしょ。だから・・・」


「ああ、それは違う」


あまりにも自然に、あっさりと否定され、驚いて柳蓮二を見上げた。

「正確には取れなかったんじゃない。取らなかったんだ。と言うより取る努力をしなかったんだな」
「は?」
「これくらい勉強“しなければ”お前と競るくらいだろうということはあらかた分かるからな」
「・・・ちょっと待って。じゃあ今回のテストは手を抜いたってこと!?」
「そうなるな」
「なっ」

信じられない。この男、同級生を、そして私をなめくさっているとしか思えない。やばい目が潤んできた。柳蓮二の心境を思ってた時とかの色んな感情がせめぎあっていた。順位表を見て時喜んでた自分がバカみたいだ。結局私はこいつの策に踊らされていたんだ。怒りがふつふつと沸き上がってくる。

「じゃあ何?わざと私を1位に仕立てあげたってわけ!?何のため!?ふざけないでよそんなことされたって嬉しくないっ」
「それも違う」


今度は激昂した私の肩を掴み、落ち着かせるように。柳蓮二はそっと言った。


「気を悪くさせてすまない。本当はお前には僅差で勝つつもりだった」
「!」
「その計算が狂ったのは予想外のお前の奮闘だった。かなり勉強したようだな」
「っ・・・」


こいつ実はバカなんじゃないか。そんなこと言われたって嬉しくもなんともないのに。ついに頬を伝い始めた涙の筋を、柳蓮二が優しく親指で拭った。秀麗な眉が申し訳なさそうに下がっていてドキッとする。


そして宿敵は小さく呟いた。


「・・・言っておくが今回のことはお前にも非があるぞ」
「え?」
「一学期にここで話して以来、お前は俺を避けていただろう。俺が話しかけようとしたらいつも逃げていた」
「っ」
「だから、俺との点差が僅差になればお前はもう一度俺に宣戦布告しに来ると踏んだ。悪いが俺にはテストの順位なんかよりお前と話すことの方がよほど大事だからな」
「・・・へ」


えっと、つまり、どういうこと?


憎き宿敵はそっと腰を折り、私と目線を合わせた。微かに笑っている。


「こうやって向かい合いたかった。俺はお前が好きだ」
「なっ!」
「俺と付き合うのは嫌か?」
「いやっあの・・・!」
「顔が真っ赤だぞ。可愛いな、お前は」
「―――っ!!」



何てことだ。やっぱり私はこいつの掌の上。



ああ神様、果たして私がこの男に勝てる日はやってくるのでしょうか?







10000を踏んで下さった紅音さまのリクエストでした。リクエストありがとうございました!
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