四月十四日、時刻は午後五時四十分。私たちテニス部員は輪になって部室の中央の机に乗った物体を凝視していた。


「・・・これは」
「ちょおさすがに・・・」
「ありえへんっスわ」





「うわああああ!!」
「落ち着きなはれ」
「銀さんこればかりはそんなこと言われても!どどどどうしよ!どうしようねえ小春ちゃん!」
「う〜ん、蔵りんと健坊が部長会議から戻るんにもう時間あらへんしねえ」
「せやで!小春の言う通りや!」
「ユウジは何もしてないじゃん!」

「アホか!自分が『みんなが部活してる間に私がやっとくね!』て言うたんやろが!誰がマネージャーが悪魔の晩餐みたいな代物作ってくる思うねん!何や弁明あんなら述べてみい!」


そう言い放ちユウジが指差したのは、目下論争の中心であるダークマター・・・もとい我が四天宝寺テニス部部長・白石蔵ノ介のバースデーケーキだった。その暗黒物質は一応箱に収められているが、先ほど興味本位で箱を開けてつまみ食いした金ちゃんは卒倒した。今千歳が保健室に搬送したところである。


事の発端は一月前。私が白石がいない時に彼の誕生日プレゼントの案を募ったところ、入部したての金ちゃんの熱烈な希望で手作りケーキを渡すことになった(切り分けられるから)。

そして丁度その日は学校全体の部長会議で白石がほとんど練習に来ないため、鮮度も考慮してケーキ作りは当日決行に。そこで私は近くにいた部員にケーキの味の希望を聞いた。部員みんなの希望が詰まったケーキこそが部長への日頃の感謝を込めた贈り物にふさわしいと思った。だから、



「・・・だからスポンジに青汁の粉末混ぜて、クリームの代わりに白玉入りのつぶ餡を塗って、タコヤキとチーズをトッピングしたんスか・・・」
「・・・うん」
「てゆうか謙也くんと光ちゃんと金ちゃんの好みやないのおおおお!」


ちなみにチーズは白石の好物チーズリゾットからの選抜である。


突如「おい待たんかいいい!」と謙也が詰め寄って来た。目がギラギラしていて少し怖い。

「まさか俺がわざわざ持参した高級青汁そんなことに使うたんか!」
「だってそのためのものでしょ!いいじゃん別に!」
「ええわけあらへん!何やスポンジに混ぜるて!緑のスポンジて何や!」
「だって今そういうお菓子あるよ!ホウレン草やトマトを使ったケーキもあるし、それにあんことの相性もよさそうだし・・・」


「抹茶と一緒にせんといてくれます?」

光が不機嫌そうに言った。

「せっかくのあんこの気品ある風味が台無しや。俺がわざわざオススメのトコ教えてやったのに。大体ケーキに青汁てどんな提案や。頭沸いとんのとちゃいます?」
「何やとこら財前!ケーキに白玉ぜんざいこそおかしいやろが!土俵がちゃうねん土俵が!」
「小倉トーストみたいにあんこ使った洋モノはあるでしょ。和と洋の崇高なコラボっスわ」
「ああもう!喧嘩してる場合じゃないでしょ!」



その時部長会議の終了を告げるチャイムが鳴った。全員がピタッと固まる。


「ど、どないするん・・・!!白石ら来てまうで!」
「慌てるんやない謙也。ここは諸悪の根源に何とかしてもらうんや」


ユウジがそう言った途端、全員の視線が私に注がれた。



・・・え?


「え、ちょ、何みんな!」
「元はと言えば自分が悪いんや。白石に話を通せ。その間俺たちはロッカーに潜んでおく」
「は!?ちょっユウジ!!」
「堪忍ね〜」
「ま、しゃーないっスわ」
「自業自得っちゅー話や!ほら銀、ロッカー入られへんのやったら奥の小部屋にでも隠れとり」
「うむ」
「ま、待ってよ!みんなの薄情者!!」





「ただいまー・・・って、ん?自分一人か?」
「え゛」

恐る恐る戸口を見る。

「小石川は文化部の方の連絡会に行ってしもうたわ。みんなどこ行ったん?」
「あ・・・えっと・・・」


し、ししししし白石ーーー!!
どうしよう、まだ心の準備が出来てない。でももう時間が・・・!!


ところが白石は荷物を置いて部室を見渡し、机の上の箱に目を留めてしまった。真っ直ぐな目で見つめている。

「これ・・・」
「あ、違う、それは・・・」
「まさか、自分の手作りか?」


バレてるーー!?心臓が凍りついた。いやでもそれならそれで暴露しやすい。よしきたこの作戦で・・・

「あの」
「もしかしてこれを俺に渡すためにみんなを帰したんか・・・?」
「は?」

白石は急に私に向き直り両肩を掴んできた。白石の端正な甘い顔がすぐそばにあって、凍りついた心臓が超高速で動き出す。

白石の目はキラキラと輝いていた。


「ありがとう。ほんまに嬉しい。俺も自分がずっと好きやったんや」
「へ」

瞬間、あちこちのロッカーがガタガタと揺れた気がした。私はサーッと青くなったのだが白石は風か何かと判断したらしい。

「自分のこういう気が利くところとか、頑張り屋さんなところとかいつもええなあって思ってたんや。誕生日にこんなサプライズ貰えてほんまに幸せや」
「え、あ、」

何だこの展開。肝はヒヤヒヤしているのに顔が暑い。白石の背の高さとか肩幅の広さとかそういうのにばかり気を取られてしまうなんて。


白石の唇が耳元で囁く。


「、俺と付き合うてくれるか?」
「は はいいい!」


「よっしゃ!」と抱き着いてきた白石ごしにポカンとしているロッカーの住人たちが見えた。謙也が恐らく私以上に真っ赤になっている。後数秒で彼は耐えきれずに飛び出してくるだろう。他のみんなも出てきて、千歳と金ちゃんも戻ってくるだろう。すぐにケーキの秘密が白石にバレてしまうに違いない。 白石は驚き呆れて言葉も出ないだろうな。いやむしろ無理に食べて失神するかも。


でもまあ、そんなことはどうでもいいや。だって白石がここにいるんだもの。それ以上に大切なことってきっとない。火照る顔を背けながら柄にもなく「この人が生まれて来てくれて良かったなあ」なんて思った。




「言い忘れてたけど誕生日おめでとう、白石」
「おん!」



2010.4.14 白石ハッピーバースデー!
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