恋人は忍者 | ナノ


忍者だらけのここ木ノ葉の里において、私たち一般人の女の子の中で口癖のように言われる文句がある。


“忍者と付き合うのは博打である”


例えば下忍と付き合うと、彼は安全だけどチンケな任務が多いため収入は低い。逆に上忍のようなエリートと付き合うと、高収入だけど彼はいつ死ぬか分からないような任務に常にさらされることになる。

それはきちんと忍の心構えを習っているくの一と違って、一般の女の子にはとても辛いことなのだった。





「というわけで私も忍者になりたいからアカデミーに入ろうと思うの」
「っ・・・!?ゲホッゴホッ」

若くして上忍である私の彼氏・名門のエリート日向ネジはあろうことか私の淹れたお茶で勢いよくむせた。


「えっお茶そんなにまずかった!?」
「ちがっ・・・ゲホッ!なんなんださっきの言葉は!」
「そのままの意味だよ。私アカデミーに入ろうと思ってるんだ」
「・・・・・・は?」
「やっぱさー、これからは自分の身は自分で守りたいんだよね。ネジだって任務が忙しいわけだし」
「あのな、」

ネジはまるで問題児を説き伏せるような声音で言った。

「知ってるだろう。普通アカデミーに入るのは十歳以下の子供だ」
「そうだけど。ハイティーンが入学しちゃいけない決まりでもあるの?」
「それ以前に世の中には常識というものがあってだな」

ソファーで私の隣に腰かけていたネジはここで言葉を切り、言いにくそうに少し目を逸らした。


「今となっては俺が至らなかったということなんだが、俺は昔ヒナタ様に『アナタは忍には向いてない』と言ったことがある。ヒナタ様は忍には優しすぎたからだ」
「うわあ」
「・・・この言葉を言いたくないがお前のために敢えて言う。お前はヒナタ様の十倍は忍に向いてない」
「ええっ負の方向に十倍!?」
「そうだ」
「私がヒナタさんの十倍優しいとは思えないんだけど」
「そういう意味じゃない」

ネジは少しイラついたように形のよい眉をピクピクさせた。

「いいか。五十メートル走るのに十秒かかる。遠投はせいぜい七、八メートル。そんなお前が戦場に出たらどうなる?何が出来る?」
「うっ・・・でもそのぶん変わり身とか分身の修行するよ。それならいざというとき役に立つよね?里が襲われたときとか」
「お前は何も分かっていない。そんな簡単なものならみなそうしている」

ネジは目を閉じながら言った。

「そう、もし有事の際に敵に遭遇したお前が変わり身や分身をしたとする」
「・・・うん」
「それが敵にバレた時からお前は忍として認識されるんだぞ。容赦なく攻撃の対象だ。お前を守る最後の砦である『非戦闘員』だという事実をお前は自ら失いたいのか?」
「・・・・・・」
「それにな」

ネジはここで少し眉を下げ、私の握りしめられた拳にそっと手を添えた。

「そんな心配しなくても、お前は俺が必ず守る」
「っ、」

ネジの力強い瞳が私の顔を覗きこんだ。

「もし俺が里にいなくても、木ノ葉の忍は命を懸けてお前たちを守る。しかも俺にはこの眼がある。お前をいつも見ている。だから安心しろ。お前を襲わせることなんて絶対に・・・」
「い・・・」
「?」
「嫌だああああ私も忍者になるんだああああ!!」
「ちょっ、おい!」

力任せにネジの手を振り払い、私は自宅を飛び出した。どうせ帰る場所はそこしかないことに気づいたのは、夕方になってからだった。




「だからってこういうときすぐ僕のとこ来るのやめてくれないかな」
「えーケチッ!いいじゃん!」
「だってあのネジさんって粘着質そうだし。そういう人に恨まれると大変だと本で読んだんだ」

私が押し掛けたときサイは手の爪を切っていた。私を入れた後も私に構わず切り続けている。私は椅子に腰掛けて足をプラプラされていた。忍でありながら私の(茶)飲み仲間のサイは独り身なので、サイの家は何の気兼ねもなく行ける場所の一つだった。


