幸村くんが私を見据えた。

「君のことは気にかかっていたんだ。俺のことをじっと見つめていただろ?」
「えっ・・・!?」


そうだった!?私が幸村くんを!?いや、だけど確かに私は幸村くんをよく見ていたような、妙に気にしていたような・・・

は、恥ずかしすぎる!しかも本人にばれていたなんて死んじゃいたい・・・!


「ごめんね!じろじろ見られたら居心地悪いよね・・・私・・・」
「・・・ふふ、違うんだ。そういう意味じゃなくて」

幸村くんはそっと私の右手を取った。そこに血液が集まって熱くなるのを感じる。


「君は俺を見た後必ず視線を落としていた。まるで俺と比べて自分を卑下するように」
「え・・・?」
「心当たりはあるんだろう?」


幸村くんと、私を、比べて・・・?

そうだ。
私にとって幸村くんは完璧な存在で近寄り辛くて。

話し掛けられると恥ずかしくて上手く対応出来なくて。病室を訪れるのも緊張して。


私はいつの間にか幸村くんを通して、自分を卑下していた・・・?


「私・・・」
「無意識だと思うけどね。・・・俺は君に自信を持って欲しかった。君はここにたった一人しかいない大切な人だから。俺も君を見ていて分かったんだ」


とくん、とくん。

繋いだ手から幸村くんの温かさが伝わる。
まるでこの春のように。全て包みこむように。


「俺は正直今、君が羨ましいよ。テニス部の皆も妬ましく思うことが少なくない」

幸村くんがポツリと言った。

「病気になって希望も失った。何で俺なんだって何度も思ったよ。健康な・・・テニスが出来る身体になれるなら何もいらないって」


でもね。


「結局それも俺自身なんだ。病気があってそれを悲しむ気持ちがある。綺麗じゃない心も全部まとめて俺なんだよ。他人と比べられるものじゃない」


風が桜と私の髪を掬う。

「君が俺をどう思っているのかは分からない。だけど君は君。自分自身にどう向き合うか決めるのも君自身だから」


私はいつの間にか泣いていた。

ああ、幸村くん。あなたの言う通りです。
私はあなたに憧れていた。優しいのにいつも悠然と力強く咲くあなたに。

だけど同時に諦めていた。私は幸村くんみたいにはなれない。幸村くんは別の次元の人だって。私はああいう風に強くなれない。そう決めつけて辛いことから逃げていた。

例えば一生懸命に生きようとするあなたと向き合おうとすることも。自分の弱さが浮き彫りになりそうで。


でもそれじゃダメなんだね。自分から歩き出さないと道は開かないんだ。


幸村くんは手術の前にこのことを私に教えようとしてくれたんだ。


「ありがとう、幸村くん・・・」
「俺は何もしてないよ」

煽られた私の髪をかきあげて幸村くんは優しく笑った。
それでも私が首を横に振ると、今度は困ったように微笑んで、


「それなら俺の手術が成功したら試合を見に来てくれるかな?俺が俺自身の弱さに勝ったところを見て欲しいんだ、君に」





それは、風に踊る春の約束。








相互記念。「色彩ユートピア」の雛榎ちゃんからのリクエストでした。
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