忍足くんって、なんだか怖そうな人だよね。髪の毛金ぴかに染めてるし、いかつい感じって言うのかな?


いつだったか、そうこぼしたとたん隣にいた白石くんが可笑しそうに吹き出したっけ。




「あぶなっ・・・!」
「え?」


昼下がり、道を歩いていると突然腕を引かれた。驚いて振り返ると、焦った表情の忍足くんだった。側を自転車がすごい勢いで通り過ぎた。


「お、忍足くん・・・?どうして・・・」
「・・・はっ!や、違う、違うから!偶然見かけただけやで、お前のこと!後を尾けとったわけやないからな!」
「う うん?」
「その・・・せやから」


忍足くんは気まずそうにふわふわの髪の毛に手をやった。忍足くんも、それから私も私服姿だった。私たちは数日前中学校を卒業したから当然と言えば当然だ。

忍足くんはシンプルなパーカーにジーンズのラフな格好だけど、スタイルのいい彼だとそれがとてもハマって見えた。


「さっきそこで偶然にお前見かけて・・・何しとんのやろと思ったら、後ろから自転車来とるの見えたから・・・気づいてないみたいやったから・・・やから」
「・・・・・・」
「その・・・」
「・・・うん、助けてくれたんだよね、ありがとう」
「っ、」


私がお礼を言うと忍足くんは笑いを無理矢理噛み殺したような変な顔をした。顔芸の練習中なのだろうか。私はというと、クラスでもあまり絡みの無かった忍足くんからの思わぬ親切に少し戸惑っていた。同時に、かつて自分がこの柔らかそうな金髪の彼を恐れていたことを思い出す。


まあ、一年間同じクラスで過ごすうちに忍足くんは怖い人なんかじゃないとちゃんと分かったのだけれど。


「そ、それにしても奇遇やな。こんなとこで会うやなんて」

忍足くんはチラチラ斜め上を見つつ言った。

「そうだよね、忍足くんの家はこの辺りじゃないよね?」
「おん。・・・ホンマ、まさか今日会えるやなんて思っとらんかったっちゅー話・・・」
「え?」
「ななななんでもない!!」


忍足くんがサッと「バリアー!」のポーズを取った。ああ、なんだか懐かしいなあと思っていると、今度は「アホか!咄嗟に何やっとんねん俺は!」と壁に八つ当たりを始めた。何だそれ。


「どうしたの?」
「へっ・・・ああ、別に・・・ちょっと壁が俺に悪さしよっただけや」
「壁が?」
「せっせやで!こいついっちょまえにガンつけてきよってん・・・オラオラ!全部お前のせいや!ついでにこないだ俺の渾身のギャグが滑って財前に一刀両断されたのもお前のせいじゃボケっ・・・あだー!」


壁を力いっぱい蹴りつけた忍足くんは、しかしその豪快さゆえに爪先を痛めたらしい。悲痛な叫びをあげて無念そうに足をさする忍足くんに、笑いを堪えることができなかった。


「ぷっ・・・だめ、忍足くん面白い・・・!!」
「お、おお・・・?」

お腹を抱えてゲラゲラ笑うと、忍足くんも困ったように小さく笑ってくれた。なんか、可愛いなあ。和むなあ。忍足くんと話したことなんて数えるほどしか無いのに、全く気まずくならないのが心地好かった。


「テニス部の人たちってやっぱり楽しいんだね!」
「光栄やけどな、ひとまとめにせんといてくれるか?絶対白石よか俺のが笑かすセンスあるやん?」
「そう?」
「おまっ!一年も同じクラスにおって分からっとらんとかナシやで!アイツの最後の校門ギャグ録画しとけば良かったな、アレ見たらさすがの女子たちも幻滅するはずやわあ・・・・・・そらお前は白石と同じ委員やし、アイツとの方が俺よりよう喋っとったけど・・・」

忍足くんの言葉の語尾は消え入りそうだった。私はまだ笑いの発作に襲われていたが、やがてポツリと呟いた。


「・・・そうだね。こんなに面白い忍足くんと、同じクラスの時にあんまり話さなかった私って損してるよね」
「えっ・・・」

忍足くんはポカンとした顔で私を見た。

忍足くん、容姿はかっこいいのに気さくで優しくて、いい人だよなあ。同じクラスになってしばらくの間彼を怖がって避けていたのがバカらしい。認識が改まってからも、なんだかんだ忍足くんと仲良くなる機会は無かった。今思えばすごく残念だ。

四天宝寺で過ごした三年間はとても楽しかった。だけどやっぱりもっとこうしとけばよかった、って後悔は尽きなくて。そんなことを考えているときに忍足くんに会ったから、つい感傷に浸ってしまった。


「もっと忍足くんとたくさんお話し出来れば良かったな。あっ忍足くんからすれば迷惑かな?」
「なっ・・・そんなわけないやろ!・・・ちゅーか!」

忍足くんは頬を紅潮させて私を真っ直ぐ見た。


「お前、諦めたみたいに、過去のことみたいに言うなや!俺がいたたまれんやろ!」
「え?なんで?」
「〜〜〜!なんでも!その前に・・・お、俺ら、高校同じとこ受けたやんけ」
「あっ!そうだった!」
「忘れとったんかーい!」

そうだ!忍足くんと私、志望校同じだった!自分でも不思議なくらい気持ちが高ぶるのが分かった。

「じゃあもし受かったらまた同じ学校だね!」
「おん。・・・まあ実は滑り止めも同じなんやってんけどな・・・ふ、二人で受かるとええな!」
「うん!一緒に合格できるよう祈っとく!同じ高校に行けたらたくさんお話ししようね!」
「お、おう・・・朝飯前や・・・」
「思い出いっぱい作ろう!・・・あれ?」


忍足くんの金髪に何かピンクの紙切れのようなものがついていた。手を伸ばすと、忍足くんははっと息を呑んだ。


「おまっ!え、なに??」
「動かないで、ゴミが・・・あれ?紙くず?」
「ああ、それか」

私が取った紙くずを見ると、忍足くんが優しい笑みを浮かべた。

「それさっき浴びたクラッカーの中身やな。テニス部でカラオケ行っとったから」
「クラッカー?何かのお祝い?」
「・・・俺の、誕生日」
「えー!!知らなかった!」
「そらそうやろうな・・・」


忍足くんの顔がまた赤くなる。そう言えばこの一年、お祝いしてるの見たことなかったかも。他ならぬ今日、彼と出会って話が出来たのが運命的に思えた。


「忍足くん、本当におめでとう!」
「あ、あああありがとう・・・」
「そうだ、何か欲しいものある?今日会えたのも何かの縁だし」
「いいっ!そんなんしたらバチ当たるわ!」
「バチ?」


私が首を傾げると、忍足くんは照れくさそうに顔を背けた。


「・・・今日、会えて祝ってもらえただけで嬉しかったし・・・それで十分すぎるっちゅー話や・・・」
「え?なに?声が小さくて聞こえないよ」
「きっ気にすんな!!ところでお前こそ何か・・・せっかくやし、何か俺に出来ることないか?買い物の荷物持ちとかでも構わんし・・・お、俺今時間あるから聞いたってもええけど?」
「そうなの!?じゃあ・・・」
「じゃあ?」
「・・・そろそろ手、放してもらえるかなと・・・」
「あっっっっ!!!!」




謙也くんお誕生日おめでとう!
20120317
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