ホロスコープ1 | ナノ


ガックリした気持ちは数時間の後にスッキリ晴れることとなった。夕陽が傾き始めた頃、ローズとアルバスが森の外れにあるハグリッドの小屋に連れて行ってくれたのだ。魔法使いの家にお邪魔するのは初めてだった。獣臭がプンプンする以外は居心地良さそうな小屋だった。小屋とは言えどそれなりに大きいのに、ハグリッドがいることで随分空間が圧迫されている気がした。ハグリッドはニコニコと快く私たちを迎え、昼休みにジェームズが友達と来たことを告げた。


「いやはや、自分でも不思議な気分だ」

ハグリッドはアルバスを見ながらコガネムシのような目を細めた。話を聞く限り結構な年なのに、髪や髭は黒々として、エネルギッシュな存在感を放っていた。

「お前さんのじいさんも、父さんも、俺はこの学校で見てきた。ハリーもそうやってそこで茶ぁ飲んでた、昨日のことみてえだ。おまけにアルバス、お前さんの名前は・・・」

ハグリッドはみるみるうちに涙ぐみ、巨大なハンカチを取り出して盛大に鼻をかんだ。

「アルの名前はダンブルドア前校長からいただいたのでしょう?とても偉大な魔法使いだったんですってね」
「ああロージィ、その通りだ・・・偉大なんてもんじゃねえ。歴代一の校長、世界一の魔法使い・・・あんなお方が今後生まれるかどうか。いんや、もちろんマクゴナガル先生も素晴らしい魔女だ。ただあのお方は次元が違ったんだ、ダンブルドア先生・・・」


アルバス・ダンブルドアという不世出の魔法使いのことについてはうっすら聞いたことがある。あの凛々しいマクゴナガル校長と比べても次元が違うだなんて、一体どれほどの人だったんだろう。アルバスの表情が僅かに曇った。

「そんな凄い人の名前を僕なんかがもらって良かったのかな」
「何をバカなことを。アル、自信を持て。お前さんの父さんも、ダンブルドア先生に負けない勇気の持ち主だった。ロージィ、ロンやハーマイオニーもだ。俺はあいつらに何度も励まされた・・・そんで」

ハグリッドは私を見て何か考えこんだ顔をした。

「ジゼルと言ったな。お前さんに会うのは初めてのはずだが、どうもさっきからどっかで見たような気が・・・はて・・・」

最初私はハグリッドが何を言っているのか分からなかった。だが今までの話の流れで、思考がゆるゆると一つの可能性に行き着いた。


「あの、私の母がホグワーツ出身なんです。わりと母似って言われるから、もしかしたら・・・」
「母さん・・・?母さん・・・アーッ!」

ハグリッドはポンッと自分の膝を打った。その衝撃でテーブルの上のカップがカタカタ揺れた。

「思い出したぞ!お前さんとおんなじ顔の女子学生が確かにいた。レイブンクローだったかな・・・ハリーたちの四つ下だ、多分。変わった子だったな。いっつもフラフラうろついて、絵を描いとった」
「ママが・・・」

私は興奮を隠しきれなかった。ママの学生時代を人から聞けるとは思っていなかった。

「俺の授業を取ってたんでな、覚えとるよ。ペチャクチャ喋る方じゃなかったが、俺には時々話しかけてきたな。見せて欲しい生き物がいるとか、生き物の見た目や動作に関心があるようだった」
「それ、母だと思います。母は仕掛け絵本の作家をしてて、しょっちゅうスケッチをしてるから」
「まあ、そうだったの?」

ローズが顔を輝かせた。

「うん。魔法を使った仕掛け絵本を作ってるの。実はマグル用の仕掛け絵本も別に作ってるんだけど」
「じゃあ私たち、お母様の絵本を読んで育ったかもしれないわ!ママがたくさん買ってくれたもの」

ローズの言葉はすごく嬉しかった。ママの魔法界での仕事について、初めて身内以外の人と話している・・・。ママは本当に魔法界で仕事をしているんだ。その実感がわいてきた。ハグリッドは感慨深そうに頷いた。


「じゃああの子は夢を叶えたんだな。嬉しいこった、そういう話を聞くのは・・・今度俺も本屋で探してみよう」
「ありがとうございます!」

寮に帰ったらママにすぐふくろう便を出そうと決めた。私たちは日がとっぷり暮れるまで幸せな談笑を続けた。四人で話す時間は本当に楽しくて、お腹がよじれ切れるのではないかと思ったくらいだった。あまりに気分が高揚していて、ハグリッドがディナーに出した鶏の丸焼きがおよそ鶏の形状をしていないのにも気付かなかったし、長く鋭い牙のようなものがついたままなのも気にならなかったほどだ。このことは小屋からの帰り道での議題になった。



