イメチェン(仁王) | ナノ


その日、立海大付属中に激震が走った。




「キャアアアアアアア!!」
「「!?」」

冬の冷気が冴える月曜日の朝。突如聞こえてきた女子たちの金切り声に、宿題の見せあいっこをしていた私と丸井は飛び上がった。

「なっなんだ今の!?」
「さ、さあ・・・外から聞こえた?」
「・・・なんもねえぞ」

窓から外に頭をつきだした丸井は首を傾げている。でも確かに昇降口の方からした気がする。それに、なんかまだ


「ねえ、叫び声・・・近づいてこない?」
「えっ「キャアアアアアアア!!」

やっぱりだ。丸井の声がかき消えるほどの黄色い歓声が、徐々に階段を這い上がるようにこちらに近付いてくる。教室にちらほらいる生徒もみんな不思議そうに廊下に出たりしていた。一体何なんだろう。あれ?こちらに近付いて・・・?



ガラッ

「っ・・・・・・!」


その時、息を切らしながら真っ赤な顔で教室に入ってきた男にみんな視線が釘付けになった。


「・・・キャアアアアアアア!!」
「うっ、ここもか・・・」


突如沸き立った女子たちにうんざりしたようにため息を吐いたソイツは、ポカンとしたまま動かない私たちにプッと噴き出した。

「お前さんら、なんちゅー顔しとる」
「・・・・・・」
「だって仁王・・・お前なんで髪が黒いんだよ!!」


丸井の言ったとおり、仁王の白銀の髪は真っ黒になっていた。後ろの尻尾まで綺麗に染まっていて、漆黒の前髪から鳶色の目が覗いている。もはや別人だった。

「ふー・・・朝から散々な目にあったぜよ」
「さっきの叫び声の原因はこれだったのかよ。ヅラ?」
「違う違う。昨日親父の上司が家に来ることになって、不良息子と思われるとかなんやかんや言われて姉貴に染められたんじゃけど、絶対遊ばれとる」
「わっマジだ地毛じゃん!」
「コラ引っ張るのはやめんしゃい」


仁王は私の斜め前の自分の席に着き、マフラーを外して疲れたサラリーマンのように軽く肩を回した。それからB組の前の廊下にわんさか集まってきている女子たちに軽く舌打ちする。頬が赤くなっているのは寒さと、どうやら女子たちから逃げるのに走ってきたせいもあるらしい。その赤みが肌の白さと髪の黒さと相まって、なんだか無性に色っぽい。

息を乱していた仁王は暖房の効いた教室が暑いのか、ブレザーを脱いでシャツの襟元を弛めようとした。そしてなぜか不意に上目遣いになりながら私を見た。


「それはそうと、お前さんはなんで固まっとる?」
「、っ!」


下から顔を覗きこむように見上げられ、心臓がまな板の上の鯉のように跳ねた。そんな私を見て丸井はほくそ笑んだ。

「そう言えばお前黒髪フェチとか言ってたっけ?」
「ばっ・・・ちが!」
「いやいや違わねえだろい。俺はしかとこの耳で聞いたぜ。赤毛のあんたなんか恋愛対象外って直に言われたからな!」
「ふーん、それは面白いことを聞いたのう」
「げっ」

仁王は自分の黒くなった髪にチラッと目をやったあと、妖艶にニヤリと笑ってみせた。その仕草一つ一つに平常心でいられなくなる。見ないようにしようとしても目が離せない。

「まさかおまんにそういう性癖があったとはな。道理で柳や真田を追っかけ回したりジャッカルに髪伸ばせって脅したりしとったわけじゃ」
「な、なんのことやら・・・あと性癖って言うな!!」
「ひどいのう・・・ないがしろにされて俺は深く傷ついたぜよ」
「嘘!絶対嘘!そんなしおらしい演技しても騙されないから!」
「お、どんどんほっぺが赤くなっとる。やっぱり黒い髪が好きなんじゃろ」
「違う!断じて違う!自意識過剰もほどほどにしてよね!!」




ええそうですよ黒髪フェチですよ悪いですか!!!とは悔しいので絶対言えない。仁王なんか昨日まで全然意識してなかったのに!正直今の仁王は好みすぎて辛い。いつも通りに接することが出来ない。

大体なんで仁王が斜め前の席なの!?やけに横顔が視界に入って授業に集中出来ないじゃん!と思ったとき、力んだせいでシャーペンの芯が勢いよく折れた。もう今日だけで三度目だ。


・・・・・・授業中に仁王を盗み見てる自分も相当きもいんだけど、こうして改めてみるとやっぱり仁王ってカッコいい。友達ノリだと気づかないようなふとした挙動にドキドキさせられる。
例えば問題を解く真剣な顔とか、気だるそうな欠伸とか、口に入った髪を払う動きとか。今まで気にも留めてなかったのに、急にこんな風に思うなんて変だ。


「、あ」
「っ・・・!?」


やばい。流し目の仁王と目が合った。慌てて黒板を見ていたフリをしようとしたけど、それより早く仁王がバチンッとウインクをした。長い睫毛が恐ろしく映える。

「!!!」

情けないことに気が動転してペンを取り落とした。自分でも真っ赤になっているのが分かる。仁王と言えば声を殺して笑っていて、私が睨むと自分の唇に人差し指をのせてみせた。「静かに」の合図だ。誰のせいだよ!


「・・・ん?」

仁王がコソコソと前の席の男子に話しかけている。学級委員長の眼鏡くんだ。普段別に仲良くしてる様子でもないのに・・・まさか


「っ!!!」


次に振り返ったとき、仁王は委員長の黒縁眼鏡をつけていた。悪戯っぽく笑う仁王を見て、私はもうどうしたらいいのか分からない。ちょっと仁王、調子乗りすぎ・・・

「・・・ちゅっ」
「っ・・・・・・!!!!」








「おっブンちゃん見てみんしゃい。アイツついに鼻血出しとる。可愛ええのう」
「ええっ引くだろ・・・お前一体何したんだよ」
「眼鏡かけたまま自分の手首にチューしただけ」
「・・・・・・確信犯だな」
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