ホロスコープ1 | ナノ


休暇明け、ホグワーツ特急でのローズはいつにも増して饒舌だった。母方の祖父母から贈られたマグルの百科事典は彼女の知的好奇心を刺激しまくったらしく、ポッター兄弟と私は息巻くローズにたじたじになっていた。

「それにヒューゴが貰ったおもちゃのロボット本当に凄かったの!でも・・・」

一気にまくしたてていたローズはそこで息をついた。

「あの子落として壊しちゃって。パパが呪文で直してみたんだけど、動きが変になったの」
「そういうのは君のママに頼めよ、ロージィ。向き不向きくらい分かってるだろ?」

ジェームズは大鍋ケーキを口に押し込みながら言った。この冬に声変わりが始まった彼は、ついそれを忘れて大声を出しては痛々しい咳を繰り返していた。

「ええ。でもパパが意地を張ったの。おばあちゃんからパパに送られてきたセーターがまた茶色だって、拗ねてぶつくさ言ってたときだったから・・・」
「そう言えば、三人とも色違いのセーター着てるね」
「うん。おばあちゃんが毎年クリスマスに作ってくれるんだ」

アルバスが自分の着ているセーターを見下ろした。深い緑色だった。

「大変みたいだよ。自分の子供と孫にまで毎年作るもんだから、秋冬はそればっかりになるんだって。本当は息子たちの奥さんにも作りたいけど、女性は特に趣味が分かれそうだから遠慮してるって言ってた」
「全部で何着作ることになるの?」

私はまだウィーズリーの家系図を把握しきれていなかった。アルバスは「うーん」と唸りながら、指を折り折り数えてみせた。

「まずビル叔父さんとそこのビクトワール、ドミニク、ルイだろ?あとチャーリー叔父さん、パーシー叔父さんに子供のモリーとルーシー、ジョージ叔父さんのとこがフレッドとロクサーヌで・・・ローズのとこも三着、うちはパパも合わせて五着だから、えーっと」
「十九」

ジェームズがすかさず言った。彼は問題児のわりに頭の回転がかなり速い。しかしローズがすぐさま否定した。なぜだか浮かない表情に見えた。

「違うわ」
「何だって?合ってるだろ?」
「計算は合ってるけど、十九じゃないのよ。おばあちゃんは毎年もう一着作ってるわ。私、知ってるの・・・」

思わず「どういうこと?」と訊こうとした。でも私が口を開くより早く、ローズが私の足元を見て顔を綻ばせた。

「わあ、ジゼルの新しい靴、すっごく可愛い!クリスマスに貰ったの?」
「うん、そうなの。それと実は・・・」


私は自分の元にスコーピウスからのプレゼントが届いたことを三人に打ち明けた。休暇の間中このことを誰かに話したくてたまらなかった。なんせ嫌われているはずだったスコーピウスとプレゼント交換までしたのだ。これはもう彼と友達になれたとしか思えなかった。

反応は三者三様だった。ジェームズなど話の最中から露骨に胡散臭がった。

「スリザリンの奴からあ?毒入りじゃないの?」
「ジェームズったら、縁起でもないこと言わないの!良かったわねジゼル。マルフォイってすごく律儀なのね」
「いいなあ、銀ボタンシリーズって僕まだ食べたことないよ!美味しかった?」

アルバスの問いかけに深く頷いた。五つあるチョコレートのうち、二つはそれぞれ両親にお裾分けした。自分の分は大事に食べるつもりだったけど、あんまり美味しくて三日と待たずに無くなってしまった。今まで食べたことが無いくらい甘くて濃厚で、しかも口の中で長いこと溶けずに残る素敵なチョコレートだった。不思議なことに箱からはいつまでもチョコの豊潤な香りが消えなかった。私はその箱を本物の飾りボタンのコレクションケースにした。

チョコレートを舐めている間はスコーピウスのことを考えた。あんなにツンケンしてた彼が私に何かくれるなんて、まるで夢を見ているみたいだ。スコーピウスは風邪薬を飲んでくれた可能性があるし、私からのプレゼントもきっと受け取ってくれただろうと思うと、晴れやかな気持ちだった。


「あーあ、僕もスコーピウス・マルフォイとちょっと仲良くしたいかも」

アルバスがふてくされたように言った。そんな弟の隣でジェームズはニヤリと笑った。

「なんだよアル、モノ目当てかよ。下心で友達を選ぶなんて小さい男だな」
「別にそういうわけじゃないよ!ただ、マルフォイって飛ぶのも上手かったし、クィディッチの話も出来るかもしれないだろ?」
「そうしなよ!スコーピウスって結構いい人だよ」

私は力を込めて言った。

「私、スコーピウスに直接お礼が言いたいな」
「そうね、それがいいわ」

ローズが優しく同調してくれた。汽車の窓から外を見ると、遠くの山々にうっすら雪が残っていた。先週のイギリスはずっと大寒波に見舞われていて、ひっきりなしに大量の雪が降った。休暇が例年通りの日程だったらとてもホグワーツには帰れなかっただろう。休暇が大幅に後ろにずれたのは、先生たちが大雪を見越してのことだったのだ。

汽車に揺られながらも一刻早くホグワーツに帰りたくて仕方なかった。私は入学以来初めて魔法薬の授業を楽しみに思っていた。スコーピウスと友達になれたら、学校生活最大の憂鬱が無くなる。自分が完全無欠になった気分だった。

スコーピウスには訊いてみたいことがたくさんあった。お坊っちゃんな彼が家でどんな生活をしていたのかも気になるし、趣味だってちゃんと知れる。謎めいていた家族のことも分かるかも。スコーピウスは美形だから、小さい頃は天使みたいに可愛いかったんだろうな。頼めば写真を見せてくれるだろうか。プレゼントにくれたチョコレートのことも、もっともっと本人から聞いてみたい。

