寂しがりの泣きそうな夜(我愛羅) | ナノ


人の温もりに免疫の無かった我愛羅がことさら不慣れだったのは男女の愛だった。なんと私が初恋らしい彼は明らかにその感情をもてあましていて、はじめは顔もまともに見てくれなかった。

手を繋ごう。私が勇気を出してそう言った日から、彼は二人きりのとき砂を纏うのをやめてくれるようになった。それが我愛羅にとってどれほどのことだったのか想像もつかない。直に私の手に触った我愛羅はぽつり、「あたたかい」と呟いた。我愛羅だって、想像してたよりずっとあたたかかったよ。

初めてキスをしたときは大変だった。勝手の分からなかった我愛羅が私の唇の端を噛んでしまい、流れ落ちる血を見て彼は真っ青になっていた。何度大丈夫だと説明しても謝るばかりで、結局私も彼に同じことをしなくてはならなくなった。他人の血液を口に含むのは初体験だった。私我愛羅と血液型違うけど大丈夫だったのかな。


我愛羅を支えているという自負がある。我愛羅の中で日に日に私の存在が大きくなっていくのを感じる。我愛羅の愛はまるで生涯を懸けているかのように重い。だからこそその気持ちがはち切れた時が怖い。例えば私が戦死したら彼はどうなってしまうんだろうか、とか。




「待たせてすまない」

「、我愛羅」

「会議がかなり長引いてしまって。寒かっただろう」

「平気だってば私体強いし」


我愛羅は何も言わず私の首にマフラーを巻いた。私が昨日彼の家に忘れていったやつだ。家が近いのでポストにでも突っ込んでおいてくれたらいいと言ったけど、我愛羅は直接返すと聞かなかった。今日はずっと仕事が立て込んでいたはずなのに。待ち合わせをしていた公園のベンチに二人並んで腰かけた。群青色の空に星が瞬きはじめている。マフラーから、仄かに我愛羅の匂いがした。


「我愛羅髪伸びたね。切らないの?」

「そのうちな」

「私が切ってあげようか!?我愛羅はやっぱりベリーショートのが似合うと思うんだよね!」

「・・・・・・いい」

「ちょっ!何で!」


「まだ耳は失いたくない」と我愛羅は私に向けて小さく微笑んだ。言ってることは酷いが無防備なその笑顔にキュンとする。昔はそんな顔絶対にしてくれなかった。我愛羅といるとこんなにも胸がポカポカする。私もだいぶ変わったみたいだ。


「あー、我愛羅といると落ち着くよ」


こてんと我愛羅の肩に頭を乗せると、彼は不思議そうな顔をした。


「?どしたの?」

「・・・そうか?」

「何が?」

「俺といて落ち着くのか?」

「え、うん」

「そうなのか」

「何?何でそんな意外そうなの?我愛羅は私といても落ち着かない?」

「俺は・・・」


我愛羅は気まずそうに私の頭と反対側を向いた。


「俺は、お前を前にすると、緊張して胸が苦しくなるばかりだ」


「っ・・・!」


もう人目なんか構わない。思いっきり抱きついてやろうと思ったときだった。


「っ!」

「・・・我愛羅?」


我愛羅が顔を背けたまま急に硬くなった。何があったのだろうとそちらを向いて見ると、


「あっ・・・」

「・・・・・・ども」

「・・・・・・」


そこにいたのはたまたま通りがかったであろう私の元恋人だった。砂の忍で、もちろん我愛羅も彼を知っていた。我愛羅と目が合ってしまったのか、その場から縫い付けられたように動かない。我愛羅も食い入るように見つめ続ける。

元カレは考えていることが全て顔に出ていた。忍として風影という立場の我愛羅を無視するわけにもいかず、かと言って何と言えばいいのかも分からず。困った挙げ句中途半端に笑みを浮かべた彼を見て、我愛羅がにわかに殺気立ったのが分かった。

「我愛羅っ・・・!」


思わず我愛羅にしがみつく。我愛羅を信じてる。けれども正直気が気じゃなかった。元カレも尋常ならぬ気配を感じたのか咄嗟に身構えた。何でこんなことに。




しかし、


「・・・・・・」

「・・・我愛羅?」


我愛羅はフイッと彼から目をそらした。その瞬間の彼は彫刻のように無表情だった。一礼してから慌てて立ち去る元恋人を目の端で見届けてから、私は我愛羅の顔を覗きこんだ。


「我愛羅・・・」

「大丈夫」

「・・・・・・」

「大丈夫だ」


我愛羅は不器用に微笑みながら、彼の服を掴んだままだった私の手をそっと握った。長く細く、白いその指を、一本一本確かめるように私の腕に這わせた。あたたかかった。あたたかかったけれど、小刻みに震えていた。私も今にも泣き出しそうな気持ちを必死に堪えた。ああ、私はこの人を、一生守って生きていこう。




企画サイト誰かのに提出させていただきました。素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!


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