あの柳とかいう男、危険すぎる。私が女だってこと一瞬で気付かれた。見た目は誤魔化せたって、仕草はそう簡単には変えれない。ハッキリとは言わないけど、100%バレてる。こんなにうまくいかないなんて!
とりあえずあやふやにしてしまおう。でも敵とは言えせっかく奢ってくれたものを残すのはよくないから、瞬殺でカツ丼を飲み込んで席を外した。カツ丼選んでくるとか丸井君頭おかしいんじゃないの。

そんなこんなで。ハイ!
道に迷った。どこだここは。こんなバカみたいに広い学校で、がむしゃらに走ってきて、自殺行為か。人気はない。授業まで時間ない。どーしよう。
しかし、同じ敷地内。落ち着け。帰れないはずないんだから!辺りを見回してみれば木。と、花壇、と、……………あ、人がいる。

「あのう」

こんなとこで何してんだ。なんにせよ助かった!珍しい銀髪に声をかければ、振り返った顔はすごくすごくイケメンで0.001秒くらい固まった。

「…なんでしょ、じゃなかったーなんか用か」
「いや、ここどこかなって思って」
「はぁ?」
「道迷っちゃって」

あわよくば校内まで案内してくんないかな、と思ったけど、無理かなー

「…わかった」

おっ。ラッキー。ついてこいと言われてとりあえずてくてく後を付いていく。いい人そうだな。でもなんでこんななんにもないところに。
そのまま10秒くらい歩いたらやっと広いところに出れた。私はどうやら体育館裏に来ていたらしい。どうやって来たのかしら。
前方に見える校舎にひとまず安心し、さっきの銀髪にお礼を言おうとしたら既に居なくなっていた。変な人。
教室に帰れば幸村君はまだ居ない。頑張ってるん、だなぁ。はやくも心がぐらついてだめだめと首を振る。私も強くならなきゃ。
結局、幸村君が帰って来たのは授業が始まるギリギリ前だった。


そして。
そしてそして。やっとこさ部活の時間に。なりました。この上ない緊張感に既に若干疲れてる。部活も幸村君と一緒に行く約束をしていたから今並んで歩いてるけれど、会話がない。そんでもってこの迫力。さっきまでの穏やかな雰囲気は一切なくなっていて、和やかに話すことなんて私には到底出来ない。ああもう。部室までの道のりが万里の長城並に長い気がする。あと超見られてる。でもわかるよ、わかる。異様だもの、この光景。

「……名字さん」

先ほどまでだんまりだった幸村君がふと口を開いた。ビビって声が裏返ったしまったことを気にする様子もなく、幸村君は静かに言い放ちました。

「これが最後の忠告だ。本当にテニス部に入るんだね?」

しつこいな。相当私のことうっとおしいヤツだと思ってるよこの人。私にだって私の事情があるんだから。あんた達が王者立海と呼ばれていたのは去年の話よ。わからせてやる。
力強く頷けば、目線を逸らしながらそうかとため息混じりに呟いた。うわ露骨にいやがってる。

「俺達は足手まといを面倒みる余裕なんてないってことを忘れないように」
「………ハイ」

きびしー!


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