こういうつもり(サイ) | ナノ
「あ、僕もうそれいらないです。潔癖症なんで」
「は?」
煮るなり焼くなり好きにして下さい、と言って一度ニッコリ微笑んでから、隣の席のサイくんは視線を黒板に戻した。シャーペンを差し出したままの私はポカン顔である。手の中のそれは綺麗な空色をしていてまだ新しい。ひょっとして今落とした拍子に壊れたんだろうか。カチカチ。芯は出る。ていうか何で。落としたのアンタだろ。私拾ってあげたんだろ。
サイくんは先々週やって来た季節外れの転校生だった。結構整った顔で愛想もいいので瞬く間に女子の人気者になった。その彼が、え?潔癖症?戸惑いながらもそれならまあ仕方ない、のかな?ともったいないのでシャーペンは私の筆箱に納めさせていただいた。
だけど変だ。あれからサイくんを観察してみても何ら特別なところは見受けられないのだ。クールそうな彼は意外にも問題児うずまきナルトとつるんでいたのだが、普通に回し飲みもしているし物を貸したりもする。体育ではキャッチボールもする。掃除だってみんなと同じ箒を使う。
それなのに私が拾ってあげたものはことごとく突き返される。サイくんはよく物を落とす。昨日の赤ペン、今日の消しゴムも新品同様だったのに笑っていらないと言われる。何で。どうして。これはもう私が嫌われているとしか思えない。
そう言えば転校してすぐに絵筆を拾ってあげた時も反応が鈍かった。あの時はまだ「いらない」とは言われなかったけど。転校したての彼に嫌われるなんて私は一体何をしでかしたのか。それとも私のことが生理的に受け付けないとかそんな理由なのか。ぐるぐるぐるぐる暗い考えが胸を侵食して気持ち悪くなる。自分が人に嫌われているということをこれほどまでに見せ付けられたのは初めてだった。どくどくと心臓が嫌な音を立てる。サイくんの顔をまともに見れる自信が無かった。
そんなこんなでサイくんを避けることにした。みんなが帰る時間まで図書館で暇を潰し、もう誰もいないだろう頃合いに教室に戻り、僅かに開いたドアの隙間から中を覗いてみた。
「ああなるほど!サイ〜この調子で宿題全部やってくれってばよ〜」
「嫌だよ、僕だって自分の時間は大切にしたいもの。カカシ先生にわざわざ頼まれてなきゃ誰が猿に数学を教えるなんて面倒なこと」
「おい今何つった」
「比喩だよ比喩」
張本人がいたよ!再び踊り出した心臓が口から飛び出しそうになるのを必死に抑え込んだ。ナルトと二人、席を前後で座って、サイくんが、そこにいる。再び立ち上がれなくて、ズルズルと壁際にへたりこんだ。
「じゃあさ!じゃあさ!帰りラーメン食べに行こうぜ!腹減っちまってさあ」
「・・・悪いけど、今節約中なんだよね」
「ああ、あの作戦中だったもんな!忘れてたってばよ」
「しっかりしてよ。言い出しっぺはナルトだろ」
作戦・・・?私はぐっと耳を済ました。サイくん、やっぱり私に対して何か企んで・・・
「で、どうだってばよ!俺考案・『潔癖症に見せかけてアイツにプレゼント、転校生の僕を印象付けるってばよ作戦』の方は!」
「どうなんだろう・・・そもそも女の子って文房具もらって嬉しいの?最近あの子微妙な顔してる気がするんだけど」
「サクラちゃんは喜ぶってばよ!いっぱい勉強してるからなあ!」
「ふうん、そういうもんなのか・・・でもこの調子で物あげてたらさすがに金欠だなあ」
「それはお前が普通に話しかける勇気がないって言ってたからだろ!ったく面倒な性格のくせに一目惚れなんかしやがって!」
「面倒な性格・・・ナルトが言う?」
「はあ!?どういう意味だよコノヤロー!大体お前が、潔癖症のフリ下手だから疑われてんじゃねーのか!?」
「『一人だけ違う扱いにして特別さを感じさせるべし!』って言ったのもナルトだ。恋愛のことなら任せとけって言いながら」
「そーだっけ?」
なんだ、バカだったのか。