柳先輩はいつも冷静で落ち着いている。物腰も柔らかで一つ一つの動作がその辺の女性より余程美しい。それでいて私みたいなマネージャーにも優しいから本当によく出来た人だと思う。

さっきも練習中なのに

「買い出しに行くのか」
「はい。テーピングとか色々。幸村部長に頂いたメモの分も買って来ます」
「この量だとお前一人では辛いな。俺も同行しよう」

と言って薬局まで来てくれたのだ。優しすぎる。同じ学年の切原くんなんか「ついでにポテチ買って来てくれ」なのに。


「どうした、ぼうっとして」
「えっ、あ、いや何でも無いです!」
「そうか」

いけないいけない!今は柳先輩と買い出し中なんだから集中しないと!

それにしても柳先輩がついて来てくれてよかった。先輩は博学だから救急箱の中身一つを取っても業者による違いなどを細か過ぎる程説明してくれる。お陰で予算も浮きそうだ。


その時携帯のバイブの音がした。

「すまない、電話だ」

柳先輩のらしい。

「いえ、どうぞ」
「ああ・・・丸井か。どうした。何?予備は用意しておけと言っておいただろう。・・・分かった」

ピッと通話を切った後、先輩は申し訳なさそうに眉をしかめた。

「すまない、丸井がグリップを誤って濡らしてしまったらしく、グリップテープを買って来てくれと頼まれた。近くのスポーツ店に行ってくる」
「構いませんよ。ここで待ってますね」
「ああ、頼む」

そう行って柳先輩は足早に出て行った。


「ふう・・・さてと、」

買い出しリストを見る。もう残りは少ない。柳先輩が戻る前にお会計を済ませておこう。そう思って振り返ると。



「あっれー!君、立海のマネージャーちゃん?」
「・・・!山吹の千石さん!?」

そこにいたのはかの有名な千石清純その人だった。制服姿だがバッグは持っていない。千石さんは人なつっこい笑みを浮かべたままこちらに近付いて来た。

「覚えててくれたんだ!まあ俺も君は可愛いから覚えてたよ!」
「はは・・・千石さんも買い出しですか?何故神奈川に・・・」
「そうなんだよ〜部活前に女の子口説いてたら南に怒られちゃって、この様だよ。何でも南の懇意にしてるスポーツ店がこの辺らしくて。とんだ出張だよ〜」
「それはまた・・・」
「そしたら君に会えたじゃない?ラッキーだよ!ね、これからお茶でもしない!?」
「え゛」


どうしてそうなった!遠慮しようとする私に気づかないのか、千石さんはどんどん距離を詰めてくる。

「あの、私・・・」
「いいじゃんいいじゃん!ね、折角神奈川に来たんだしお茶くらい」



「悪いが千石、彼女は俺と至急学校に戻らなければならない」
「っ、・・・!」


いきなり背後から強い力で腕を回された。首の下、鎖骨辺りに回されたその腕のせいで後ろの誰かにもたれかかってしまう。

温かい体温を感じる。鼻を掠めるいい匂い。


もしかしなくても。


「げ、柳クン・・・」
「久しいな千石。どうやらかなり元気そうだ」


!!!?や、やっぱり柳先輩!!?

え、嘘!何でどうして私は柳先輩に、その・・・


「せ、せんぱい・・・!」
「お前は少し黙っていろ」

0距離で耳元にそっと囁かれ、一瞬目眩がした。先輩の深みのある声が耳から離れない。

「いや参ったな・・・立海の参謀付きかあ。こりゃあ勝ち目は薄いぞ」
「残念だったな千石。早いとこ東京に帰らないと日が暮れるぞ」
「ハイハイ。お邪魔虫は退散しろってことね」
「??」
「お前は気にしなくていい」
「そゆこと。残念だけどね・・・じゃあお二人さんサヨナラ〜」
「ああ」
「さ、さようなら!」


千石さんががっかりした顔で店を出て、やっと柳先輩が腕を解いた。筋張った男らしい腕。大きな手。


柳先輩も男の人なんだ・・・

意識したらまた心臓が速く動き始める。何だこれ。顔が熱い・・・!

「あ、の・・・柳先輩・・・」
「全く危なっかしいな。千石に流されそうになっていただろう」
「う、・・・すみません」
「今日はもう時間が無いからな。お茶なら日を改めて俺が良い店に連れて行ってやろう」
「えっ」
「おっと、メールだ・・・丸井が急かしている。帰るぞ」
「は、はい!」









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