ふと気が付くと辺りは既にほの暗くなっていた。長いこと同じ姿勢でベンチに座っていたためか、少し身体が疲れてしまっているようだった。晩秋の刺すような冷気が耳に痛い。見上げた空には小さく欠けた月が柔らかく光っていた。つい、アイツの上にも同じ月が出ているのか、なんて考えてしまって、私は強く唇を噛んだ。


「なーにしてんだ、そんなとこで」
「!カンクロウ」


弟の声で引き戻された。近づいてきたカンクロウは私の目の前に立ち、「らしくねーじゃん」と首を傾げた。


「守衛が言ってたぜ。お前もう三時間もそこにいるんだって?木ノ葉との任務から帰って来てずっとかよ」
「・・・別に。私だって考え事をすることくらいある」
「何かあったろ」
「話すようなことは無い」
「・・・シカマルか」
「っ・・・」


「やっぱりな」という顔をしてカンクロウは私の隣に座った。途端に数時間前の光景がフラッシュバックする。同じように、隣で、いつものようにアイツはどこか掴み所が無かった。座高はやっぱりアイツの方が少し低い。そう、無意識に比べている自分に嫌気が差す。


「来てくれって、言われたんだろ。嫁としてアイツのとこに」
「・・・・・・」
「で?どうしたんだよ」
「・・・『バカか』って言って帰って来た」
「ハァ・・・お前こそバカでアホじゃん」
「うるさいぞ!」


だってそんなの、どうしろと言うんだ。


「あんなヤツ・・・!ボケた顔しやがって。なよっちい身体だし、小賢しいばっかで・・・!」
「・・・」
「・・・・・・若いうちから重要な会議に呼ばれるようなヤツだし、里を代表とする秘伝を扱う一族だ。・・・アイツは絶対木ノ葉を離れられない。私だって・・・」
「砂に不可欠な忍だってか?」
「何か間違ったことを言ったか?」
「コレじゃん・・・」


カンクロウのため息が耳についた。ムシャクシャする。何もかも。珍しくグズグズ悩んでる自分も、私の時間と余裕をこんなにも奪っていくあの男も。


アイツと初めて会ったのはもう十年以上前になるのか。飄々とした甘チャンなのに恐ろしいほど頭が回るヤツで、イラつくと同時に素直に認めていた。あの頃の自分はゼロか一かで動くばかりで、誰かを本気で守りたいなんて考えたことも無かったけど、里と弟たちが変容すると共に自分の中でも少しずつ動いていくものがあった気がする。そしてその時、なぜか隣にはアイツがいた。


どうして私たちは忍なんだろうとぼんやり思った。そもそも忍でなければ出会うことも無かったんだろうけど。



「行っちまえよ」
「!」


ハッとカンクロウの方を見た。カンクロウは頭を片手で掻きながら月を見ていた。


「つーか儲け話じゃん?テマリみたいなドギツイじゃじゃ馬を貰ってくれる男、もう現れねーって!シカマルくらいの器じゃねーとやっていけねーよ。アイツも地味に出世しそうだしな。テマリが花嫁なんて全くピンとこないしなんか悪寒が走るけど」
「なっ・・・!」
「お前、今決めとかないと婚期永遠に逃しそうだし。その性格で残り者とかシャレになんねーじゃん?」
「オイ刻むぞ!好き勝手言いやがって・・・!」
「あのなあ!」


カンクロウがいきなり大声を出すものだから思わず口をつぐんでしまった。こちらを向いたカンクロウの顔はいつになく真剣そのものだった。


「だいたいお前、縛られすぎ。砂がお前一人抜けたくらいで破綻するような里だと思ってるのか?」
「何だと!」
「後進指導もちゃんと成果が出てる。お前が頑張った分はきちんと反映されてる。オレらが下忍の頃とは比べ物にならないほど、ここは安定してるじゃん」
「だがっ・・・」
「それに木ノ葉と砂には同盟がある。何かあったら駆けつけて来れる」
「・・・同盟を結んでいるからと言って・・・いつまでも、何のいさかいも起きないという保証は・・・」
「大丈夫だ」


カンクロウの声は力強かった。


「我愛羅とナルトがいるじゃん」
「・・・!」
「そりゃ遠い未来まで永劫平和なんてあり得ねー。けどあの二人がいる間は、大丈夫だって思わねえ?我愛羅だって里のみんなが笑っていられるように頑張ってるのに、姉貴がそんな面してちゃな」
「・・・・・・」
「里を捨てるんじゃない。むしろ砂と木ノ葉の絆がいっそう強まるじゃん。きっと上手くいくって。お前だって、一番一緒にいたいヤツといていいんだよ」
「・・・・・・」



心の奥底で父と母のことを想った。母の記憶はほとんど無い。物心ついた時には我愛羅がいて、家にいて温かさなんて感じなかった。実の弟のことすら愛せても向き合えてもいなかった。それが日常だった。それでいいと思ってた。だけど。


アイツは違う。両親の愛に包まれて生きてきた。アイツが父親に叱られているときも、確かな思いやりを感じだ。母親手製の弁当を食べているのを見たこともある。本当は少し、そんなところへの引け目もあった。


「・・・私みたいなのが、家庭を持てると思うのか」
「どうだかなあ。オレならお断りじゃん。母親にも絶対したくねえ」
「殺すぞ」
「・・・でも、アイツはそんなお前がいいって言ってんだろ」
「・・・・・・ああ」



月明かりが二人を照らす。この月をもし、アイツも見上げているなら、照らし出される顔はどんな表情だろう。あんな大事な話を、適当にあしらってしまって悪かったと思ってるよ。アイツは意外と気に病みやすいところがあるから、周りに悟られてないといいんだが。


私たちは全然違う。アイツは慎重で思慮深いし、私はどちらかと言えば勢いで突き進む。でも例えばアイツが立ち止まってしまったとき、私が乱暴にでも背中を押してやれたら。そんなことを不意に考えるんだよ。


決めた。明日は朝一番に木ノ葉の野営地まで行く。アイツが湿気た面してたら吹っ飛ばしてやる。後悔したって遅いから覚悟しとけよ。お前となら、やっていってもいいって、思ってしまったんだから。



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