「いつまで寝ているつもりだ!さっさと起きんか!」
「わっ!」


鼓膜に響く凄まじい怒鳴り声で飛び起きた。目の前にはどこから出したのか竹刀を持った真田警部補の姿。寝起きで一瞬何がなんだか分からなかったけれど、辺りを見回して記憶が繋がった。

ここは跡部ロイヤルホテルの一室だ。

「いきなり叫ばないで下さいよ!寿命縮むじゃないっスか」
「たわけが。これしきのことで縮む寿命なら犬にでもくれてしまえ!」
「そんな横暴な・・・」
「大体貴様今が何時だと思っている!午前六時半だぞ!集合時間は七時だろうが!」
「十五分前に起きれば充分っス!」
「だからたるんどると言っているのだ!俺は四時起きだぞ!さっさと顔を洗って来んか!!」
「ひいっ」


激昂した真田警部補は恐ろしすぎる。下手したら竹刀で斬られそうだ。朝っぱらから精神を蝕まれる・・・。身の危険を感じた俺は逃げるように洗面所に向かった。顔を洗いながら昨日のことを考えた。


昨日、跡部サンの同級生を追い出してからはずっと作戦会議だった。お陰で夕飯を食い損ねた丸井先輩が機嫌まで損ねたのか俺に当たってくるのがうざかった。でもそこまでイラついている丸井先輩が飯を要求しなかったのは、跡部サンが始終思いつめた顔をしていたからだった。

当たり前だ。自分の周りの人間が犯人、もしくは犯人と繋がりがあるということが分かってしまったのだから。これからは誰と会うにも心のどこかで警戒しなければならないのだ。人によっては精神が崩壊してしまいかねない状況だ。

「赤也まだか!」
「うっす、今行きます!」

考えても仕方ないか。俺たちに出来るのは全力を尽くすことだけだ。




俺たちは今日、ホテル内のレストランの一角に七時集合になっていた。

「あっ来た来た!おい赤也おっせーぞ!」
「おいブン太、赤也は一応間に合ってるぜ」
「はん、警察なら五分前集合当然!これ常識」
「何をいい加減な・・・アンタ腹減ってただけだろ」


つくづく何でうちの先輩たちはこんなに面倒なんだ。丸井先輩とジャッカル先輩はギャーギャー言ってるし柳先輩と柳生先輩は並んだ高そうな食器のメーカーを次々と列挙している。誰も頼んでないのに。仁王先輩に至っては椅子に丸まって夢うつつだ。何しに来たんだろう。

一人優雅に紅茶を飲んでいた幸村警部が俺たちに気付いてニッコリ笑った。

「やあおはよう。真田の怒鳴り声がよく聞こえた実に暑苦しい朝だったね」
「しかし幸村!赤也がいつまでも眠りこけていたのだ!」
「分かってるよ。赤也も一人で起きれるようにならなきゃね」
「幸村警部まで!?」


だいたい俺は十五分前に起きる予定だったから携帯のアラームを四十五分にセットしていたんだ。勝手に起こしたのは真田警部補なんだ。ちくしょう理不尽だ。


すると不意に丸井先輩が肩を寄せてきた。

「何スか気持ち悪い」
「黙れ。お前真田と同室で眠れたのか?」
「は?まあ、真田警部補九時には寝てたし。お前も早く寝んか!ってうるさいこと以外は予想外に快適でしたね。ソファーもふかふかだし」
「マジかよ・・・」

見れば丸井先輩の目の下にはうっすらクマがある。珍しいことだった。

「丸井先輩こそ幸村警部と仲良くベッドで寝てたんでしょ?」
「バッカお前幸村くんのあの言葉忘れたのかよ」
「言葉?」
「『寝相には気を付けてね』ってあれだよ。あれで俺一晩中細心の注意を払ってたんだぞ。やっぱ俺ソファーがいい〜なんて言える雰囲気じゃなくてさ。もう眠りが浅いのなんの」


ああ・・・


そこで次々と朝食の料理が運ばれて来て、丸井先輩の意識が完全にそっちに行ったため会話は打ち切りとなった。

このレストランは一般の朝食はバイキングだが、俺たちは離れたスペースで朝食セットということになっていた。とは言ってもさすがは跡部ロイヤルホテル。美味しそうな焼き立てのパンやご飯、見目鮮やかなサラダや卵料理に食欲がかきたてられる。

「そう言えばさ、跡部はどうしたんだよ」

口をもごもごさせながら丸井先輩が言った。柳生先輩が顔をしかめた。

「はしたないですよ丸井くん。跡部くんは確か十時からの商談の準備をしてるんでしたっけ」
「ああそうだ。跡部は今日は午後からも別の仕事が入っている」

柳先輩が頷いた。ジャッカル先輩が「こんな時まで仕事か、すげえな」と呟いた。俺も激しく同意する。大企業のトップともなれば責任も重大だろう。事件の心配が仕事に影響しないといいんだが。早く、早く解決しなければ。何かに駆り立てられるように俺は飯をかっ込んだ。


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