「忽然と・・・」

事務所に神妙な空気が漂った。少なくとも柳生先輩と依頼人の間には。

仁王先輩は飄々と言った。

「お前さん相談する所を間違っとるんじゃないか。家出でもないんじゃったらそれは警察の領分ぜよ」
「フン、警察なんか当てに出来ねえよ。奴らが下手に騒ぐと大変なことになるからな。樺地の一生をも左右しかねねえ」
「確かに跡部財閥御曹司の関係者と来ればメディアは黙っていないでしょうけどねえ」

おいおい俺一応警察なんだけど。酷い言われようだな、と思うと同時に妙な違和感を感じた。跡部景吾は何故そんなに仁王先輩を買っているんだ。今だって目線は窓の外の蝶を追ってたぞ。

その仁王先輩は覇気の無い声で言った。

「・・・で、二日経った今日来たってことはこれまでお前さん自身で調査してたんじゃろ?」
「察しがいいな。もちろんその通りだ。俺様の家の特殊警備隊を全国にバラ撒いて行方を調べた。樺地ゆかりの場所は全て洗ったが痕跡は無い。俺様と幼少期を過ごしたイギリスも調べさせたが収穫ゼロだ」

むしろその強引さに嫌気が差した家出の線は無いのだろうか。

「成る程のう。ま、天下の跡部の申し出なら無下にするわけにもいかんぜよ」
「やっと動く気になったか・・・『捜査線上の詐欺師』」


は?
今なんつった?

急いで耳の穴をかっぽじってみたがもう遅かった。


「詳しいことは助手が聞く。ほれ柳生、跡部について行って現場検証じゃ」
「やれやれ。相変わらず人使いの荒い」

ガタガタッと席を立つ音が続き俺はまた頭を引っ込めた。ドアが開き、閉まる。部屋が仁王先輩だけになったところで俺はやっとデスクから這い出た。

「ふー、何か事件って感じっすね先輩」
「赤也」
「はい」
「今の情報アイツらに流しとけ」
「は?」

仁王先輩が座ったまま言った。考えの読めない顔をしている。

「え、でも警察には言うなって・・・」
「人が一人消えたんじゃ。事態は一刻を争う。出来るだけ多くの助力が必要じゃろ。水面下で動いてくれる面子となったら見知ったアイツらしかおらんぜよ。情報交換もしやすいしのう」
「・・・・・・」


まさかアンタそれ自分で捜査するのがめんどいだけじゃ・・・とは言わなかったけど。

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