広い署内を走って走って。

「先輩ら!事件です!!」

「「ん?」」

俺は「連続引ったくり強盗事件捜査本部」の看板が掛かっている部屋に駆け込んだ。

中にいたのは机を挟んでジェンガに興じている―――丸井先輩とジャッカル先輩だった。例によって丸井先輩の脇には大量の袋菓子が山積みになっている。スカスカのジェンガの隣にはこの前の事件解決の際に被害者から貰ったマスクメロンが置かれていた。どうやら賭けているようだ。どっちにしろ丸井先輩の腹に収まるんだからジャッカル先輩ももう諦めたらいいのにと思う。


この二人も俺の先輩で両方が刑事だ。腐れ縁なのか捜査本部まで同じ。俺まで巻き添えだ。・・・腐れ縁はこれに留まらないんだけど。


「んだよ赤也かよ。外回りの時は何か土産に食べ物持って帰れって言ってんだろい」

「いやいやそれどんなジャイアン?・・・ってかそれどころじゃないんですってば!」

「さっき事件って言ってたな。・・・何があったんだ?」

「お、おお事件か!こんな遊びしてる暇ねえな!」


ジャッカル先輩が話に気を取られているうちに丸井先輩はすかさずジェンガを総崩しにした。劣勢だったらしい。

「はい、それが――」


「おいお前たちっ!」


ギクッ。

俺たち全員が動きを止めた。俺は恐る恐る、戸口に立つ自分の背後を振り返った。

般若のような形相。鍛え上げられた身体。年齢不精のその顔はまさしく、


「さ、真田警部補!」
「引ったくり事件の事後報告書は正午までに挙げろと言っておいただろうが!今何時だと思っとる!」
「はっ、午後四時半過ぎです!」
「そんなことは聞いてない!」


地震雷火事真田。

捜査本部の上司である真田警部補はこの立海警察署の名物的存在だ。やはり俺の先輩でもある。自分にも他人にも厳しいその姿勢は評判だがその鉄拳制裁を食らうこっちはたまったもんじゃない。


「誰が報告書の作成係だ!?」
「そ、それならもうプリントアウトするだけにしてあるぜ!ジャッカルが!!」
「俺かよっ!・・・いや真田、出来てないとかそういう訳じゃなくて・・・」


よし。この件は先輩たちの責任になりそうだ。巡査で良かった・・・。ホッと胸を撫で下ろしたその時、俺は自分に課せられた使命を思い出した。

「真田警部補!事件なんです!仁王先輩から報告するように言われて来ました!」

だからサボりじゃないんです!そういう気持ちを込めて真田警部補を見つめた。丸井先輩がギロリと睨んでくるが気にしない。

「何・・・!?仁王と柳生の探偵事務所か?」
「はい。人が一人行方不明なんです!」

真田警部補が眉間に皺を寄せた。その顔マジ怖い。

「それは警察の管轄だ。何故仁王の所から情報が伝わる」
「ああ、それには深い訳が・・・そうだ!柳生先輩が俺たち全員のパソコンにデータをメールで送るって言ってましたよ!」

「パ、ソコン」


途端に真田警部補の表情が変わった。口の端が真一文字になった状態でひきつっている。


「真田・・・まさかお前まだ・・・」
「あ、バカ」

次の瞬間ジャッカル先輩は部屋の反対側に吹っ飛んでいた。真田警部補が赤いのか青いのか分からない顔で腕を振りかぶっている。速い。真田警部補の腕の動きが見えなかった。

「微温いわ!」
「あーあジャッカル生きてっかな・・・“風”を食らっちゃって」


丸井先輩の呟きに俺の耳は過敏に反応した。

これが噂の真田警部補の犯人捕獲の究極奥義・・・風林火山・・・!!すげえ、やっぱり真田警部補はすげえ。でもいつか、いつか俺が・・・!!



「何の騒ぎだい?」


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