ねえ、教えて(リョーマ) | ナノ


「・・・ウィース」
「あ、越前くんこんにちは・・・」

まただ。急に気持ちがはりつめて落ち着かなくなる。

私は図書委員の後輩のこの彼が、苦手だ。


「今日は搬入とかあるんスか?本」
「いや今日は何も無いよ。カウンター当番と整理しとけばいいかな」
「ふーん、まだ誰も来てないっスよね?」
「うん。越前くんカウンター座ってていいよ」
「先輩もでしょ」
「うん・・・」


疲れたー、と言いながら越前くんはカウンターに二つあるうちの一つに腰を下ろした。私はそろそろとその隣に座る。昼休みの図書室は静かで、開け放たれた窓からは校庭からの生徒の声が風に乗って入ってきていた。チラッと隣を見ると越前くんは私が来てすぐ返却して置いておいた文庫本をパラパラと捲っていた。可愛い・・・じゃない。頼むからずっとそうしてて下さい。


ああ、どーして友達と当番組めなかったんだろ。図書委員には同級生の知り合いがいっぱいいたから、楽しく仕事出来ると思ってたのにな。くじ引きでよりによって後輩の男子とペアになってしまった。

越前くんってカッコいいから友達に羨ましがられるけど、なーんか取っ付きにくいし。会話も無いし。気まずいし。共通の話題を探すのが大変だ。テニス部らしいけど、私運動ぜーんぜん分かんないし。そもそも年下なんて興味無いし。早く昼休み終わんないかな・・・


「先輩、」
「うひゃああっはい!?」
「・・・何考えてたんスか」

ふと見ると越前くんが呆れたように私を見ていた。だっていきなり話しかけてくるから!まだバクバクしている心臓を押さえ、私はにっこり微笑んだ。

「なに?」
「この本、面白かったっスか?」
「え?ええっと・・・」
「これ。先輩が前借りてたやつでしょ?」

越前くんが手にしていたのはさっきの文庫本だった。返却したのは越前くんが来る前なのに何で私が借りてたって分かったんだろ。今は本の貸し出しもバーコードを利用しているけど、私が見る限り越前くんはパソコンに触っていなかった。

ま、いっか。

「面白かったよ!狸が出てきてね、こう、人間に変身したりして」
「・・・どんな話」
「あ!越前くんの趣味に合うかは分かんないんだけど」
「いいよ、これ借ります」
「え」

私がまじまじと見つめる中、越前くんは手際よく自分で貸し出し手続きをした。

「・・・越前くん?」
「先輩、よく本読むから、先輩が面白かったって言ったなら面白いのかなって」
「・・・」
「せっかく図書委員になったんだから、面白い本の一冊でも読まないともったいないでしょ」

越前くんはそう言って目を細めて笑った。その笑顔を見た瞬間ずくん、と胸の奥がくすぐられた。

奇妙なことに私の心臓は再び勢いよく活動し始めた。私がよく本借りてるの知ってるの?ていうか越前くん、今日はよく喋る。いつもと違う。気まずくはないけど、変だ。でもどんどん身体が熱くなる私はもっと変だ。ダメだ、美形に耐性が無さすぎる。なんとかしなくちゃ・・・



「おー?そこにいんのは越前と・・・あれ?お前なんでいんだ?図書室ってガラじゃねーなあ。ガラじゃねーよ」
「うっさい桃城どっか行け」
「お前マジ口わりーぞ」
「えっ・・・桃先輩と・・・知り合い?」


ひょこっと窓から顔を出してきたのは同じクラスの桃城武だった。憎まれ口を叩き合う私たちに越前くんが丸い目をさらに大きくさせている。

「ああ、コイツとは一年から同じクラスなんだ。越前並みじゃないにしても図太いヤツだぜ」
「あんたにだけは言われたくないよね」
「ほらな」
「・・・仲、良いんすね」
「「はあ?」」

越前くんの言葉に、桃城は「ははーん」と私を見てにやけた。

「お前、越前の前だと猫被ってんだな」
「は!?何それっ」
「とぼけても無駄だぜ。お前前に不二先輩がうちのクラスに来て俺に取り次ぎ頼んだ時よ、別人だったもんな。すっげー恥ずかしがって」
「なっ」
「お前つくづく美形に弱いよな。俺というナイスガイが近くにいながら」
「何か今耳鳴りしたかもしんない」
「ほら越前、コイツはこーいうヤツなんだよ。騙されんな」
「・・・桃先輩、向こうで人が呼んでるっス」
「お!いっけねーサッカーの途中だった!じゃあな!」


台風のような桃城が走り去ってから、図書室にはシーンと静寂が流れた。な、何この空気。それというのも、越前くんがジトッとした目で私を見つめているのだ。

「あ、あの、越前くん?」
「先輩、俺を騙してたの?」
「いやあの別にそういうんじゃ」
「俺といるときは全然喋んないのに、桃先輩とはあんなに喋るんだ」
「やー・・・桃城は悪友ってゆーか・・・」

そして何この展開。越前くんってこんなこと言うタイプだったの?まずい。これまでまともな会話してこなかったから・・・!目の前の越前くんは、まるで初めて会う人みたいで緊張が倍になる。


「それとも、さ」

越前くんは私の髪を一筋指で掬い、巻き付けるようにくるくると回した。ドクン、と鼓動が強くなった。微かに上がる口角は、この一年生の底知れない余裕の現れなのか。


「さっき桃先輩が言ってたヤツ。俺って先輩にとって美形なの?それって気があるってこと?」
「えええっ!?いや、それは」
「ああでも不二先輩にもなのか。先輩って面食い?」
「うっ」


近い。越前くん、近い。隣同士なのに上半身をぐっと寄せてくるから、ほんと、心臓やばい・・・!


「俺さ、先輩がここで本読んでる顔見て気になってたんスよ。この人どんな人なんだろ、とか、何の本読んでたんだろとか。図書室に大勢いるときは聞けなかったから」
「えっ私そんな変な顔してた!?」
「・・・鈍感もいい加減にしてよね。ま、最初は大人しいだけの人かと思ってたけど、とんだ猫被りだし。面食いだし。面白いし」
「えっ?」


ニッと悪戯っぽく笑いながら越前くんは私の頭にポンッと手を置いた。


「先輩、違う顔がたくさんあるから飽きないっスね。ねえ、もっと色んな先輩を俺に見せてよ」
「・・・・・・!」


ガタンッ


「あれっ・・・ちょっと、先輩!?もしかして腰抜けた?」


あーあ・・・どうしよう。こんなこと知られたら大爆笑される!眼中に無いって言ってた後輩の言葉に骨抜きになって椅子から滑り落ちたなんて。越前くんの方こそ猫被りだったんじゃん。桃城に文句言ってやらなきゃ・・・

でもその前に。誰か、私に越前くんの取扱説明書をください!!






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