ホロスコープ1 | ナノ


ぞろぞろと進む生徒の群れに半ば流されるように汽車を降りた。先に行ったスコーピウスは影も形も見えない。あんな意地悪な子でも初めて話をした同い年の魔法使いだったのだ。プラットホームに出ると外がすっかり暗くなっていたこともあり、心細さが募ってきた。また癖でポケットをまさぐっていると、後ろから肩をつつかれた。

「・・・・・・?」
「これ、ハンカチ落としたわ。あなたのでしょう?」
「あ、ありがとう・・・」

柔らかそうな赤毛の女の子だった。身長は私とほとんど変わらない。優しい笑顔で私にハンカチを差し出してくれたのだが、手渡す寸前、女の子は小さく声をあげた。

「これ、マグルのメーカーのやつね。ママも違う柄のを持ってたわ」
「えっ」
「私のママ、両親がマグルなの」


この暗闇でそれに気付く女の子にも驚いたが、何より母親の境遇が同じだということにドキドキした。もしかしたら仲良くなれるかもという期待が膨れあがった。

「わ・・・私も!ママがマグル生まれなの。パパもマグルなんだ」
「本当?偶然ね。うちのパパは魔法使いだけど。あなたも一年生?」
「うん、そう。私、何も分からなくて・・・」

「ロージィ!」

女の子のすぐ傍にいた男の子が嬉しそうに叫んだ。こちらは黒い髪で、瞳は新緑の色だ。

「なあに?アル」
「ハグリッドだ!」

男の子の視線の先には、見たこともないような大男がぼやぼや光るランタンを手にして立っていた。長い髪もひげもモジャモジャしていて境目が分からない。「イッチ年生はこっちだ!イッチ年生!」と地鳴りのような声を張り上げていてとてもおっかないのに、二人は顔を輝かせて彼の元へと走った。

「ハグリッド!」
「ん?アルバスにローズ!久しぶりだなあ。元気だったか?アル、お前の兄さんは元気があり余っとるようだったが」
「ジェームズのやつ、一年生を連れてくのはゴーストだのセストラルだの言ってたのに!それじゃやっぱりハグリッドだったんだね」
「そうとも。もう何十年もな。おっと、ゆっくり話す時間は無いんだった。また学校でな。イッチ年生はついてこい!」


ハグリッドと呼ばれた大男に先導されて、集まった一年生の群れは険しい小道を下り始めた。隣に赤毛の女の子がいたので、気になって仕方ないことを尋ねてみた。

「あの大きな男の人は知り合いなの?」
「ハグリッドのこと?ホグワーツの森の番人で、仲良しよ。正確に言うと、私たちの両親のお友達なの」

そう言って女の子はすぐ後ろを歩く黒髪の男の子を見た。男の子もそれに気付いて私たちの方を見た。

「私はローズ・ウィーズリー。こっちの子は従兄弟のアルバス・セブルス・ポッターよ」
「私、ジゼル・シモンズ」
「よろしく。僕のこと、アルでいいよ」

ローズとアルバスはニッコリと微笑んだ。私はというとやっとまともな自己紹介を交わせたことに感動してきた。二人とも優しくて親切そうだ。汽車での出会いが出会いだったので、余計に二人が聖人のように見えた。


「いったいどこまで歩くんだろう」

アルバスが小枝をパキッと踏みつけながら言った。

「パパはボートに乗るんだって言ってたけど」
「湖をボートで渡るのよ。すぐにホグワーツが見えるわ。その後で私たちは組分けされるの」

ローズがあたかも自分が体験したことのようによどみなく答えたので、私は目を丸くした。

「ホグワーツに行ったことがあるの?」
「もちろん無いわ。ママが言ってたの。出来るだけ細かく聞いてきたんだけど、ママが入学したのは25年以上も前だから、変わってるところもあるかも・・・」
「ロージィのママは規格外なんだ。なんせ入学前に教科書を全部暗記してたんだって」

アルバスに耳打ちされて、ホグワーツに行くのが若干怖くなった。教科書、パラパラ捲っただけだ・・・。二人と知り合いになったことで芽生えたなんとかやっていけそうだという前向きな気持ちが跡形もなく消えた。悶々としている私をよそに、二人の関心は組分けへと移っていた。

「やっばりグリフィンドールがいいわ。ウィーズリーはみんなグリフィンドールだもの」
「僕だってそうさ。パパもママも内心期待してるんじゃないかと思うんだ・・・」
「二人のご両親はグリフィンドールなの?」

ホグワーツ特急でも今も、私って質問してばっかりだな、とふと切なくなった。二人は揃って頷いた。


「僕とロージィの両親も家族も、僕の兄のジェームズもグリフィンドールなんだ。ジェームズは僕がスリザリンだって脅すけど・・・」

魔法使いの一家の子でもスリザリンを嫌がるのか。必ずスリザリンに入りたいと言ったあの子・・・汽車で出会った高飛車な男の子のことを話すと、ローズが「ああ・・・」とアルバスに目配せした。

「きっとパパが駅で言ってた子だわ。スコーピウスって名前だった。パパたちはマルフォイ一家が好きじゃないようなの。どうも学生時代にいざこざがあったみたい」
「あの家は闇の魔術に関する噂が絶えなかったって聞くよ。僕たちが敵視するのはやめなさいって言われたけど」
「そうなんだ・・・」
「そんなに嫌な子だったの?ジゼル、私たち汽車で出会えたら良かったわね」

