「「「えええっ!?」」」

驚いたのは私たち三人だった。いきなり何を言い出すのだこの男は。美女三千人の誘惑にとち狂ったの!?

「ちょっネジ、どういうこと?普通に考えてあたしか名前でしょ!?だいたい潜入任務に一人だなんて危険すぎるわ!」
「ネジ、後宮というのは女の人が入るところです!」
「そんなことは分かってるよ」

ネジは少し苛々したように答えた。

「だからこそだろう。女がムザムザ行くには危険すぎるということだ」
「それが木ノ葉の里の上忍と中忍でも?私たちだって潜入任務の経験くらいあるわよ!」

なおもテンテンが食ってかかる。ネジは厳しい顔をした。

「あのな、後宮のセキュリティは甘く見てはいけない・・・。そうですね?」
「あ、ああ。入るときの身体検査は厳重です」

族長が答えた。

「分かるかテンテン。お前の忍具どころか巻物さえ持ち込めない。その身体一つで行くしかないんだ。言いたくはないが有事の際にきっとお前は本来の力を出し切れない」
「うっ・・・」

テンテンが悔しそうに唇を噛み締めた。途端にリーがシュバッと挙手した。

「ハイ!僕はネジと同じくこの身体一つで勝負出来ます!!」
「・・・・・・忍術も幻術も使えないお前に潜入捜査が向いているとでも?」
「そうでした・・・」

もう我慢出来ない。ガクッと気落ちするリーを他所に、私はネジの前に身を乗り出した。

「私は!?」
「・・・・・・」
「知ってるでしょ?私は幻術タイプよ!武器も要らない。この身体一つで行ける!!」
「だから、お前は女だからだ。何かあったら一生出られなくなる。後宮は国家組織とも言える。万が一のことがあったら木ノ葉も簡単には手が出せない。潜入だからバレたらこちらが圧倒的不利だ」
「私がそんなヘマすると思うの?それを言うならアナタは男よ!普通に考えて一番不向きでしょ!」

なんだかネジが変だ。こんなの木ノ葉の上忍同士の会話じゃない。


もしかして、見くびられている?そう考えたとき背筋を嫌な汗が伝った。ネジは私を一人前の上忍と認めていない?最初の研修であんな失敗をしたから・・・・・・この任務は私には荷が重いと、そう思われているとしたら・・・

両目から涙が滲みそうになるのを堪えてネジを見つめ続けた。ネジは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「とにかくお前は行くべきじゃない・・・俺なら変化の術で何とかなる」
「残念だが変化の術は無理です」

族長の言葉に私たちは動きを止めた。ネジは「どういうことですか」と眉間に皺を寄せた。

「後宮に入ったときに、妃たちはとある液体を吹き掛けられます。一見ただの水ですが、実は忍者や幻術をこそげ落とすものなのです」
「・・・!」
「術が使えなくなるわけではありませんが、もしその妃が変化や変わり身をしていた場合、即バレます。これが後宮のセキュリティの一部です。この椎家発の技術です」
「そんなことが出来るんですか?」

テンテンの疑問にリーが答えた。

「そういう成分を持つ水がどこかにあってもおかしくないです。ナルトくんの話では仙界にも自然エネルギーを取り入れやすくなる不思議な液体があると聞きますし」
「その通りです。椎家の学者は世界中に散って、それぞれが独自の研究をしています。ここが交易の国なのも上手く作用しているのです」

学者が誇らしそうに頷いた。しかしこれで後宮にまともに潜入出来るのは私だけということになる。ネジが黙っていなかった。

「椎家考案の技術なら・・・それをかいくぐる方法も既に開発されているのでは?」
「・・・・・・」

凄むネジに学者はたじろき、不安そうに族長へと視線を動かした。

「あるんですね?」
「・・・・・・」
「お断りしておきますが、これは椎家のための任務です。隠しだてに益があるとは思えません」
「しかしそちらのお嬢さんは問題無く潜入できるはずだ」

族長は私を見た。私はその眼差しを受け止めて、ネジを睨みつけた。心の中には彼に信用してもらえない虚しさが渦巻いていたけれど、態度にはおくびにも出さなかった。


ネジは諦めたようなため息をついた。

「そこの娘は行かせます」
「!」
「ですが、なおのこと俺も行かなくてはいけません。彼女を一人で行かせるわけにはいきません」

ネジの目は強かった。私は「自分は一人で行こうとしたくせに」という言葉を飲み込んだ。


「・・・一族秘伝の薬があります」

族長は絞り出すような声で話し始めた。

「製造に時間も費用もかかる貴重な薬です。私たちが秘薬と呼んでいるその薬は、一時間だけ自分の性別の特徴を目立たなくさせることが出来ます」
「え・・・?」

ポカンとする私たちに、「ゴホン」と咳払いした学者が懐から鈍く光る緑の丸薬を取り出した。嵐の日の海の色に似ている。

「つまりこれを飲むとですね、女性は胸が平らになって男性はまあ喉仏やら諸々が無くなるわけです。ああご心配なく、一時間したら元通りですから」

私たちが青くなったのに気付いたのか学者はそう付け加えた。族長は重々しく頭を垂れた。

「効果は短い。しかし後宮に入るときに妃嬪が義務付けられている沐浴には間に合います。この時妃は女官に着物を全て預けねばなりません。ネジさんの体型ならスレンダーな女性として通るでしょう。後宮に入って少し経てば機会を見て変化の術も出来ましょう」
「・・・・・・」

想像を絶する苦難にネジが蒼白になっているのが分かった。リーはおろおろしていて、テンテンはあろうことか吹き出すのを肩を震わせて耐えている。私はネジの心境を思って気が気じゃなかった。想像がつかないがかなりの試練のはずだ。同時にネジにそこまでさせているのは自分なんだ、と辛くなった。


やがてネジはノロノロと口を開いた。

「・・・飲みましょう」
「「「!?」」」
「分かりました。では一錠だけお譲りします。ホレ」

族長に言われて学者は丸薬の入った小瓶をネジに授けた。ネジは頬の筋肉を痙攣させながら受け取った。


「・・・お気をつけ下され。後宮はあなた方の思う以上に危険です」

族長は一度頭を下げた。

「今の後宮はここ数年で一番変です。皇帝が変わって、確かに何かが起きています」
「ご心配なく。木ノ葉の里に賭けて、全力を尽くします」

ネジが言うと、族長は少し表情を綻ばせた。

「かたじけない。実は今回嫁ぐ予定の二人には私の娘もいました。ネジさんと名前さんに娘も深く感謝するでしょう。琳享様については明かされる情報が少なく、その素性さえまだ―・・・」

「リンキョウ?」

私は首を傾げた。

「リンキョウ様とはどなたですか?」
「おお、これはすみません。ご存知無かったですか」

族長は学者に筆を取らせて私たちに漢字を示した。

「琳享様は、我が国の十七代目にして現在の皇帝―――お二方が嫁ぐ陛下です」


琳享。
澄みきった玉を表す琳に、供物を捧げ受け入れるという意味の享。


私とネジは、しばらくその二文字をじっと見つめていた。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -