あれから白石サンと忍足サンは跡部サンとの会議に向かい、俺たちは独自に捜査を始めた。先輩たちはもう個人の役割が決まっているらしくテキパキと動いていた。

で、俺は仁王先輩に言われた通り白石サンが出てくるのを待っているところだ。胡散臭いがあんなでも一応先輩なので従うべきなのだろう。なーんか納得行かないけど。エレベーターの前のラウンジで待ちぼうけして既に三時間が経過した。ゲームしちゃダメかな。ダメだよなさすがに・・・


「あれ、切原クン?」
「!白石サン」

やっとエレベーターから白石サンと謙也サンが降りてきた。白石サンは謙也サンに軽く何か耳打ちした後、にこやかな微笑みで俺の方にやって来た。


「どないしたん、こんなとこで。随分と暇そうやけど」
「いや〜先輩たちみんな出払っちゃってて。俺は白石サンから何か面白い話聞けないかな〜みたいな?」
「はは、サボりやんけ」


うーん、崩れた笑い顔も恐ろしいほど爽やかだ。幸村警部とかも綺麗なんだけど何かが違う。うん、白石サンの方が人間らしい。好感が持てる。・・・あれ、何だ今の悪寒。


白石サンは品良く唇に手を当て、「せやなあ」と呟いた。

「ほな散歩でもする?このホテルの周りは緑が綺麗やし」
「いいっすよ!俺はあんましないけど」
「そんな感じやなあ」

暇潰しの提案までもが爽やかだなんて、この人何で出来てるんだろう。





白石サンの言った通り、跡部ロイヤルホテルの周りには美しい庭園が広がっていた。形よく刈り込まれた植木に色とりどりの花。チラリと見ると白石サンの頬が弛んでいるのが分かった。植物が好きなのかな。意識して見てみると成る程完成された庭園ってのは綺麗なものだ。・・・ん?


「あれ?なんかここの植え込み種類が違う・・・?何だこの花」
「!?・・・ちょい待ち切原くん!」
「わ!」


俺が黄色い花をつけた植物に触ろうとしたところ、白石サンがそれを勢いよく制止した。真剣な面持ちで花を見つめている。


「福寿草や。こんな所にあるやなんて・・・北海道ではよう見るけど、その他の地域ではもう少なくなってきてるんや」
「へ・・・へえ・・・詳しいんですね」
「ちなみに毒あるで」
「えッ!」

ぎょっと飛び退いた俺に白石サンは吹き出した。

「ちゃうちゃう。別に触ったらあかんとかやない。植物の毒ってのは根っこや種に多いんや」
「そうなんすか、良かった・・・」
「毒草は身の回りにもあるもんやで。知らんかった?」
「知るわけないじゃないすか。何か聞いたら怖くなってきたんすけど・・・」
「でもな、毒草は必ずしも毒だけのもんやない」


白石サンは優しく福寿草の花を撫でた。


「例えば水芭蕉は毒草やけど薬草でもあるし。超身近な例やと朝顔の種とかな。ファルビチンとかの成分が便秘によう効くんやけど、用量間違えたらあっちゅー間に酷い腹痛にお腹ピーピーやから」
「へー・・・白石サン・・・ってか、人間の知恵ってすごいっす」
「はは、せやな」

白石サンはポン、と俺の肩を叩いて庭園を見渡した。

「この新しい完成された庭の中やったらこの福寿草は異質や。せやけど毒草とか言われる植物でも、人間は絶やさんように上手ーく付き合って来たんや。時に薬草として役立ててな。福寿草はもうここでは希少やから、跡部クンにでも言って植え替えてもらおかな」
「・・・・・・」


「せや」

白石サンはスッと目を細めた。


「共存、してくのが大事なんや。何事もな」


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