妄想ハート(イタチ) | ナノ




私は緊張のあまりソファーで石のように固まっていた。視線の先には電源のついたテレビがあるけれど、内容なんて少しも頭に入って来なかった。かといって隣の彼の方を見ることも出来ないでいる。同じソファーに腰を沈める、30センチも離れていないところにいる彼は私の意中の人・うちはイタチだった。

目玉だけ動かしてイタチさんの動きを捉える。手に持った本をじっと読んでいるイタチさん、ああなんて綺麗なの。デイダラや飛段と同じ男とは思えないほど美しく落ち着いた雰囲気の彼に恋をしてもう長い。


ここは暁が懇意にしているホテルの一室だった。いわゆる裏社会の人に優しいホテルで、みんな一度は利用したことがある場所なのだけど、私は今回初めてイタチさんとここに泊まることができたのだ。イタチさんと同じ任務、どれだけ心待ちにしたことか。

しかも今日はあいにくシングルが全て埋まっていて、なんとツインの部屋を取ることができたのだ。なんたる幸運。天が味方しているとしか思えなかった。


「おい」
「!!!!??はいいい!!?」
「・・・・・・」
「あ、あの、大丈夫ですはい」

び、びっくりしたああ!いきなりイタチさんが話しかけてくるんだもん。挙動不審な私に訝しげにしながらも、イタチさんは真っ直ぐ私を見て話した。

「お前、風呂は」
「あっ・・・ええっと」
「さっき風呂に湯を張りに行っただろう。入らないのか?」
「は、はい!あの、私はまだいいです。イタチさんお先にどうぞ!」
「いいのか?」
「そりゃあもう!」
「そうか、じゃあ」

本を閉じてスッと立ち上がったイタチさんは着替えを持って浴室に向かって行った。暁がこのホテルを気に入っているもう一つの理由にここがユニットバスでないというものがある。広い湯船はとても気持ちよくて、任務で疲れた身体を癒すにはもってこいだった。


この時を待っていた。

イタチさんの姿が見えなくなると私はすぐさま自分の荷物を広げた。取り出したのは強化ガラスでできた綺麗な小瓶。昔どこぞでお土産に買ったものだが、まさかこんな所で役立つとは思わなかった。


「今日こそ・・・イタチさんの残り湯を手に入れるチャンス・・・!!」

そう、私はこの機会を窺っていたのだ。と言うのもこの前立ち寄った国で流行っていた恋のおまじないが、想いを寄せる相手の残り湯を使うというものだった。胡散臭いとは思いつつもイタチさんの残り湯が手に入る上に願掛けも出来るなら大歓迎である。まさか鬼鮫に頼むわけにもいかず、でも諦めないでいたら、ついに好機がやってきた!


「ふふ、準備は万端だもの・・・」

小瓶のストックに、湯を採取した後に封印・保存するための巻物。そして肝心のスポイト。それぞれ今日この日のために念入りに用意したものだった。鼓動が早まる。大丈夫、やれる・・・!



「悪いな、先にいただいた」
「!!!!????イ、イタチさん!お疲れ様でした!!」
「?・・・・・・ああ・・・」

し、心臓止まるかと思ったー!!いきなりイタチさんが浴室から出て来て、私は慌てて荷物を隠した。私としたことが時間を忘れていたなんて・・・イタチさんは烏の行水って有名なのに!

「どうかしたのか?」
「いえ何も!女は支度に時間がかかるので・・・」
「そうか」

どうやらバレなかったようだ。安堵のため息を漏らし、荷物をまとめた私はイタチさんに作り笑いを見せながら浴室に駆け込んだ。だめだ、平静でいられる自信が無い。それに風呂上がりの濡れ髪のイタチさん、なんて麗しいの・・・!ホテルの浴衣も似合っていて、上気した白い肌がたまらなかった。


「そうだ、採取採取・・・!」

服を着たまま抜き足差し足で浴室に入った。イタチさんの入浴後の浴室である。程よい湿り気の空気に胸がいっぱいになった。曇る視界すらいとおしい。そしてターゲットである湯船の側に膝をついた。


「こ、これが・・・」

聖水・・・いや、イタチさんの残り湯。素晴らしい。たっぷりのお湯をたたえた水面はまるで神秘の泉のよう。さすがイタチさん、髪の毛が浮いているなんて粗相もない。見た目にも澄んだお湯だった。私は深く息を吸った。

よし。私なんぞの手をお湯に浸けないように、慎重にスポイトを差し込む。額に滲む汗を集中力で思考から締め出す。スポイトの吸った最初のお湯を小瓶に移したとき、感動で涙が溢れた。お湯はガラス瓶の中でキラキラと輝いていた。小瓶から伝わる温もりが幸せだった。私、やりました。ありがとうイタチさん・・・!


そこからはもう勢いだった。脱力しそうになるのを堪えて丁寧に小瓶三本分の残り湯を採取した。きっちり巻物に封印した後、手早く入浴を済ませ、きっちり湯船にも浸かり、意気揚々と部屋に戻ったときはもう一時間が経過していた。


「お風呂上がりました!!」

イタチさんはまたソファーで読書をしていた。私の威勢のいい声に顔を上げ、前髪を耳にかける。その仕草もとことん優美だった。


「長かったな」
「そ、そうですか?普通ですよ〜」

まあ確かに任務中の忍者としては入浴にこんなに時間をかけるのは稀と言える。怪しまれてはいけない・・・。だが今度の私は気丈だった。なんせ今回の任務での本当の目的を遂行したのだから!巻物に封じたあの小瓶を思い浮かべ、にやけそうになるのを必死に堪えた。大丈夫。私にはあれがある。そう思うだけで心が強くなれる!


「えへ、今回の任務のこと、お湯に浸かりながら自分なりに考えてたんですよ〜」
「ほう。明日の働きには期待できそうだな」
「任せてくださいよ!イタチさんに負けないくらい頑張ります!それにしてもいい湯加減でしたね!」
「そうだったのか」
「はい!・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「オレは湯船には浸からなかったからな。確かに今まで組んだ奴らもここでは長風呂だった」
「え・・・・・・・・・えっ・・・・・・・・・・・・?」
「?どうしたんだ、お前?」





変態」様に提出しました。素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!

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