日吉はこんなに背が高かっただろうか。ぼんやりとそんなことを思った。涙で滲む視界いっぱいに日吉が映る。
彼はハンカチを差し出した。
「取り敢えず拭いて下さい」
「か、樺地くんに言われて来たって――?」
「・・・一言『後悔、することになる』って言われたんです。さっき。それで急いでここに来たんですけど俺の話してるから入るに入れなくて」
「跡部さんと樺地にハメられた」と日吉は悔しそうに言った。よく見れば額にうっすら汗をかいている。走って来てくれたのだ。
「はは・・・跡部たちには敵わないね」
「先輩も先輩だ」
「え?」
「俺は先輩が思ってたこと、こんな風に跡部さんを通して知りたくなんてなかった。先輩に直接言って欲しかった」
ドクン。
日吉が私の頬に手を添える。少しひんやりした日吉の体温。彼の目は切なげに揺れていた。
「一人で迷走しないで下さいよ」
「・・・」
「俺は先輩が俺のことを負担に思ったんだとばかり・・・いきなり別れを切り出されたらそう思うでしょう」
「そうだね、ごめん・・・」
「まあ最後まで聞かずに飛び出した俺が悪いんですけど」
日吉、日吉。
・・・若。
「と言うか先輩は俺を見くびりすぎなんです。何ですか冷めるって。先輩は俺に対して冷める気でいるんですか?」
「違うよ!」
「そもそもこんなことで冷めるような相手と俺は付き合いません。確かに距離は煩わしいですけどね。お互い様でしょう」
「お互い様・・・?」
「そう。俺だって先輩が困るのは嫌だ。何よりも嫌です。自分の不安なんかよりずっと」
あっと目を見開いた瞬間日吉に抱きすくめられた。0距離で感じる日吉の肩の広さ、体温、しなやかな身体。ダメだ耐えきれない。心臓爆発する・・・!
「日吉、たんま・・・!!」
「大体先輩は遠距離恋愛したことあるんですか?あったらしばき倒しますけど」
「なななな無いです!」
「なら下らないこと想像するもんじゃないですよ。俺は先輩が好きで先輩は俺が好き。それでいいじゃないですか」
「・・・うわああああ!!」
「ちょ、ちょっと!何故さらに泣くんですか!」
「若!大好きー!!」
「っ・・・!!」
抱きしめられている時日吉の身体が少しだけ震えていることに気づいた。日吉も不安だったんだね。私達は結局相手の迷惑を考えるばかりで、自分を隠してばかりいたんだ。
だけど、きっともう大丈夫。
「あ、跡部さんが週一で拐わせてくれるらしいんで遠慮無く拐いますよ」
「!ちょっとそれ本気・・・!?」
「使えるものは先輩でも使う。当然です。下剋上には関係が無い」
(この子の将来が心配・・・)
end