柳先輩はファイルと共に抱えていたノートパソコンを開いた。一面が文字の羅列で見ていて気分が悪くなる。

「これが取り敢えずの柳生からの資料に俺のデータを加えたものだ。みんなのパソコンにも送っておいたが、ホラ、弦一郎の分はプリントアウトしておいた」
「おお、すまんな蓮二。気が利くな!」
「礼には及ばない」

真田警部補・・・その気遣いの本当の意味を分かっているのだろうか。

「失踪したと思われる男の名前は樺地崇弘。身長は190センチメートルで85キロ。1月3日生まれの山羊座のO型で右利き。好きな食べ物はピザと牛丼」
「なんつーか、ボリューミーやヤツだなあ」

丸井先輩がガムを膨らましながら呟いた。柳先輩が続ける。

「幼い頃から跡部に従順に付き従っていたようだ。小学校も跡部と同じイギリスのキングスプライマリースクールで、跡部を追って来日している。繊細で手先が器用とのことだ」

柳先輩は画面をクリックして顔写真を出した。俺も見るのは初めてなのでみんなと一緒に覗きこむ。

「うわっ何かスゲーな・・・デカイし、これ目に光宿ってんのか?」
「おいブン太失礼すぎるぞ。それにしても何歳だこいつ?」
「あ、俺と同じ年らしいッスよ」
「「ええええっ」」


柳先輩は更なるファイルを開く。

「樺地が消えたのは一昨日の午後二時から二時半の間と思われる。跡部がヨットで海に出ている間だな。彼は趣味のボトルシップを作っていたようだが」
「つまりその間樺地は一人だったということか・・・プライベートビーチでは人の数も少ないだろうな」

真田警部補は腕組みをして低く唸った。あまりにも色々な可能性がある。プライベートビーチだからと言って周囲と完全に遮断されているハズも無く、誰でも出入り出来るのだ。まあ当然いるであろう主人の警備隊を掻い潜ればの話になるが。


「跡部の家の警備隊はみんな警察のエリートや海外のSPから引き抜かれた者たちだ。一端の警察小隊なんかより優秀なのは有名だからね。彼らの調査でも何の手掛かりも無かったというのはにわかには信じ難い。誰かの手で拐われたとするなら尚更だ」

幸村警部が画面をじっと見つめて言った。さっきまでのにこやかな表情とは一変している。サスガ警部、風格があ、


「樺地くんの体格から見て単独犯である可能性は低いが・・・190センチで85キロ、きっちり五等分しても一片17キロか・・・」
「!!!!!」


この人はまた真顔で・・・!

その場にいた全員が戦慄した。出来ることなら耳に入れたくなかった。誰も何も言わない。言えない。俺は警部がさっきみたいに「冗談だよ」って言うのを期待していたがその時はついに訪れなかった。


「と、とにかく」

一番最初に持ち直したのは真田警部補だった。さすが幸村警部と長い付き合いなだけある。

「仮に拉致されたとして、犯人が単独でも複数でも何か策を講じていたことだけは間違いない。我々がそのトリックを見破らなければならないのだ!」

みんなが一斉に頷いた。幸村警部が高らかに言う。


「この事件は依頼人からの要望で水面下で動く。ここに居る者と探偵事務所の二人には箝口令を敷くよ。さあ、そうと決まれば俺たちも現場検証だ。柳生に合流するぞ」
「ラジャッ!」


こうして俺たちは茜色の街へ飛び出した。


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