これからのことを考えると胸が踊った。ああ、早くスコーピウスに会いたいな。



・・・なんて浮かれていた数日前の自分はたいそう呑気だったと思う。休み明け最初にスコーピウスに会ったのは授業ではなく大広間近くの廊下だった。しばらくぶりのスコーピウスはまた少し髪型が変わっていて、後ろに流した髪と一部垂らした前髪のバランスがすごくオシャレに見えた。私は彼の姿を見るなり満面の笑みで駆け寄ったのだけど、対してスコーピウスは顔をしかめた。何だかおかしいなと思ったが、私は気にせず話しかけた。

「スコーピウス、久しぶりだね!元気だった?」
「・・・何なんだいきなり、いつも以上に馴れ馴れしいな」
「えっ」

どうしたことだろう、スコーピウスの態度は休暇前と変わらない。私を睨む冷ややかな目付きもそのままだ。少しスコーピウスの近くにいたエディ・ウェーバーがクスクス笑い出した。なんとなく嫌な気持ちがした。

「え、いや、その・・・あっ、クリスマスプレゼントありがとう、すっごく美味しかった!私・・・」
「プレゼントに名前でも書いてあったの?」
「・・・・・・」

スコーピウスは素っ気なくツンと横を向き、私は混乱した。あれ?こんなはずじゃなかったのに。てっきり、次会ったときは友達だと・・・だけどスコーピウスから感じるのは紛れも無い敵意だ。

「な、無かったけどスコーピウスからだってことくらい分かるよ!私が風邪薬をあげたからくれたんでしょう?」
「君の思い込みじゃないのか?」
「違うよ!絶対!」

スコーピウスが立ち去ろうとするので、私は慌てて彼の行く手を塞いだ。なんとかスコーピウスと目を合わせようと必死だった。思い込みなわけ無い。スコーピウスからだとしか考えられないのだ。スコーピウスは面倒くさそうにブロンドの髪をかき上げ、大きな瞳で私を見据えた。


「そう。それなら言うけど、あれは君が僕にマグルの薬で恩を売っただなんて勘違いをしないようにするために送ったものだ。だから君が僕に礼も言う必要は毛頭無い。以上、この話は終わり」
「へ・・・?ちょ、ちょっと!」

スコーピウスはまたもや私を置いて歩いていこうとする。私は咄嗟に彼のローブの端をひっ掴んだ。今スコーピウスが言ったことを頭が受け付けなかった。自分の楽しい想像をぶち壊したくなかった。スコーピウスは呆れた顔で振り返った。

「この話は終わりだと言った」
「待ってよ!そんな、他に言うこと無いの?」
「無いね」
「私に勘違いさせないためだけにプレゼントを?」
「そうだ。君相手にそこまで考えるのもどうかと思ったけど、一応常識で見てオーソドックスと呼べる物にした」
「・・・友達だと思ったから、とか・・・」
「はあ?寝言は寝て言ってくれるかな」

嘘だと思いたかった。だってママもアルバスも言ってた。あのチョコレートは高級で、特別な物だって・・・。しかしそれはあくまで私たちの視点だ。スコーピウスは一際裕福な家庭で育ったんだ・・・。私はキュッと唇を噛んだ。

「私、あなたに恩を売っただなんて思ってない」
「僕からすればそれに越したことはないけど、考えてみれば当然だよね。僕はマグルの薬なんてものを無理矢理に押し付けられたんだから」

スコーピウスは意地悪く言った。彼の目付きは挑戦的で、私は茫然自失だった。それに少なからず傷ついていた。スコーピウスと友達になれるだろうと色んな会話をシュミレーションしていたのが、全部無駄だった。彼は私に一シックル分の友情も抱いてはいない。

「風邪薬、飲んでないの?」
「わざわざ訊くのか?」

スコーピウスの一言一言が胸に突き刺さるようだった。再び自ら傷つきにいく勇気は出なかった。クリスマスプレゼントのことを訊ねるのはもっと怖くて無理だった。

そうだったのか。スコーピウスは風邪薬を「受け取らされて」、本当にただの義理立てでプレゼントを送ってきたのか。スポーツの試合で相手チームに怪我させて、気に食わないけど一応世間体のために花を贈る・・・そんな程度のものだったのか。それにしたって律儀ではあるけど、私の心は数日前のブリザードのように大荒れで、冷えきっていた。


スコーピウスといるとたいてい自己嫌悪する結果になるけど、こんなにも惨めな気持ちになった経験は無かった。すぐ側のウェーバーのクスクス笑いが最高潮に達していることも私の情けなさを引き立てた。私ってば、一人で浮かれて落ち込んでバカみたいだ。バカみたいだ・・・

「おい」

スコーピウスのぎょっとした声が聞こえる。

「泣いているのか―――?」

私は俯いて首を横に振り、その場から走り去った。本当は涙の波はすぐそこまできていた。でもあの場で泣くのは絶対に嫌だった。走って走って寮の寝室まで行くと、教科書を整理していたローズが驚いた顔をして私を見た。

「ジゼル、どうしたの・・・?」

涙が一粒頬を伝って流れた。記憶にある限りでは、生まれて初めて流す、惨めさと悔しさが入り交じった涙だった。



教訓になった。スコーピウスと友達になろうなんて無駄だ。私は完全に嫌われていて、仲良くなる方法を考えるだけ自分が傷付くのだ。スコーピウスは私を助けてくれたこともあったけど、そんなのは彼の都合か、もしくは気まぐれなのだ。


もう知らない。スコーピウスなんて、スリザリン生とだけ仲良くしてればいいんだ。


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