寮に戻り暖かい談話室に入ると、掲示板の前に一年生の小さい頭が群がっていた。アルバスが人混みをかき分けて問題の掲示を読み、歓声をあげた。

「来週の木曜日、飛行訓練だ!」

アルバスの目がキラキラしている。こんなに活き活きした彼は見たことがなかった。

「ついにきた!スリザリンと合同だけど・・・」
「いいぞ!」

騒ぎを聞き付けたジェームズも大声を出した。薬草学の授業で何か引っかけたらしく、強烈な硫黄の臭いをプンプンさせていて、周りの生徒が一斉に彼から距離を取った。

「じゃあ来週だ、やっと僕もクィディッチが出来る!」

アルバスが恨めしそうにジェームズを振り返った。

「それじゃやっぱりチームに入れたの?」
「入部テストはまだだ。でも絶対入ってみせるぞ!箒もちゃんと磨いてる」
「チームって、グリフィンドールの?」

私が訊ねると、ジェームズは「もち!」とウインクした。

「二年生以上がチームに入れるからね。パパに箒を買ってもらった。新型メテオだぜ、大昔の「流れ星」と一緒にしないでくれよ」
「メテオって、でもものすごく高いでしょう?」

同じ一年生のニーナ・スコットが目を丸くした。結構な人数の生徒が熱い視線でジェームズの話を聞いている。みんな私と違ってメテオがどのくらい凄いのかちゃんと分かっているのだ。

「うん。だけどパパもママも普段は無駄遣いするなってうるさいのに箒に関しては妥協するなって言ってる。それにパパなんか学生時代にファイアボルトを使ってたって・・・メテオが何本でも買える値段だぜ、おったまげたよ」
「ジェームズはどこのポジションがいいの?」

箒の専門的な話になってはついていけないので、私は慌てて話題を逸らした。クィディッチのルールについてなら少しは分かる・・・。ジェームズは待ってましたとばかりに意気込んだ。

「チェイサー!僕は絶対外さないね。どんな体制からだってシュートできる。そりゃシーカーもいいけど、僕はシュートが好きなんだ。去年のチェイサーが二人卒業したし、絶対イケる!」
「僕だって来年は入るぞ!」

アルバスも負けずに食い付いた。にわかに談話室がクィディッチの話題で盛り上がっていた。が、ローズが暗い顔をしているのに気付いた。

「どうかした?」
「ああジゼル、私ね、飛ぶのがとっても苦手なの」
「え?ロージィもクィディッチのチームに入りたいとか?」
「違うわよ!もしかして分かってない?一年生はみんな飛行訓練を受けるのよ」


胃がひっくり返った。知らなかった。クィディッチをやりたい生徒だけが受けるのかと思っていた・・・。私の顔色が変わったのを見て、ローズは深刻な顔で頷いた。

「私、陸上のスポーツはわりと好きなの。マグルのやるクリケットとかね。自分で言うのもなんだけどそこそこ上手いわ。でも箒は、というか足が地面から離れるのがどうも好きじゃなくてね・・・」
「へ、へえ・・・」
「ジェームズやアルバスはサラブレッドなの」

ローズは悩ましげに息をついた。二人をひどく羨ましがっているのが伝わってくる。

「ハリー・ポッターが素晴らしい飛び手だったのはみんなが知ってる。寮の最年少選手だもの。二人のお母さんのジニーだってプロの選手だったのよ!あの家はみんな天性で飛ぶのが上手いの。ジェームズやアルバスは既に選手並みなんですって」
「ロージィの両親は?」
「ママは全然。パパも寮の選手だったけど、ママがこっそり言うには実力にムラが・・・。ねえ、ジゼルは飛んだことある?」

私は静かに首を振った。正直、身体がすくみあがっていた。ママは決して私を箒に乗せたりしなかった。家が大都会ロンドンでマグルに見られる危険性が高い、絶対にそれだけの理由じゃない・・・。私は壊滅的に運動神経が悪かった。通っていた小学校では常にドンケツだった。走ったり投げたりする遊びで上手くやれた試しがなかった。自分が箒から振り落とされる様子が容易に想像できる。


「まあ、そのための飛行訓練よね」

ローズは努めて開き直ろうとしていた。

「ネビルも・・・ロングボトム先生のことだけど、ダメダメだったって。でもそれからついぞ箒に乗る機会はなかったそうだから、大丈夫よ」
「うん・・・」


何が大丈夫だと言うのだろう。少なくともローズは箒に乗ったことがあるのだ・・・。それに私はさっきアルバスが叫んだことを忘れてはいなかった。『スリザリンと合同』・・・イヤーな予感しかしない。スコーピウスは箒の経験者だろうか。乗ったことが無いと考える方が難しい。


アルバスとジェームズはまだクィディッチ談義に花を咲かせていた。私が諦めてママに送る手紙のための羊皮紙を取り出すと、ローズもいそいそと変身術の課題を広げた。隣にいるのに別々の世界に没頭している、この感覚がなんとなく心地好かった。


ねえママ、ホグワーツはママに聞いてたよりずっととんでもないところみたい。でもいい友達に恵まれて、なんとかやっていけそう・・・ここまで書いて、来週の飛行訓練後に全身骨折で家に送り帰されるかもしれないと続けようか迷いに迷ったが、読んだパパが本当に失神しそうなので、無難な文章に変えることにした。夜は静かにふけてゆき、やがて一年生は、ホグワーツで過ごす最初の週末を迎えたのだった。



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