「なあ、お前E組の本田が好きってマジ?」
「!!!!」


昼休み、つかつかと私の席に来た丸井はいきなりそう言った。あまりの衝撃に私はとっさに丸井の口に手を押し当てた。慌てて辺りを見渡す。どうやら誰にも聞かれていないみたいだ。

「ちょっ、ちょっと!何言ってんのいきなり!」
「も、もが」
「うわっ!この状態で喋ろうとしないでよ!」

そのまま丸井を引きずって廊下まで出たところで彼を解放した。目を白黒させていた彼は水から上がったばかりのように大袈裟に呼吸する。

「バッカお前鼻まで押さえるヤツがあるかよ!息全く出来なかったんだぞ殺す気か!」
「丸井が悪いんだよ!何で人がいるとこであんな・・・!」


その先が言えない。ダメだ。顔が熱くなる。

急に黙った私を丸井が半眼で見てくる。

「何そのムカつく顔」
「マジなんだ」
「っ・・・」

そう。私は本田くんが好きだ。でも誰にも言ってないのにどうして丸井が知ってるんだろう。

「なあアイツのどこがいいわけ。身長?まさか身長?180センチの長身?」
「別にそういうんじゃないけど・・・」
「だったら何だってんだよ!」


ずいっと丸井が身を乗り出してくる。丸井は小柄だから背の高い本田くんが気に食わないのだろうか。そりゃまあ背が高いのもポイントだよ?爽やかな笑顔もいいし。でもやっぱ一番は


「本田くんバスケ上手いから」
「はあ?」
「今私たち体育の授業でE組とバスケやってるでしょ。まあ本田くんはバスケ部の部長だから上手いの当たり前なんだけど、それでもみんなを振り切って走って誰にも邪魔されずにシュート決めるの見てたらすごく気持ちいいんだよね」
「何お前バスケ上手いヤツが好きなの?」
「うん。バスケ見るの好きだし」
「ふーん・・・」

丸井は唇を小さく尖らせると、一人で教室に戻って行ってしまった。残された私は何だか間抜けだ。どういうことなんだろう。








「うそ・・・」

信じられない。目を何度も擦ってみたけど、目の当たりにした光景は変わらない。

五時間目の体育の時間。いつもいい感じに競って勝ったり負けたりの試合が、今日は完璧な我がB組のワンマンゲームなのだ。スコアは45対8。圧倒的すぎる。しかも、

いつもはバスケ部員であるチームの主軸が今日は丸井だ。


「遅せーよ」

バウンドしながら走る本田くんに悠々と追い付きボールを弾き出す。見計らったようにそこにいた仁王がボールを取り、「ほーい」と言いながらまた丸井にパスを返す。そのまま流れるようなランニングシュートが決まった。

「妙技!バックボード当て!」
「それ普通じゃ」
「んだよノリ悪いな。まあこの調子でガンガン行くぜい!」
「あ、前半終わった。喉渇いたから交代で頼むぜよ」
「え・・・別にいいけど・・・毎度何なのお前のその自由さ」
「プリ」


仁王がコートから出て代わりの人が入りゲーム再開。私はたまらず仁王に駆け寄った。

「仁王、あのさ」
「ん?」
「今日何で丸井あんなに凄いの?人が変わったみたいな動きだよ」


誰よりも速く走り誰よりも高く跳ぶ。ディフェンスを軽々とかわし、敵のパスはカットし、リバウンドも一番取っている。現役バスケ部どころか主将の本田くんさえ目じゃないみたいに。

丸井の動作一つ一つが網膜に強く焼き付く。洗練された動きに私はいつの間にか目を奪われていた。

仁王は「ふうむ」と顎に手を添えた。何だかわざとらしい。

「丸井は小学生の時ちょっとミニバスをかじっとったらしいからのう」
「だからってこんな突然上手くなるわけないよ!」
「丸井をよう見てみんしゃい」

指差されてコートに視線を戻す。丁度丸井が本田くんを抜いて、レイアップシュートの体制に―――

「あっ!」

テニス部がいつもしている両手の黒いパワーリストが無い。仁王は自分の手首を振りながら言った。

「レギュラーは両足にも着けとる。アイツは身長を伸ばすためにとか言って少なめにしとるが、それでも10キロ以上はあったはずナリ」
「10キロ・・・!」
「普段はもちろん体育の時間もハンデ込みで外さないんじゃが・・・丸井のやつはよっぽど本田に勝ちたいらしいのう」
「えっ」


その時試合終了のホイッスルが鳴った。スコアは65対19。丸井が悪態をつきながら戻って来た。

「仁王!お前のせいで後半点伸びなかったじゃねえかよい」
「ええじゃろ。どうせコテンパンナちゃん」
「つまんねえ」

E組は呆然としている。私も似たようなものだった。そんな私の元に丸井がやって来て偉そうに言った。運動のせいだろうか。頬が微かに上気している。


「俺本田より強いんだけど。俺のこと好きになったんだろうな」
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