噛みつくような(幸村) | ナノ

「これは一体どういうことか説明してくれるかな」
「す、数学のテストが赤点で、放課後教室で居残り課題が出されて」
「今日は何の予定があったんだっけ?」
「・・・・・・彼氏様との初めてのデートです・・・」
「なるほど、そんな大事な約束を自分の勉強不足で台無しにしたわけ。本当に面の皮が厚いんだね。彼氏の顔が見てみたいよ」
「・・・スミマセン・・・」


頭を下げるしかない。

放課後の教室でニコニコしながら毒を吐き続ける麗しいお顔の少年。彼こそが付き合ったばかりの彼氏である幸村くんだ。学校では儚げな優等生として通っているがその実態は限りないドSの極みだった。私だって付き合うまではこんな一面知らなかった。

教室には私と幸村くんしかいない。ブラインドから斜めに差し込む夕焼けが幸村くんの白い肌を紅く染め上げた。ちらっと見上げてみると、幸村くんはふっとため息をついた。表情が読み取れない。

「仕方ないな。もういいから頑張って解きなよ」
「えっ」
「分からないところがあったら呼んで」

そう言って幸村くんは私の前の席に腰を下ろした。鞄からカバーをつけた文庫本を取り出す。最近彼のお気に入りの詩集だった。前見せてもらったけどさっぱり分からなかった。私の視線に気付いて幸村くんがこちらを見た。

「何?」
「あ、えっと、何で前の席に座るのかなって」
「だって隣に座ったら俺の横顔ばっかり見てて集中出来ないでしょ」
「へ」
「なんてね。ほら、早く取りかかりなよ」

魅惑的な悪戯っぽい笑みを浮かべたあと幸村くんは私に背を向けた。私はと言えば顔を赤くするばかりで何も反論できなかった。




どうしようもう30分も経つのに全く集中出来ない。二人だけの空間ははしんと静かで、幸村くんも本にどっぷりみたいだ。私はぼんやりと幸村くんの背中を眺める。意外と肩幅広い。腰にかけてのラインが細くて、それがまたなんとも綺麗なのだ。幸村くん、女の子って好きな人の背中にもドキドキするんですよ知ってました?どうせ幸村くんばっかり見てるんだから隣に来てくれたらいいのに。


隣に 来てくれたらいいのに


あれ?


「ゆ、幸村くん」
「何?」

幸村くんは振り向かない。

「この面積を求める問題が分からないんだけど・・・」
「分からないってだけじゃ教えようがないだろ。教科書見て考え方とか筋道だけでも書いてみなよ」
「・・・・・・」

やっぱり幸村くんは私を見ない。


幸村くん、怒ってるんだ。


それは無理もない。試合続きだった幸村くんの付き合って初めてのお休みが今日で、ずっとどこに行こうかって話してたんだから。普段なら私のして欲しいことは何でも先回りしてくれるのに今日は隣に来てくれないどころかこちらを向いてもくれない。

だけど幸村くんは怒ってるのを私に隠してる。ガツンと怒鳴ってもいいくらいのことなのに、幸村くんは私に誤魔化して感情を抑えてる。


それが何だかすごく切なくなった。


「ねえ、」
「何、出来たの?」
「・・・」
「どうしたの?黙ってちゃ分からな――」


ぎゅっと机から身を乗り出して幸村くんを後ろから抱き締めた。幸村くんが目を丸くしてこちらを見る。


やっと私の方を向いてくれた


「え?な、」
「せいいち、くん」
「っ」

初めて彼を名前で呼んだ。それから急に恥ずかしくなって彼の髪に顔を埋めた。

「約束、ダメにしてごめんね。私ばかでごめんね」
「・・・」
「むかむかしたら怒っていいよ。言いたいことたくさん言っていいよ。精市くんに我慢して欲しくない。精市くんともっと本音で話したいよ」


心臓バクバクする。幸村くんの髪はすごくいい匂いがして、抱き締める力を少し強めた。



不意に幸村くんの首に回した腕が掴まれた。

「あーもう、ほんとに何なの」
「ひゃっ」

腕をほどかれ、立ち上がった幸村くんに痛いくらいに抱き締められた。

「あの、ゆ、ゆき」
「何で戻すのさ」
「精市くんっ」
「・・・はあ」

幸村くんが私の肩口に顔を埋めた。温かい感触に身体がガチガチになった。

「そんな可愛いこと言われたら怒ってたのなんか吹っ飛んじゃった」
「えっうそ」
「本当。あー調子狂うな。冷たくして君が泣いちゃえばいいってちょっと思ってたんだけど」
「え゛」

「嘘だよ」と言って幸村くんが笑った。ちょっと挑戦的な笑い。さっきの悪戯っぽい笑顔もいいけどこっちの方が断然かっこいい。幸村くんの本当の表情だって気がした。


「本音言うとふざけんなって思ったよ。まあそんなこと言ったところで君の成績がどうにかなるわけじゃないから抑えたけど」
「う・・・すみません」
「俺、これでも楽しみにしてたんだからね」
「私もだよ!精市くんと出掛けるのがテスト勉強の間の希望だったんだよ。ダメだったけど・・・」
「はあ・・・分かったから今日は課題頑張りなよ。そのぶん次のデートでは触り倒すからね」
「さわっ・・・!?」
「え?拒否権?そんなの無いから」


真っ赤になって俯くと、幸村くんが私の顎をくいっと持ち上げた。そして「覚悟しててね」と不敵に笑って、





噛みつくようなキスをした







8888「ハハハハ!」ヒットを踏んで下さったのぞみ様のリクエストでした。
土 下 座 m(;^;∀;^;)m
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