鳴り続けるインターホンの音で、私はうっすらと目を開けた。部屋の中は真っ暗で布団の外の冷気が顔を刺した。時計を見るとまだ4時になったばかりだ。思わず目をしばたいた。

こんな非常識な時間に・・・と腹を立てながら、「ハイハイどちらさま・・・」とドアを開けた。するといきなり屈強な腕がにゅっと割り込んできたかと思うと、途端にガバッと抱え上げられた。


「っ!!??ちょっ・・・なんなの降ろしてよ!!」
「申し訳ありませんが、しばし静かにしていて下さい。ご近所の方々がまだお眠りになっていますので」
「は!?」

そのスーツを着た大柄な男は私を軽々と抱えてスタスタ歩く。どうしようこれ、拉致!?混乱して慌てていたが、角を曲がったところに停めてある、この住宅地には似つかわしくない長く黒光りするベンツを見て一気に頭が冷えた。


「失礼します。坊っちゃま、お連れしました」
「ああ、ご苦労だったな」


スーツの男は私を降ろして大仰な仕草でベンツのドアを開けた。予想通り、朝から気品ただよう偉そうな泣きボクロのヤツが私を見てニヤリと笑った。


「驚いただろ、あん?」
「一体どういうことか説明してくれますかね」
「元はと言えばお前が悪いんだ。入れ、冷えるぞ」


そう言って跡部は私を車内に引っ張り込んだ。温められた空気が身体に浸透する。すぐに車は走りだし、私は自分がパジャマにサンダル姿なのに気付いた。

「ちょっと!せめてまともな格好したいんだけど!」
「安心しろ。後で何でも買ってやる」
「そういう問題じゃないの!恥ずかしいの!」
「ほう?どういう問題だ?」


自分だけ高そうなコートを身を包んだ跡部はジロリと私を睨んだ。え?


「てめえ、携帯に全く気づかなかっただろ」
「・・・・・・?」
「ったく・・・せっかく俺様がいの一番に祝ってやろうとしたってのによ」
「祝・・・アーッ!まさか!!」

この騒動ですっかり頭から抜け落ちていた。今日は私の誕生日だ!!

「うそっじゃあ跡部電話してくれたの?ごめんモンハンやって寝落ちしてた」
「・・・そんなことだと思ったぜ。この俺を彼氏にしておいて大した度胸だなホントに」
「ほんとにごめん・・・あっ、でもこんな時間から外出してたら親に怒られるよ!うちの親が厳しいの知ってるでしょ?」
「心配ねえ」

跡部は不敵に足を組み直した。

「お前の両親は既に了承済みだ」
「え!?あんな頑固な親をどうやって・・・」
「・・・所詮、人間はブランドものには弱いからな」
「ハイ!?買収!!??」
「嘘に決まってんだろ」

跡部は小さく吹き出しながら私の額に軽くデコピンした。普段あまり見られない子どもっぽい表情にドキリとする。


「他ならぬお前の両親なんだ。男なら正攻法で口説き落とすしかないだろ」
「・・・・・・跡部・・・」
「それにこれは前から決めてたことだしな、・・・着いたぜ」


辿り着いたのは街を一望できる小高い丘だった。スーツの人がうやうやしくドアを開けて私が出るのに手を貸してくれた。凍てつく寒さに震える私に、跡部が自分のコートを被せた。跡部の温もりが残っていて、身体の芯がじんわり熱くなった。

「着とけ」
「ありがとう・・・なに?ここ」
「・・・お前がこういうシチュエーションがいいって言ってたからな」
「は?」
「見ろよ、朝焼けだ」
「え?・・・うわー!」


ちょうど朝日が昇る頃合いだった。太陽の光が街を染め上げる見たことのない美しさに耳が高鳴った。薄暗い世界が一気に明るくなったみたいだった。ふと、こんな場面見たことあるな、と思った。


「もしかして・・・跡部、一緒に耳をすませば見たの覚えてたの?」
「俺が忘れるわけねえだろ」
「・・・これ、聖司くんの真似・・・っ!」

不意討ちだった。一瞬、跡部が素早く私の唇を自分のソレで塞いだ。アイスブルーの瞳が、美しく歪められた。

「言っとくが、別に全部真似るつもりはねえぞ」
「・・・」
「俺はこの場で結婚してくれなんて言わねえ」
「・・・・・・!」
「俺がもっと、お前を貰うのに相応しい男になったとき、言わせてもらう」
「跡部・・・」


なに、それ。それもうプロポーズじゃん。突っ込みたいのに、頬がゆるゆる弛んで仕方ない。跡部はフンッと鼻で笑った。


「お前はもっと大変だぞ、今よりさらに魅力的になった俺の隣にいなきゃなんねえんだから」
「大丈夫、その頃には慣れてる」
「・・・お前が生まれてきてくれて良かった。誕生日おめでとう」
「っ」


またいきなり!カッと熱くなる顔を誤魔化すために、頬に手を当ててみた。それを見た跡部が、少し迷ったように自分のポケットに手を差し込んだ。


「それと、これは・・・樺地からだ。お前が欲しがってたの覚えてたみたいだぜ」
「なに・・・?うわー毛糸の手袋!刺繍上手すぎ!可愛いー!」
「・・・・・・」
「あったかい!何よーこんなの預かってるなら早く出してよね!寒かったんだから!」

急に跡部が困った顔になった。僅かにむくれている。

「?どーしたの?」
「プレゼントも、俺が一番に渡したかったんだよ。だけどお前は服が欲しいって言ってたし、服ってのは本人が選ぶのが一番いいしな。お前が寒がってたから出したまでだ」
「えっ・・・」
「それに手袋したらお前、俺と手を繋ごうって言い出さねえだろうが」
「・・・・・・」



私、この跡部がプレゼントなら他に何もいらない。





凍華に贈りました。お誕生日おめでとう!
20101211
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