成績は悪い。
運動も苦手。
顔もスタイルも良くない。
性格だって褒められたもんじゃない。

そんな私にとって、成績優秀でテニス部部長・スタイル抜群の良心的長身イケメンなんてのは、どんなにいい男でも妬ましい。無い物ねだりだってことは重々承知している。でも、気にくわないものは仕方ない。



「おーい!そっち終わったか?」
「っ!」
「はは、なんでそんな驚いたん?」

学校指定の芋ジャーを華麗に着こなす白石くんは、右手に大きなゴミ袋を携えながら、しかし信じられないほど爽やかに私に手を振った。ハハハハ〜と精一杯の苦笑いで応えると何をどう捉えたのかこちらにスタスタとやって来た。やめてもらいたい。

「だいぶ綺麗になった気がせん?」
「そそそそうですね・・・」
「おっ自分も掃除頑張っとるやん。偉いなあ」
「、どうも・・・」

白石くんは清々しそうに公園をぐるっと見渡したあと、いっぱいになった私のゴミ袋を見てアイドルばりの微笑みを放った。眩しすぎる。陰険でモグラみたいな私には強すぎて身体が悪くなりそう。そもそも私が掃除を頑張っていたのだって、早く白石くんと離れたいからなのに。


思えば神様がよほど意地悪だったんだ。私は昨日たまたま担任に指示されてクラスメイトの白石くんと二人で重い荷物を運んでいた。すると廊下で人にぶつかって、よろけた拍子に飾ってあったの壺にぶつかってしまい・・・早い話が割ってしまった。

それはどうやら高い壺だったらしく、担任は私に放課後一週間の校外清掃を命じた。その時、なんと白石くんは「俺にも責任はあります。彼女だけやるんはおかしいです!」と部活もあるのに清掃を買って出たのだ。そして現在に至る。


どこまで出来た人なんだ。何でもできて、人望もあって、こんな私にも優しい。出来すぎで逆に嫌味だ。白石くんなんか・・・


「大丈夫か?」
「っ、」

ふと見ると白石くんが心配そうに私と同じ高さになるよう屈んでいた。不意討ちの同じ視線に、心臓が一気に落ち着かなくなる。

「・・・・・・もしかして、具合わる「ギャアアアアア!!!」・・・」

気がつけば額に伸ばされた手を思いっきり振り払っていた。ハッと我に返ると、視界いっぱいに傷ついた顔の白石くんが映った。


やばいっ・・・


「しら・・・」
「・・・・・・馴れ馴れしくしてゴメンな。ちょお顔洗って頭冷やしてくるわ」
「っ・・・!」

無理矢理笑っているとすぐ分かった。ゴミ袋を置いて踵を返す白石くんの姿に身体の内側がズキズキと痛みだした。だけど私は呆然と立ち尽くしたまま。

どうしよう、傷つけた。白石くんなんか気に入らないけど、でも、あんな優しい人を傷つけた。どうすればいいんだろう。誰か教えて。誰か、



「だれかー!」
「えっ?」

いきなり背後から咽び泣く声がしてびくっと肩をすくめた。振り返ると五歳くらいの男の子が顔を真っ赤にして泣いている。側に親はいないみたいだった。

「ど、どうしたの?」

戸惑いながらも、さっき白石くんがしてくれたみたいに男の子の側にしゃがみこんだ。男の子はしゃくり上げながら自分の頭上を指差した。

「ふうせん、木にひっかかっちゃった・・・」
「あっ」

確かに木の枝の間にしっかりと青い風船が挟まっていた。三メートル半くらいの高さにだから木登りが出来ればなんてことないんだけど、木の幹が太い上に私は木登りが出来ない。


なにか、なにか無いのかな・・・


「あっ!」
「・・・?」
「ほら、そこに滑り台あるでしょ?あれに登ってお姉ちゃんが取ってあげるよ」

木から二メートルくらい離れたところにある滑り台はちょうど風船があるくらいの高さだ。あそこから手を伸ばせば何とか・・・

「でも木からけっこうはなれてるよ?」
「大丈夫大丈夫!落ちても死ぬわけじゃないし」
「・・・・・・」


不安そうな男の子を尻目に勢いよく滑り台を登った。でもさすがに手を伸ばしても届かなかった。思いあぐねていると、下から泣き顔で見上げる男の子と目があった。


・・・よし、かくなる上は

「お姉ちゃん危ないよっ!」
「へーきっ・・・」

そろそろと滑り台の柵に足をかけた。ぐらぐらするけど、こちらまで伸びている木の枝を掴めば、いける・・・気がする。

よろよろと立ち上がって枝伝いに手を伸ばす。身体を目一杯使ってぐっと手をつきだすと、右手が風船の紐をしっかりと掴んだ。

「取れたっ!!」
「危ない!!」
「あっ」


足が滑った。落ちる瞬間、男の子がぎゅっと目を閉じるのが見えた。


瞬間、ドシンッと鈍い音がした。


「ぎゃー!」
「っ痛・・・!」
「あれ、痛くな・・・ってえええええ!!??」


な、な、なんで!?

真っ逆さまに落下した私は、何故か白石くんの上に仰向けに着地していた。



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