「何だと!?」

部屋にいた全員が立ち上がった。中でも真田警部補は一番大袈裟なモーションで勢い余って握り拳が隣に座っていたジャッカル先輩にクリティカルヒットした。俺は何より仁王先輩が捜査用の手袋を持ち合わせていたことに感動した。そう言えばあの人探偵だった。

「どこで見つけた!?」
「もちろん砂浜ぜよ。ちょうど日が沈む前くらいに」
「その前に仁王くん貴方一体何をしていたんですか?探してたんですよ」
「クラゲ突っついてた」
「・・・・・・」

仁王先輩の場合逆にリアリティーがある。

「見せてみろ!」

跡部サン以下同級生ズがビンに群がった。鳳が首を傾げた。

「これ・・・樺地が跡部サンの薦めで飲んでたものじゃないですか?」
「ああ、間違いねえ。樺地はいつもこのビンでボトルシップを作ってやがった」
「跡部のススメ?」

首を傾げた丸井先輩に答えるように柳先輩がキーボードを叩く。

「イタリア産の酸素を多く含んだミネラルウォーターだ。運動能力をアップさせる効果がある。・・・しかし高価で一般的な市場にはほとんど出回っていない。樺地も特別に発注していたようだ」
「そんなことより中身だろ中身!早く開けろよ探偵!」
「岳人落ち着き。急かすんやない」


仁王先輩は喧騒に「やれやれ」と肩をすくめ、静かにビンのフタに手をかけた。全員が固唾を飲んで見守った。俺も警察としての緊張が高まっていくのを感じる。仁王先輩の手つきがやけにゆっくりとして見えた。刺すような視線を浴びる中おもむろにビンから取り出されたものは


「手紙のようナリ。まあボトルシップだしのう」
「っ、貸せ!」

跡部サンが紙を引ったくった。見た感じはありふれた白い再生紙だ。二つ折りにされている。紙を開いた瞬間、跡部サンが目を見開いた。

「・・・樺地の筆跡だ」
「何!?」
「『樺地崇弘を返して欲しくば跡部家の経営拡大を停止せよ・・・』クソ、やはり敵対企業か・・・樺地にこんなもん書かせやがって・・・!」

跡部サンが苦虫を磨り潰したような顔をした。確かに人質自身に脅迫文書を書かせるなんて残虐非道もいいところだ。人質の樺地はさぞかし怯えていただ・・・うん、怯えていただろうな。


「見せてくれるかな」

幸村警部が手紙を受け取り柳先輩が横から覗き込む。

「データと筆跡は一致するな。誘拐犯が樺地に文書を書かせた上で彼が持っていたビンに入れた、という所か・・・」
「そうだね。几帳面で繊細そうな字だ。樺地くんはこれを落ち着いて書いていたようだ」
「文面からそんなことが分かるのか?」

宍戸サンが目を見開いた。

「大体のことはね。字は人柄を表すと言うし。赤也も見習わなくちゃね」
「そんな!とばっちりっスよ警部!」
「そうだ!お前の手書きのメモはいつも読み辛い。何とかしろ!」
「ゲッ、警部補」

やばい。とんでもない所にまで火の粉が飛んだ。これ以上は危険だ。何とか話をそらさねーと・・・!俺は苦し紛れに視線を泳がせた。そして、ふとビンの中を一生懸命覗きこむ丸井先輩に目が止まった。

「・・・丸井先輩、ちょっとそれいいっスか」
「んだよ食い物は入ってねーぞ」
「いや聞いてないから。跡部サン、樺地が拐われたのは一昨日ですよね。ということは発注しているその水は少なくとも三日前には製造されてますよね?」
「ああ。確か四日前に届いて冷蔵してたモノだ。それがどうした?」

跡部サンが怪訝そうに言った。


「そのビンに書いてある製造日・・・一昨日っス」


警察たちの間に衝撃が走った。真田警部補がサッと立ち上がり、吠えた。

「この場にいる警察・探偵と跡部以外はすぐに帰れ!ここでのことは一切他言するな!」
「ちょ、いきなり何やねん!」
「ハイハイ出てった出てった!言うこと聞けよい」
「あ、あと――・・・」

バタン。ドアの閉まる音と共に同級生ズは全員締め出された。俺たち警察の見事な連携プレーだった。跡部サンがキッと俺たちを睨みつけた。

「おい。どういうことだ」


ソファーにうずくまっていた仁王先輩が顔を上げる。

「跡部、犯人とおぼしきヤツが使ったビンは樺地が常に使っているものでありながら、樺地の持っていたものではなかったんじゃ。まず間違いなく計画犯ぜよ」
「・・・・・・」
「それがどういう意味か分かりますか?」

壁にもたれて立っていた柳生先輩がクイッと眼鏡を上げた。


「犯人は跡部家とその周りをよく知る者。つまりあなた方のご友人とも関わりがある可能性が高いということです」


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