やっと昼休みになった。ざわざわするクラスの中で一人大きなため息をつく。勉強もだけど、男の子として過ごすことは結構気を張ってしまう。まして今は転校生なのだから周りからも注目されている。

すると少し離れた席に座る幸村くんが立ち上がった。反射的に立ち上がった私を振り返り、幸村くんはフフッと笑った。

「どうかした?」
「い、いや…どこ行くの?」
「ちょっとね。君はお昼どうするの?」
「決めてないけど…」
「そう。じゃあ学食にでも言ってみたら?テニス部もたくさんいると思うよ」
「………!」

じゃ、とニッコリして幸村くんは颯爽と教室から出て行った。それを目で追っていた女子たちはみんな惚けた顔をしていた。

ふうん、やっぱりモテるんだ幸村くん。私には関係ないけど。



午前中に案内してもらった広い学食には人がごったがえしていた。さすがマンモス校である。みんな友達とワイワイ騒いでいて、自分が一人ぼっちなことが少し寂しくなった。

…いいんだ。私はスパイなんだから。あんまり仲がいい人を作ったら危険なんだ。私は心にそう言いきかせて邪念を振り払った。

「えっと、食券食券…」


「食券ならこっちだけど?」
「!」

ひょうきんな声に振り向くと、真っ赤な頭が目に入ってギョッとした。丸い大きな瞳のその少年は、私より少し背が高いくらい。小首を傾げて右を指しながら私を見ていた。

「あ、ありがと…」
「?お前なんか見ねえ顔だな。あ!もしかして噂のC組の転校生?テニス部に入るっていう!」
「…うん」
「おー!俺もテニス部なんだよ!」
「えっ!」

テニス部員…!?
少年は私にニコニコと親しげに笑いかけた。

「貴方がテニス部…?」
「そ!丸井ブン太!同じ3年のB組。立海随一のボレーヤーだぜ!どう?天才的ぃ?」
「はあ…(なにが?)」

しかし立海随一と自分で言うからにはレギュラーなのだろう。そう言えば女子たちが「丸井」という名前を口にしていた気がする。有名な選手なのかも。

「で、お前の名前は?」
「名字名前…」
「名字ね、シクヨロ!ところでお前一人?クラスで友達出来なかったの?一緒にいたヤツとかさあ」

どうやら世話焼きな性格らしい丸井くんは、私をまじまじと見つめてそう言った。友達作れないヤツと思われたらしい。

「ああ…幸村くんって人に案内とかしてもらったんだけど」
「幸村くんに?あっそうか同じクラスだっけ」
「うん。でも幸村くん昼休み始まってすぐどっか行っちゃったんだよね」
「………」
「丸井くん…?」

急に丸井くんは引き締まった表情になった。え、私何か言ったかな。

「丸井くん?」
「幸村くんはさ、昼休みもずっと練習してんだ。遅れを取り戻すために」
「え?」
「幸村くんが一番責任感じてんだ…今も誰より頑張ってて…」
「え?え?なんのこと?」


「丸井、どうかしたか」
「あっ柳」

また一人現れた。背が高く、黒い髪を切り揃えている涼やかな目元の少年。彼は少し怪訝な表情で私を眺めた。

「柳、こいつC組の転校生の名字名前。テニス部に入るってさ」
「ああ例の。噂は聞いている」
「え、えっと…」
「A組の柳蓮二だ。テニス部に所属している」
「そうなんだ、これからよろしく」
「よろしく。…そうだ丸井、今日は俺が奢ってやるから名字の分も定食買ってきてくれないか」
「えー!いいよ」
「えっ…柳くん?」

柳くんに小銭を握らされた丸井くんは軽快な足取りで食券を買いに行った。わけが分からない。ポカンとしていると、柳くんが私に向き直った。上から下まで、舐めるようにじろじろ見られる。居心地悪い。柳くんは背が高いから迫力があってなおさら。

「柳くん…?」
「お前、どこから転校してきたと言った?」
「…あ、愛知の、七里ヶ丘」
「七里ヶ丘?本当に?」
「うん…」

な、なに。この柳くんの「全て分かってます」って目は。何もかも見透かされてるみたい。いやそんなバカなこと…

柳くんは落ち着いた声で言った。

「食事が終わったら少し時間をもらえるか?」
「な なんで?」
「ちょっと話したいことがあってな」
「そそそそう…」

マズイ、と私の本能が告げていた。この人と長時間一緒にいりのは危険だ。私は嘘をつくことにした。

「あー、でも残念だな〜、僕このあとクラス委員に呼ばれてるんだよね」
「……」
「しかもそのあとは担任に呼ばれてるし。至急って言われちゃたたし」
「そうか、ならば一つだけ」

柳くんはそっと私の耳に顔を寄せた。爽やかな制汗剤の香り。



「…内股で歩く男というのは、なかなか不自然なものだぞ」
「っ…!!」


バ、バレてるうううううう!!

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