「っ、」
「わっ!大丈夫か!?」

放課後、学校のコピー機を使うのに並んでいた時だった。私の足はよろけた前の男子に思いっきり踏まれてしまった。上履きなので直に踏まれた様な鈍い痛みが走る。思わずその場にしゃがみこんだ。

「うっ・・・」
「ほ、ほんまごめんな・・・立てるか?」

踏んだ本人であろう男子がすかさず一緒にしゃがんだ。ひどく狼狽した声で心配してくれる。優しい人だと思ったけど正直痛みでそれどころではない。涙が込み上げてきて顔も上げられないのだ。

「あかんな・・・おーい謙也あ!」
「ん?」
「俺ちょお部活遅れる!この子ケガさせてもうた。お前んちの病院連れてくから」
「ええけど・・・うわっそれほんま!?あっユウジ聞いてや、白石がなー!」


え。し、白石・・・?

ゆっくり顔を上げるとそこにあったのは心配そうに歪む端正な顔。髪の毛は色素が薄く左腕には包帯が巻かれている。


ま、まさか・・・

「し・・・」
「ちょお待っててな、今俺の自転車取ってくる!もう保健室閉まっとるし、友達んちの病院連れてくけどええか?」
「う、うん・・・」
「ほなそこで待っててな!動かんと座っとき」


そう言って彼・・・見間違い、そして聞き間違いでなければ白石くんは自転車置き場の方に走っていった。

残された私は軽くパニック状態である。だってまさか学校一の有名人・テニス部部長の白石くんと平々凡々な私がこんなことで関わるなんて・・・!!今まで会話はおろか何の接点も無かったのに。動けないのにアタフタしてしまう。そうこうしているうちにもう白石くんが自転車に乗って戻って来てしまった。

「荷台で堪忍な。乗れるか?」
「あのっこんなことまでしてくれなくても大丈夫だから!普通にしてる分の痛みはだいぶ治まったから!」
「せやけど足引きずってるやん・・・。ほんま、ごめんな。俺のせいで・・・」


びっくりした。白石くんが本当に、あまりにも悲しそうに私を見つめたから。今にもその切れ長の目から涙が零れ落ちそうだった。怪我をした私なんかよりずっと痛そうな表情だ。


・・・違う。白石くんはとっても優しいから自分が怪我をさせたことが許せないんだ。白石くんの心も怪我をしたんだ。

すごい人だなあ。


「・・・ちょお我慢してな」
「へ・・・!?え!?」


いきなり白石くんが正面にしゃがみこんだと思うと、素早く私の脇の下に両手を差し込んで持ち上げた。

「しら、白石くん!!」
「・・・はい、これで大丈夫やろ?」

そのまま彼は軽々と私を自転車の荷台に乗せた。私はもう池の鯉のように口をパクパクさせるばかりで、視界には白石くんしか映らない。近づいたときにしたいい匂いとか、腕の力強さとか、そういう感覚が鮮明に残っている。心臓がバクバクいっていて呼吸もままならない。


白石くんは自転車にまたがりながら後ろの私を振り返った。眉が下がっているのが何だか子犬みたいだ。

「スピードより安全運転優先するけどええか」
「あ、う」
「まあ十五分くらいやから。行くで!」


白石くんは私の両手を引っ掴み自分の腰に回させてから自転車をこぎ始めた。身体が密着する。白石くんの背中の温かさが、くすぐったい。この状態が十五分も続くなんて幸せすぎて昇天しそうだ。

白石くんがふと前を向いたまま言った。

「多分な、影響あってんの足の指の軟骨やと思う。自分さっき普通にしてる分は平気や言うてたけど動かしたら痛いやろ?」
「うん・・・」
「軟骨でも最初のうちは固定せなあかんし何週間かは不便やと思うねん。せやから俺に手伝わせてくれる?」
「え、」
「学校行くとき迎えに行くとか、帰り送ってくとか。俺部活あるから融通は利かへんけど」
「いや、そんなことまでしなくても・・・!」
「俺が満足出来へんねん。責任取りたいんや。な?」


信号待ちで、白石くんは真面目な顔で振り向き様にそう言った。




(神様、ありがとうございます!!)





何の関わりもない女子が白石と出会うには?と考えた結果。
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