切原くんの誕生日(赤也) | ナノ


おかしい。学校に着いたとたんそう思った。去年の今日、俺は初めて下駄箱のプレゼントというものを経験した。机の上に可愛いラッピングの山というのも初体験だった。念を押しとくけど、それが去年の出来事。



な ん で!

何で今年は一個も無いんだよ!!


慌てて下駄箱を閉じてもう一回開いた。相も変わらずそこにあるのは俺の汚い上靴だけ。急いで階段を駆け上がって自分の教室に向かった。ヤロー共の「おめでとう」を適当にかわして自分の席を掴む。無い。無い。机の上にも引き出しの中にも無い。何だこれ。俺今日日付間違えてる?ううん、合ってる。え!?

「いやこれどういうことだよ・・・」
「やはりな」
「!柳先輩」

ハッと廊下を見ると柳先輩が一人で頷いていた。あの満足げな仕草は自分の予想が的中していた時のやつだ。柳先輩に気付いた周りの女子の目がハートになり始めたので、俺は先輩を男子トイレ前まで引きずって行った。

「ベストを引っ張るな。伸びるだろう」
「それどころじゃないっスよ!なんスかあれ!俺ファンにディスられたんスか!?先輩何か知って・・・」
「落ち着け」

柳先輩はふーっと息を吐いた。

「去年予想外のプレゼントに驚いたお前自身が言ったセリフを覚えているか?」
「は・・・?」
「『へっ!こんなので喜んでらんねーよ!ていうか重くて部活行くのに邪魔だ!』」
「・・・・・・!?」
「大方慣れないプレゼントに浮かれたんだろう。周りの一年生より頭一つ出ていたことで得意になったのかもな。とにかくお前は照れ隠しでこんなセリフを吐いたんだ」
「は!?」


先輩によるとこの言葉で、俺のファンは「切原赤也」を寄ってくる女を鬱陶しがるストイックな人間だと勘違いしたらしい。それで誕生日みたいな一大イベントには大勢でプレゼントを贈りつけたりしないで、我慢して陰でこっそり祝うことにしようとファンクラブで決めたそうだ。柳先輩に言わせれば俺のキレやすい性格もこっそり主義に拍車をかけてたとか。


・・・何?俺墓穴?だから俺のプレゼントあれから減ったのかよ!バレンタインも少なかったし!いらねー気回してんじゃねーよ!せっかくの丸井先輩や仁王先輩に見せびらかす計画が・・・!俺の人懐っこいキャラどこ行ったんだよ!

「なんつーか、もう帰っていいっスかね」
「早まるな。自分の周りの女子をよく思いだしてみろ」
「は?」
「ファンクラブとは無縁そうで、なおかつお前の誕生日を覚えていそうな子が同じクラスにいるんじゃないか?」


・・・あ、


「いやでもアイツはそんなんじゃ」

「赤也!」


・・・何で噂していた時にタイミングよく来るんだ。出来るだけ嫌そうな顔を作って振り返ると、小学生からの腐れ縁の女が俺を睨み付けていた。3Bの先輩たち以外で一番俺と火花を散らすヤツだ。今クラスの学級委員をやっているこの女はくそ真面目って感じでかなりうざい。何かと俺を目の敵にしてくる。柳先輩を見るとしたり顔で微笑んでいた。

「計算通りだな、それでは俺は退散するとしよう」
「はっ!?ちょ、せんぱ・・・」

先輩の後を追おうとした俺の肩をがっちり掴まれる。こんな力何でもねーけど、逃げたりしたらもっと面倒なことになるとこれまでに学んだ。

「赤也!アンタ今日提出のプリント!まだ出してない!」
「わーかってらあ!お前マジかーちゃんみてえ」
「何それ」
「イライラするってことだよ!クソッこんな時に・・・!後で教室に戻ったら出すって!」


俺はここで話を終わらせたつもりだったのに、意外にもこの女は深刻そうな顔で「こんな時に・・・?」と呟いた。

「こんな時って、何?」
「お前には!いっさい!関係ないね!」
「それ、プレゼント貰えなかったこと?」
「・・・ああ?」


なんだコイツ。さっきまであんなに威勢がよかったのに、今は泣きそうな声で。出鼻を挫かれた気がして、俺はツンとそっぽを向いた。

「関係ねーって言ってんだろ!つかそういうこといちいち聞いてくるお前がキモい!」
「・・・キモいかな」
「ん?」
「そうだよね、キモいよね。私変だよね!」
「え・・・?」
「ね!」

急にニッコリ笑ったコイツの顔が、なんか不自然だった。無理に笑ってる感じがして、声を掛けそうになったけど、何て言えばいいのか分からなくて、続く言葉が出て来ない。確かなのは、しおらしいコイツほど気味悪くて落ち着かないもんはないってことだ。


コイツはゴソゴソとポケットをあさって、取り出した物を俺の手に握らせた。さっきの笑顔で。熱くて柔い手だった。なんか、俺のと全然違う。


「これ捨ててもいいよ」
「は?」
「何でもない気紛れ!アンタにあげる!」


じゃあ早くプリント出してよ!このうるさい女はしかめっ面で言って、先に教室に戻って行った。そっと掌を開くと綺麗なテニスボール型のマスコットだった。どこで買ったのかなと思ってくるりと回したら、裏面に明らかに手縫いの「A」のイニシャルがあってどうしてだか恥ずかしくて死にそうになった。バッカじゃねーのアイツ。俺もバカだけどアイツも相当バカだろ。誕生日の一番大事な一言言わなくてどうすんだよ。分かんねーだろ。バカだな。



2010.9.25 赤也ハッピーバースデー!
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