「にお、」

「・・・・・・」

「におー、仁王」

「・・・何じゃ幸村」

病院の待合室で幸村に起こされて目が覚めた。ゆるりとした晩秋の午後だった。見舞いに来たはいいが今から身体を拭くのだと言ってナースに追い返された。幸村は大きなメロンを抱えていた。アイツ幸村と何か関わりあったか。あー、小学校が同じだったか。分からない。どうでもいい。

「こんな所で寝てると風邪ひくよ。病院なんて風邪菌がウヨウヨだよ。入院棟だって」

「・・・幸村、よく来たな」

幸村は一瞬目を見開いた。

だってそうだ。場所こそ違うけれど幸村は病院なんてもう見たくもないはずだ。それなのに誰も連れずにやって来るなんて信じられない。

幸村はふうむ、と唇に手を当てて、それから柔らかく笑った。

「俺だからこそでしょ。患者の気持ちならちょっとは分かるよ」

「・・・・・・」

「彼女はきっと仁王が寝不足になるまで根を詰めるの嫌だよ。自分を責めちゃうと思う」

「は」

「仁王ちょっと痩せたし」

「・・・元からぜよ」


幸村にはやっぱり敵わない。彼女が入院してからというもの病院通いであまり部活に来なくなった俺を放置してくれているのも幸村だ。幸村の全てを知ったかのような優しさを目の当たりにすると何もかもを投げ出して泣き出したくなる。すがりたくなる。こんな自分はおかしいって分かってるけれど。

「・・・辛い」

「うん」

「俺のことより彼女のこと考えるのが辛い」

「うん」

「・・・・・・何でアイツなんだろって」

「分かるよ」


話を聞いてもらうと少し気が楽になる。一方でそんな幸村にさえも噛みつきたくなる。分かる?何が分かる?彼女は手術する力もなくあとちょっとで俺の前から、この日常からかき消えるんだぞ。自分の気持ちの荒れようが嫌になる。幸村自身の葛藤は俺が直に見たはずなのに。

違う。自分より彼女を理解しているかのような幸村が気に食わないだけだ。こんな時にも浅ましい嫉妬心。思わず自分を嘲笑した。幸村が俺の隣の椅子に座る。

「彼女メロン好き?」

「・・・大好物」

「それはよかった」

「幸村が来たなんて多分驚くぜよ」

「ふふ、いつも彼氏をお世話してますって言わなきゃね」


幸村と二人。待合室にはゆったりとした時間がたゆたう。喧騒から切り取られた空間。それに心地よさを感じると同時に、一秒でも長く彼女の側にいたいとも思う。つくづく俺のいのちの中心はアイツなんだって気付かされる。生きていてほしい。彼女のため、そして俺のために。それなのに


ああ、何で連れてかれるのがアイツなんじゃろ。
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