観察日誌(仁王) | ナノ

隣の席の仁王くんは不思議な人である。と言うのもオブラートにしっかりとくるんだ表現で、実を言うと変な人である。屋上でシャボン玉を吹いているかと思えばベンチで猫と昼寝している。テニス部に所属しているがその他はほとんど単独行動をしているようだ。そのくせ生徒会役員の生真面目な柳生くんと気が合うらしいのである。ますます謎だ。

彼は本当はどんな人なのだろう。非常に興味深いので、仁王くんの行動を今日は一日観察してみようと思う。もしかしたら彼のファンに高値で売れるかも・・・いや、私が変態みたいになるからそれは止めよう。


一時間目 古文
仁王くんは来ない。


二時間目 理科
仁王くんが来た。「おせえっ」と振りかぶった丸井くんの鳩尾パンチをひらりとかわし、ひどい猫背で席に着いた。
対象の観察に実験は付き物である。だから試しに勇気を出して「おはよう」と言ってみると声が上擦って消えたくなった。仁王くんは一瞬驚いたような顔をしたけれど、目を柔らかく細めて口の端をちょっと上げて「おはようさん」と返してくれた。銀髪が朝日を受けてキラキラしていて、不覚にも見とれてしまった。


三時間目 数学
仁王くんは全く板書を写さないでひたすらノートに向かっている。問題集を解いているみたいだ。やはり猫背だが手の動きは速い上によどみない。
そう言えば仁王くんはこの前数学のテストの高得点者で名前を呼ばれてた。羨ましいことこの上ない。仁王くんは理系に進むんだろうな。立海は生徒が多いしこの先同じクラスにはなれないかもしれない。


四時間目 英語
クラス全員で教科書の朗読をしているとき他のみんなと仁王くんの口の動きが違うことに気付き、慌てて読唇術を試みる。
「あいと ゆうきだけが ともだち」



昼休み
仁王くんは席で丸くなって寝ていた。みんなが騒ぎ出しても起きない。先生に呼ばれても起きない。丸井くんが背中をバシバシ叩いても起きない。

「幸村くんが招集かけてんぞ!」

起きた。のそのそと立ち上がる仁王くんに気取られないように慌てて視線をそらした。でも仁王くんはすれ違いざま私に向かって

「丸井がうるさくしてすまんかったのう」

と薄く笑った。口ごもって「あ、うん」としか言えなかった。自分が恨めしい。


五時間目 美術
まさかの隣の人を描きなさいというお題が出た。仁王くんと机を向かい合わせて座る。死にそう。心臓飛び出そう。だいたいどうして神様は私をこんな顔に創ったのか。仁王くんの方が断然綺麗ではないか。
「ごめん仁王くん私絵下手だから、」と断りを入れると「奇遇じゃのう俺もぜよ」と他人事のように返された。
分かってたことだけど仁王くんは優しい。それになんだか大人だ。せめて出来るだけ実物に似せてかっこよく描いてあげたい。仁王くんの目線が画用紙を向いている隙に彼をじっと見た。
それにしても睫毛が長い。鼻筋も通っていてやはりイケメンは違う。ホクロがまた魅力的というか何と言うか・・・

「出来たぜよ」
「え、もう?」
「プリ」

そう言って見せられた私の絵は見方次第で誰とでも取れるような不可思議なものだった。よく分からないが仁王くんらしいと思った。
ちなみに私のは大失敗だったがモデルからは「生命の力強さを感じる」とのコメントを頂いた。よく分からないが気に入ってくれたらしい。良かった。


六時間目 歴史
落とした消しゴムを仁王くんが拾ってくれた。
早く反応したのは仁王くんの方だった。しなやかな動作で消しゴムを拾い上げ、付着した埃を「フッ」っと一息で吹き飛ばしてくれた。そんな仕草にも妙な色気がある。吸いつけられたみたいに目が離せなかった。

「ほい」

渡してくれたとき仁王くんの指が私のそれと接触した。仁王くんは白魚のような指で、シャープペンシルくらい長さがあるものだったら私たちの指先は触れ合わなかっただろう。一瞬、でも確かに感じた仁王くんの温度は冷たかった。
混乱してろくにお礼も言えなかった。呆れられてしまっただろうか。だけどとても優しい手つきだった。


追記
結局仁王くんを観察してお世話になっただけで終わってしまった。もう仁王くんは部活に行ってしまったけどさすがにそれまで観察するわけにはいかない。仁王くんはやっぱり謎だけど優しくて興味が尽きない。明日も観察したい。彼の良いところがもっとたくさん見つかりそうだ。
何だか暗くなって来た。早目に帰ることにし




「何書いとるんじゃ?」








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