ローズの暖かい言葉に壊れた人形のように何度も首を縦に振った。知り合って間もないのに私はローズが大好きになりかけていた。本当に、二人と同じコンパートメントにいられたら楽しかっただろう。スコーピウスと過ごした時間も貴重ではあったと思うけれど・・・。それに性悪なだけでもなかった気がする。とはいえ私は彼に嫌われたようなので、今後関わることも無いように思えた。

スコーピウスが家族全員スリザリン出身だと言っていたのを思い出した。あんな性格の息子が育つんだから両親の教育にも重大な問題がありそうだ。その彼の両親が学生時代を過ごしたスリザリン寮・・・今なら、スリザリン以外の寮に入れてもらえるなら10ガリオンでも払える・・・。


ローズの言った通り、やがて一同は巨大な湖面のほとりにたどり着いた。そこからの景色は圧巻の一言だった。暗くても分かるずっしりとした峰々、そして高々とそびえる荘厳な城は、数えきれないくらいの尖った塔が空へ空へと向かっているみたいだ。あれがこれから七年間通う学校なんだ。写真よりもずっと立派で歴史を感じる姿だった。

ハグリッドの指示で一年生は四人ずつ小型のボートに乗った。私とローズとアルバスのあとに背の低い男の子が乗り込み、ボートはひとりでに動き出した。漕いでもいないのに信じられないくらい滑らかに進む。黒い水面を見下ろしながらアルバスがぼそっと呟いた。

「ジェームズが言ってた、吸魂鬼はこんな感じでスーッと滑るんだって・・・。ゴーストみたいに。本当かな」
「本当でも嘘でも、考えたくもないわ」


ローズが顔をしかめて身震いした。吸魂鬼ってなに?と訊こうとしたがやめた。何か恐ろしいモノに違いない。自分が魔女だと知ってまる一年、ママは私に少しずつこれから属する世界のことを教えてくれた。動く写真、掃除以外で使われる箒、イタズラ好きな生き物たち。どれも胸が踊る話ばかりだったけど、今思えばママは私が魔法界を怖がらないように伝える情報を選んでいたのだ。ママが見せてくれた定期購読の新聞を読んでおけば良かった。何も知らないまま入学するよりマシだ。


ボートは地下の船着き場で止まった。下船してしばらく歩くと、城に繋がる大きな樫の扉の前に到着した。ハグリッドが力強く三度叩いて扉は勢いよく開いた。


そこにいたのはグレーのマントを羽織った初老の男性だった。チェーンのついた小さな丸い眼鏡を鼻筋にちょこんと乗せていて、ニコニコした表情は親しみやすさを感じさせた。高い身長と痩せた顔から首にかけてのラインは細く伸びた白樺に通じるものがあった。紳士的な雰囲気を漂わせた彼は、役目を終えたであろうハグリッドに丁寧に一礼すると、生徒たちを広々とした玄関ホールに導いた。そこにも見上げるような扉があって、にぎやかなざわめきが微かに聞こえていた。多分、あの先に生徒が集まっているのだ。


「新入生のみなさん、ようこそホグワーツへ。ご入学おめでとうございます。先ほどのハグリッドを除けば一番に皆さんにお会いできたことを、本当に嬉しく思いますよ」

嫌味かと思うくらい丁寧に喋る人だ。男性はそれから、今から全校生徒と教師陣の前で組分けが行われること、でも心配はいらない、ただ帽子を被るだけなのだということを至極丁寧に述べた。男性の落ち着いた声音は耳に心地よかったが、それでも組分けへの一年生の緊張は和らぐことは無かった。


「帽子を被るって、どういうことなんだろう」

無意識に口から出た質問だったが、ローズがすぐさま反応した。

「帽子が自分の入る寮を言ってくれるのよ」
「言う?帽子が?」
「そうよ、考えて喋る帽子なんですって。他にも色々な力があるみたいだけど、確かなのはホグワーツ創設の頃から存在してるってこと。一度全焼しかけて、なんとか復元されたそうよ。燃え残った糸とかで」

被るだけで帽子に何が伝わるのだろう。頭の中を読まれてしまうのかな。恥ずかしい記憶も見られたらどうしようと考えていたとき、向こうの方にきらめくプラチナブロンドを見つけた。スコーピウスだった。胡散臭そうに説明をした男性を眺めている。不安そうな様子は全く見られなかった。彼の隣には背が高い茶髪の男子と、猫目で赤銅色の髪の男子がいて、愉快そうにスコーピウスに話しかけていた。あの二人がコンパートメントから追い出したという連れだろうか。スコーピウスがつるむくらいだから純血に決まってる。

ついに欠伸までしでかしたスコーピウスは頭の角度を変えた拍子に私の視線に気付いた。だがすぐさまツンとそっぽを向かれる。なによ、感じ悪い・・・。ローズとアルバスに言ってやろうと思ったが、ちょうど重厚な音で大広間への扉が開き始めたので慌てて口をつぐんだ。ああ、ついに、その時がきてしまうんだ。



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