お腹で私を受け止めてしまった白石くんは「うっ・・・」っと苦しそうなうめき声をあげる。

「ちょ、大丈夫!?」
「・・・・・・」

慌てて白石くんの上から降りようとしたのに、どうしてだか目の前据わった白石くんに腕を掴まれてしまって、動けない。

「え?白石く・・・」
「このっ・・・」
「は?」


「このドアホ!!」
「ひっ」

思わず肩を竦めた。白石くんは今まで見たこともないような険相で私を睨んでいる。

「なんで自分一人でこんな危ないことするんや!俺が来るまで待っとったら何にも心配いらんかったのに!」
「ごめんなさ・・・」
「も、柵の上に立っとるの見たとき心臓縮んだわ・・・」
「!?」

今度はシュンと萎れた顔になった。つらそうに俯きながら、白石くんは口を開いた。

「俺のこと嫌いなら嫌いでも別にええねん」
「っ、」
「けど、それでも自分が大変なときくらい頼ってくれんかな。無茶するくらいやったら、俺に一声かけるくらい・・・それくらいもあかんの?」


・・・なんで。

なんで私にそんなこと言うの。なんでそんな泣きそうな顔をするの。なんで。なんで。なんで




「なんで私に優しくするのっ・・・」
「・・・え?」
「・・・せっかく嫌いになろうとしてたのに」
「・・・・・・」
「す、好きにならないようにしてたのに!」
「!」

今度は私が俯く番だった。それどころか意思に反して涙が後から後から頬を流れ落ちていた。嫌だ。こんなのは嫌なんだ。

「わっ私なんかが白石くんを好きになっても望み無いから、そうならないようにしてたのに・・・!嫌なとこ探して、ずっと心の中で念じてたのに」
「・・・・・・」
「き、気まぐれで優しくしないでよ」
「・・・・・・」
「白石くんなんかだいっきらいだ・・・!!」

白石くんの膝の上で泣きじゃくりながら、白石くんなんか嫌いだと言う私ははたからみてなんて間抜けなんだろう。こんな風にして自分の本音と向き合わされるなんて。白石くんの表情を見る勇気が無い。早く帰りたい。


「もういいでしょ、醜態見せてすみませんでしたね」
「・・・なあ」
「いいよ。今まで通りに生きていくから気にしないで。白石くんみたいな完璧な人どどうこうなりたいなんてつゆほども思ってないから」
「はあ?・・・ちょっと落ち着きや」
「ぎゃっ」

白石くんに頭を耳ごと両手で挟まれ、ぐいっと目を合わせられる。予想外にも白石くんはトマトみたいに赤かった。頭を打ったのか。

「なあ、それって・・・告白?」
「え゛っ」
「やってそうやろ?俺を嫌いになろうとしたけど結局好きなんやろ?」
「っ・・・!」

うわあああ!そうだよ!さっきのまるで告白じゃん!白石くんは茶化したりせずに真剣な顔をしているけど死にたくなった。私ってほんと厚かましい・・・

「あの、不愉快な思いさせてすみません忘れて「忘れへん」

白石くんがそっと私の頬に触れた。な、なんだこれっ・・・。そして不思議なことに、白石くんはさらに顔を朱に染めていた。

「自分が気になっとる子に告白されて、なんで忘れなあかんの」
「、は?」


ちょ、
ちょっと待って。白石くんの日本語わかんない。


「今なんて・・・?」
「せやから、気になっとる」
「何を?」
「何?やなくて誰?な。もちろん自分に決まっとるやんか」


い、いやいやいやいや!どうしよう、私を庇って白石くん頭のネジ落っことしたみたい・・・


「こら、信じとらんな」
「信じるも何も」
「どうしたら信じてくれるん?」
「や、だってこんな凡すぎる女に白石くんがなんて・・・」
「凡?なんで?かわええよ。っちゅーかそんなん関係ないやろ、好きになったら」
「!!??」

ダメだこの人、どこまでが本当なのか分からない。


「だってそんな、きっかけもないし」
「・・・きっかけは、なんかこの子俺にそっけなくないか?って思ったことなんや。明らかに避けられとるから俺が何かしたんかって考えたけど、特に思い当たる節がなくてな」

そんなものあるわけがない。白石くんは照れくさそうに頭の後ろをかいた。可愛い仕草だけど白石くんほどの美形がやると迫力がある。


「そうやって気にしとったらなんやどんどん気になってきてん。どうやったらまともに話してくれるやろーって考えて、いっつも自分の姿探すようになった」
「え・・・?」
「授業中に寝てもばれん角度研究しとるとことか、ノートに描いた先生の落書きが全く似てへんとことか、学校に入ってきた猫にお弁当の残りのチーズやっとるとことか」
「いや何で知ってんの!?」
「・・・全部、可愛いく見えてきて」


言葉を失った。「・・・これめっちゃはずいな」と頬を染めている白石くんが、私の目の前にいるってことが信じられなくて。夢だと思って頬をつねると、それを見た白石くんが吹き出した。


「・・・あとな、俺完璧なんかやあらへん。やから凡とかほんま関係ないで」
「えっ白石くんが完璧じゃなかったら完璧な人なんていないじゃん・・・!」
「どういう理屈やねん」


でもま、君らしいわ と笑う白石くんは、今度は両手で私の手を包みこんだ。ドクン、ドクン。拍動の速さが全身に伝わって、白石くんとも融け合っているような錯覚を覚えた。


「やって俺、好きな子の前では全然強気になれへんし、空回って落ち込むばっかやもん」
「なっ!」
「俺も一応自分の前ではええかっこしいやし」
「・・・・・・」
「やから、自分には俺の嫌なとこやなくて、好きなとこを見つけてほしいねん。あかん?」

ドキュン。小首を傾げながらの「あかん?」に心臓を撃ち抜かれる音がした。やばい、これは・・・完全に好きになってしまった。反抗したくても、とろけるような笑顔の白石くんに見つめられたら何も言えない。でも今でも頭のどこかで夢じゃないかと思っている。


だけど白石くんの心配は杞憂だ。だって私が白石くんの嫌いなところだと思っていたものは、全部好きなところだったんだもん。


「ふっ・・・えぐっ・・・!」
「わっ、何で泣くん?!幸せなシーンちゃうの?」



でも一個嫌いなところがあるよ。



私を泣かせて喋れなくなるくらい骨抜きにする、君の優しすぎるところ、嫌い。









「お姉ちゃん、ふうせんくれる?」
「「あっ」」




12万打踏んで下さったなつさんのリクエストでした。甘・・・?
リクエストありがとうございました!
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