昼休みの図書室は人が少なくとても静かだ。大きな窓からは午後の日差しが射し込みぽかぽかと暖かい。しかし今日はそんな和やかな風景にそぐわない殺気を放つ人物が一人いた。この私である。

視線の先には日溜まりと化した机で本を読む背の高い少年―――同じクラスでテニス部の柳蓮二。彼の背中に怨念を送りながら歯を食いしばった。何しろ彼は目下私の最強にして最悪の敵なのだ。


事の起こりは先週の校内模試・・・いや、中学入学時と言っても過言では無い。私が持てる全てをかけて勉強したにも関わらず、あの柳蓮二という男は至極当たり前のようにトップをかっさらっていった。私は屈辱の2位。それだけじゃない。今までのあらゆるテストで私は柳蓮二に勝ったことがない。

大体テニス部は成績上位者が多すぎる。今回私は私的な時間を全て勉強に捧げてやっとテニス部の幸村・真田・柳生というそうそうたる顔触れを倒すことに成功した。幸村精市という部長に限っては入院している期間のブランクがあったかもしれないが、勝ったものは勝った。


でも柳蓮二にだけは勝てない。


あんなハードな部活をしている人に負けるというのはもう才能の差なのだろう。私は悔しくて悔しくて仕方が無かった。どうにかして柳蓮二をギャフンと言わせたかった。


そして考え付いたのがこれである。私は脇に抱えたプリントを見てニヤリと笑った。

某全国最難関大学のとびきり難しい数学の入試問題の一つ。もちろん私をはじめ中学生に解ける訳などない代物だ。例えあの柳蓮二でも。

そして私は昨日血眼でこの問題の解答を暗記した。その私がこれを柳蓮二に質問する。柳蓮二は当然悩む。彼はギブアップする。そのタイミングで私が模範解答の考え方を閃くのだ。


なんという完璧なプラン。柳蓮二の参った顔を拝める瞬間も近い!私の興奮は早くも最高潮に達していた。


しかし肝心の柳蓮二に声を掛けるタイミングが取り辛い。何だか楽しそうに読書をしているので邪魔しにくいのだ。くそ、このままじゃ昼休みが終わる・・・!


「そこでさっきから何をしているんだ?」
「へ?!」


驚愕した。なんとターゲットの柳蓮二がいつの間にかこちらを向いていたのだ。彼は怪訝そうに眉を寄せている。もしかして私、自分の世界に入っていて気づかなかった・・・!?想定外の出来事にさっそく心が折れそうになった。


浅く深呼吸する。
落ち着け。私には完璧な計画がある。

「えっとその、柳くんに教えてもらいたい問題があって」
「何だ、そんなことで躊躇していたのか。どれだ?」
「これなんだけど・・・」

柳蓮二が彼の座っている隣の椅子を引いたので私はドキドキしながらそこに腰掛けた。

「珍しいな。お前が俺に質問するなんて」
「え」
「初めてだろう」
「そそそうかな・・・!?」

ヤバい!不自然だった!?探ろうにも柳蓮二は相変わらずの涼しい糸目で表情が読めない。ダメだ、作戦は進行するしか無い。

「ぐ、偶然見つけた問題で解らなくてもやもやしてたの」
「成る程な。分かった、やってみよう。筆記用具を貸してくれないか」
「あ、うん」

私のピンクのシャープペンを柳蓮二が細く長い指で受け取った。指先の綺麗さに思わず見とれてしまい、自己嫌悪に陥った。


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