「なんかほんと・・・悪ィ・・・」
「いや私こそ・・・ていうか元はと言えば私が・・・」
「や、でも俺がちゃんと確認しとけば・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


そして沈黙が訪れた。チラッと隣のブン太を見れば困ったように眉尻を落としている。二人きりの帰り道、空気は今までに無いくらい重かった。と言っても付き合い始めてそんなに月日が経っているわけじゃないんだけど。

きっかけは・・・というか諸悪の根源は、私がブン太にうっかり自分の誕生日を間違えて教えてしまっていたことだった。たぶん別のことでも考えていたんだろう。もちろん私はその事を忘れていた。自分のアホさにもいい加減頭が痛い。

そんなわけで私の誕生日をあと10日先だと思っていたブン太は、今日私が周りに祝われるのを見て愕然としたというわけだ。明らかにショックを受けている様子のブン太に何度も謝ったんだけど、彼は珍しくいつまでも浮かない顔のままだった。


ブン太が沈んでるのはきっと、彼がすごく面倒見のいい人間だからだ。いつもは楽しいムードメーカーだけどブン太は本当はすごくしっかりした人だもの。私の誕生日にもなんやかんや考えていたにちがいない・・・申し訳なさで胃がキリキリするけど、早く元気を取り戻してもらいたいなあ。


「・・・俺さ」
「はいいい!?」

急にブン太が口を開いたのでギョッとした。ブン太はひたすら自分の足元を見つめている。

「実はお前の誕生日には、手作りケーキあげようと思ってたんだ。レシピもだいぶ前から考えてて」
「えっ・・・」
「自慢じゃないけどお菓子作りなら天才的だし?海原祭でも好評の腕前だし??」
「・・・・・・」

やっぱり。そしてそれはどう聞いても自慢である。


「でもさ」
「え??」

ピタリとブン太が立ち止まった。そしてゆっくりと私の顔を見る。

「今日――・・・今日、この場でお前を祝う方法、たくさん考えてたんだけど、何がいいかまったく分かんなくなっちまった」
「えっ・・・」
「俺がしてやりたいことならたくさんあるよ。でもそれがお前のしてほしいことなのか、自信無くなってきて・・・」
「・・・・・・」
「お前は、俺の初めての彼女だから、こういうとき何すれば喜ぶとか分かんなくて・・・その・・・」
「ま、待って・・・」

心臓が止まりそう。切なそうに顔を火照らせたブン太がすごく色っぽくて。照れたように言葉を詰まらせる様子が可愛いくて。おまけに嬉しいことばっか言ってくれるから、なんかもう、私まで恥ずかしくなってきた。ブン太、モテるのに私が初めてだったんだ・・・それだけでなにか気持ちが舞い上がりそう。

それに、ブン太がしてやりたいことってつまり、


「・・・ありがとう」
「は?俺はなにも」
「気持ちが嬉しいんだよ。あと、私はブン太がしたいことしてくれたら嬉しいよ!!」
「えっ・・・」

言ってからドキドキしてきた。ブン太は目を丸くしている。だ、だって男の子がしてやりたいことっていったらつまりアレとかコレとかソレだよね!?それならいつでも大丈夫だし、むしろ最高のプレゼントだよ!!私たち付き合い始めでたいした進展もないし!!私は期待と下心を込めて、ブン太を熱く見つめ返した。


ブン太は一瞬息を呑んで、それからニコッと笑った。


「良かった!じゃあ絶対今度の大会の優勝するから!!」
「・・・は?」
「土日から神奈川のデカい大会始まるって前言ったじゃん?いやー優勝をプレゼント!とかってベタかなーって思ったんだけど言って良かったわ〜!!」
「・・・・・・」
「ジャッカルとのダブルスなんだけどさ、俺たち今かなり調子いいから必ずいい線いくんだって!」
「・・・左様でござりますか・・・」
「あ、もちろんケーキも焼いてやるから!」
「・・・どうも・・・」
「ん?どうしたんだよ微妙な顔して」
「なんでもないよ・・・」


それかよ!最高に爽やかに言い切るブン太に、心の中でがっくり肩を落とした。てかわざわざプレゼントとか言わなくても立海なら黙ってても優勝するだろ!!なんてことは口には出さなかったけれど。ブン太ってちょっとこういうとこあるんだよね・・・マイワールドっていうか自分目線っていうか・・・まあそこが可愛いし楽しいところでもあるんだけど。



「なんだよ、ため息なんかつくと幸せ逃げるぜぃ?」
「っ!」

ブン太が屈んで私の顔を覗きこむ。視線が同じ高さになる。そしてブン太は、屈託のない笑顔で言った。


「な!俺の天才的妙技、最前列でバッチリ見てろよ!決める度にお前に向かってウインクしてやるよ」
「!!」
「あっでも幸村くんや真田に怒られるかな・・・いやさりげなくやれば・・・」
「プッ、馬鹿みたい」
「はあ!?俺はお前のために――・・・!」



全身全霊で落ち込んで笑って怒るブン太を見てると、さっきまでの小さなもやもやが下らなく思えてきた。結局、この笑顔があればなんでも嬉しいんだな、私は。


「じゃあ、勝ったらチューしてよ。あともし負けたらブン太んちにお泊まりしてみたい」
「はあ!!??負けろっての!!??」
「えっ」
「えっ」





25万打踏んで下さったあんなさまのリクエストでした。リクエストありがとうございます!そしてお誕生日おめでとうございました〜

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