「とにかくもう観念して戻ったらどう?あの人白眼あるんだから君の居場所くらいとうに分かってるだろうに」
「うっ・・・でもネジひどくない?『向いてない』なんてさ!」
「そうかな」

サイは自分の爪を見たまま話した。

「君が忍をどういうものだと思ってるのか知らないけど。過酷なものだよ。心を捨てるというのは」
「・・・・・・」
「もし君が忍としてネジさんのいる小隊で任務に出たとするね。そこで敵に人質を取られ、ネジさんを寄越さなければ人質を殺すと言われたとする。ネジさんは貴重な血族だからね。あり得ない話じゃない」
「・・・」
「もしその人質の方が里の機密事項を持っていた場合、君はネジさんを敵に差し出さなければならなくなるかもしれない。分家であるネジさんからは白眼の秘密は奪えないんだから、必然的にそうなるだろ」
「っ・・・!」
「そういうものだよ」

淡々としたサイの口調に私は身体を丸めた。サイはそんな私を横目で見たあと、フフッと笑った。


「そうだなあ。もしかしたらネジさんは、君にはいつまでもネジさんを選び続けていて欲しいのかもね」
「・・・・・・?」

その時、戸口が勢いよく開いた。



「・・・邪魔したか?」
「っ・・・ネジ!」
「いいえ、どうぞ連れて帰って下さいその人」

立っていたのはひどく不機嫌そうなネジだった。ネジは私の腕を強い力で掴んだあと、黙ってサイを見た。

「・・・・・・」
「僕は何もしていませんよ」
「・・・俺の女が世話になったな」

ニコッと笑うサイを一瞥して、ネジは私を夕闇の世界に引きずり出した。




「何よ!」
「お前こそどういうつもりだ!一人暮らしの男の家に上がりこんで!」
「サイは友達よ!ネジだってテンテンさんと二人で修行したりするじゃない!」
「・・・・・・」

私の罵声に、ネジはふっと手の力を緩めた。さっきまでの剣幕も溶けるように消えて、私を気まずそうに見ている。


「お前が出て行ってから今まで、テンテンやヒナタ様に相談していた。お前の真意が見えないと」
「・・・・・・」
「二人の意見は・・・・・・お前が、俺とよく一緒にいるテンテンやヒナタ様や他のくの一に焼きもちをやいているのだということだった」
「っ、」
「そうなのか?」

イライラした。ネジの静かな聞き方にも、図星が痛い自分の心臓にも。再び振りほどこうとしたけれど、ネジはまた私の腕をキュッと握った。ただしさっきより優しかった。


「・・・あのなあ。テンテンとは長年同じチームで組んできた仲だ。連携も一番取りやすい。ヒナタ様だって戦闘タイプが似ているのだから任務が一緒になることもあって当たり前だろう?」
「・・・わかってるもん」
「嘘だな」
「・・・!」

ネジはそのまま腕を引き、私をぎゅっと抱き締めた。ネジの体温と香りに包まれて、何故だか急に泣きそうになる。

「だから忍者になるなんてバカなことを言ったのか、俺とずっと一緒にいられると思って?」
「バカなことじゃないもん!真剣に考えたんだもん!」
「・・・・・・そうだな、俺が悪かった」
「!!」

ネジは優しく、赤子をあやすように私の背中をポンポンと叩いた。大人だ。ネジは、こんなにも大人だ。私がわがままを言っただけなのに。私が困らせただけなのに。温かい涙が自然とあふれ、ネジの服を少し濡らした。


「でもな、お前には悪いが、俺はお前に忍にはなって欲しくないんだ」
「・・・なんで?」
「そりゃあ」

ネジは私の耳元で、慈しむようなとろける声で囁いた。


「お前が任務になんて出たら、俺は心配で任務どころじゃなくなるんだ。お前のことばかり気にかかってしまうからな」
「っ・・・ネジ・・・!!」
「俺のために、忍になるのは諦めてくれないか?」


返事の代わりに、思いっきりネジに抱きついた。






「なんで入れてくれないのよサイ!私は話を聞いてくれたお礼をしたいだけで・・・」
「しばらく近寄らないでくれるかい?厄介な相手に完全に目の敵にされたからね」


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