朝から雨が降っていた。しとしとと、しかし一定のペースで降り続ける雨は地味に厄介で、私は灰色の空を一人虚しい気持ちで仰いでいた。

その時「いっちにー、さんしー!」というまとまった掛け声が聞こえた。近付いて来る。こんな天気でもランニングしている部があるのかと思っていたらテニス部だった。あの芥子色は見間違えようがない。

「もっと声を出さんかーー!!」

先頭を切っているのは隣のクラスの真田くんだった。後ろの面々はみなびくっと肩をすくめて声を張り上げ始める。よく見ると真田くんのすぐ後ろに同じクラスの仁王くんがいた。あの一団で最もやる気の無さそうな顔をしている。逃げないように真田くんに見張られている雰囲気だった。

「よっ、何してんの?」
「!」

テニス部に気を取られてすぐそばに人が来ていたことに気付かなかった。びっくりした。音も無く近づいてきたその人物は薄い緑のガムを膨らませながら、全身をしっとり濡らして立っていた。

「ま、丸井くん?ランニングの途中じゃ、」
「あーいいの。俺らしんがり担当だったんだけどジャッカルに一任して来たから」

これまた同じクラスの丸井くんは言ってることは酷いけどにっこり笑っていて何だか憎めない。昇降口を行き来する人がちらちら彼を見ている。丸井くんに限らずテニス部の面々はとにかくもてる。

「それよりお前はどうしたんだよ。もしかして傘無いとか?」
「あ、うん・・・天気予報見てなくて」
「確か生徒会室で借りれるだろぃ」
「何か行きづらいし」

丸井くんは「柳生はランニング参加してたっけかなー」とぶつぶつ言っている。赤い髪が濡れてぺたんとなっているのが可笑しい。わたしと背丈はほとんど変わらないけど、ハーフパンツから伸びる足は形のよい筋肉で引き締まっていた。男の子の足だ。

「俺の傘部室だもんなー」
「いいよ、わざわざありがとう」
「あっ、そだ」


丸井くんは何を思ったかいそいそと着ていたジャージを脱ぎ始めた。それは何となく湿って色が濃くなっていた。

「え、あの」
「これ一応防水だから。何も無いよりマシだろぃ」


そう言って丸井くんは満面の笑みでわたしの頭にジャージを被せた。確かに思ったほど冷たくは無かったが、じんわりと湿っぽさが伝わる。

「いや丸井く」
「いいっていいって!あ、お礼に明日お菓子持って来いよな!」
「まー・・・!」

とろけそうな笑みでそれだけ言い残すと、丸井くんは丁度一周して戻ってきたテニス部に違和感無く溶け込んでいった。

残されたわたしには周囲から何とも言えない視線が注がれた。羨望というよりは哀れみ寄りの視線だった。あの丸井くんのジャージという以前の問題でわたしは痛ましいらしい。だけどここで傘を借りに行ったりしたら丸井くんの耳に入るかもしれない。あの無邪気な微笑みを思うと彼を裏切れない。わたしは覚悟を決めて昇降口を飛び出した。






(あれ、今日アイツ休み?)(風邪で発熱らしいぜよ)
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